高野家住宅 (たかのけじゅうたく) 重要文化財



 JR中央本線塩山駅のすぐ北側に、辺りを睥睨する巨大な木造建築物があります。これは甘草屋敷と呼ばれる旧高野家住宅の建物で、塩山駅も元々高野家の敷地だった場所。電車の窓からも良く見えます。この高野家の主屋は1953年(昭和28年)に国の重要文化財に指定されており、重文民家としては6番目のごく初期に指定された建物で、昭和30年代に相次いで指定されていったフォークロア的な民家建築の保護に先駆ける、代表的な民家建築の一つです。高野家は代々幕府に薬用の甘草を栽培し収めていた家系で、建物前の甘草園では今でも甘草等の薬草が作られており、季節の折々には花々が敷地内に彩りを添えています。

 

 主屋は19世紀初頭の建造とされていて、巨大な棟を配した切妻構造に、傾斜のきつい屋根に茅葺型銅板を敷いてあります。元々は茅葺だったのですが、1960年(昭和35年)の改修の際に保存の為に現在の姿に変わりました。南面中央には二段構造の突き上げ屋根を設けていますが、これは上層部で養蚕をしていたので採光と煙り抜きの為と、物見櫓の兼ね合いがあった模様です。この形式は甲州では良く見かけられるもので、甲州型とも呼ばれています。
 また妻側の壁面は白漆喰に構造体の木部をシンメトリカルに美しく浮き立たせており、松島の国宝瑞巌寺庫裏にも似た、規模の大きく壮大な桃山建築の趣も見られます

 

 大きさは桁行24.8m奥行10.9mの三階建てで、内部は一階が東半分を広い土間が占め、西半分が床上に六間取りの平面構成。土間境に傾斜のきつい階段があります。この手の農家建築は土間が高く吹き抜けるパターンが多いところ、ここは二階以上が養蚕や甘草の作業場となるので天井がちゃんとあります。急勾配屋根が共通している合掌造りや兜造りと同じ傾向。
 部屋は10畳から15畳までの大部屋が並びます。最奥は奥座敷と仏間が並びますが、奥座敷に床の間は無く仏間にあり、役人が来た場合は仏壇前の襖を閉めて正統的な書院造の部屋として使われていたとか。

 

 

 この座敷周りは縁側越しに池に太鼓橋も架けられた瀟洒な庭園も広がり、幕府直轄の家業らしく格式の高い接客空間が備えられているようです。

 

 土間の階段脇に太い大黒柱があり、そのまま二階三階をブチ抜いて屋台骨を支えています。またこの大黒柱が天然の巨木をそのまま屹立させており、煙の煤けも相まって黒々とした逞しい姿で、二股に分かれているあたりも陽物信仰的な野性的でエロチックな趣があります。

 

 一階の囲炉裏で火を焚くことによって、この二階と三階で養蚕と甘草の乾燥を行っていたようで、その道具・装置が展示されています。

 

 敷地内には文庫蔵・巽蔵・土蔵と3つの蔵があり、さらに馬屋・長屋・小屋・地実棚等の作業用の施設が並んでおり、何れの施設も全て国の重要文化財の指定を受けています。これらの施設で甘草作業の工程が立体的に判り易く紹介されています。

 



 「薬草の花咲く歴史の公園 高野家住宅」
   〒山梨県甲州市塩山上於曽1651
   電話番号 0553-33-5910
   開館時間 AM9:00〜PM4:30
   休館日 毎週火曜日 年末年始