高梨氏庭園 (たかなししていえん) 名勝
醤油の町と呼ばれる千葉県野田市、町のあちこちにキッコーマンのプラント工場が林立し、町全体が微かな香ばしい醤油の匂いが漂う静かな町。江戸初期より醤油の精製が始まったそうで、昔ながらの趣のある街並も残されていたりします。町の中心部は区画整理があまり行き届いてなく、道が入り組んで少々迷路状になっており、黒壁・蔵・レンガ倉庫・キノエネ醤油の古い工場など、そこかしこに醤油関係の古い物件が点在しているので、ノスタルジームードのオリエンテーリングには向いているかもしれません。
上花輪地区にある上花輪歴史館もそんなレトロ醤油物件の一つ。キッコーマンの創業者一族である高梨家の御屋敷を公開したもので、約三千坪の敷地に江戸期から昭和初期までの建造物と庭園があり、国の名勝にも指定されています。一般の町人の居宅が名勝の指定になったのはここが初めてだとか。表通りに冠木門を開き、その奥に堂々とした立派な長屋門を見せる姿は、近在の庄屋だった当家の格式の高さを示しています。
高梨家は江戸期に上花輪村の名主を務めた旧家で、江戸初期の寛文年間に醤油の醸造を当地で始めています。野田の醤油製造における中核的な存在として成功を収め、その財力によって今に見る御屋敷が構えられており、広大な敷地に門長屋・主屋・書院・離れ・茶室・蔵・馬廻し等が点在する大豪邸が展開しています。この御屋敷は建築自体よりもその環境が特に優れており、掘割に囲まれた屋敷林に様々な建造物が溶け込むように構成されていて、自然と一体化した景観を持つことから名勝に指定されたのでしょう。
建造物で中心となるのは門長屋の奥に構える主屋。木造平屋建ての数寄屋造りによる住宅建築で、明治後期から昭和初期にかけて順次改築されています。玄関の隣には洋間もあります。
主屋から背面に渡り廊下で書院と残月亭・寒雲亭と呼ばれる離れが繋がっており、書院は江戸後期の1806年(文化三年)に建造された数寄屋風の造りです。この書院の前は芝生に飛石を規則的に整然と配した近代的な意匠で、周囲には松や柏の庭木が植えられてあります。とても平明とした洗練された庭園です。
この主屋や書院のある一画とは築地塀で分けられて、敷地の西半分に森が広がります。築地塀を挟んで東側が住居、西側が森といった構成で、この森の中に「眺春庵」という茶室があります。江戸末期に建造された六畳に畳床の付いた下座床の席で、南面と西面が障子戸で解放されており、特に西面には手摺付きの広縁も付くので眺望を楽しむ為の茶室だったようです。眼下には江戸川の長閑な田園風景が広がっていたようですが、今は何も見えません。
森の中には祠や馬頭観音に船着場等が点在していて、独特の風情を見せています。築地塀の東側は近代和風住宅建築を中心とする戦前の上層階級の洗練された瀟洒な御屋敷ぶりが見られますが、西側は近世の名主だった頃の封建的で土着な一面が見られており、この差異が見所の一つでもあります。
古来「北に山、西に森」という構成が江戸期における御屋敷のベースの考えとなっていたようで、ここでも書院の奥に大きなタブノ木が”北の山”を、築地塀の西側に広がる雑木林が”西の森”として忠実に法っているようです。
「上花輪歴史館」
〒278-0033 千葉県野田市上花輪507
電話番号 04-7122-2070
開館時間 3月・10月〜12月第1週 AM10:00〜PM4:00
4月〜9月 AM10:00〜PM5:00
休館日 月・火曜日 12月中旬〜2月 8月