台徳院霊廟門 （たいとくいんれいびょうもん） 重要文化財
埼玉西武ライオンズのホームグラウンドといえば所沢の西武ドーム、でそのドーム球場の道路を挟んで対面に狭山不動寺なる寺院があります。このお寺、建立が1975年（昭和50年）と新しくしかも開基が堤義明で、毎年ライオンズの必勝祈願を行い、お隣には康信寺という寺院もある（堤康次郎由縁？）西武グループまみれのお寺。元々旧ユネスコ村の敷地だった一画を、寛永寺の住職と仲が良かったから造ったそうで、ちょっと生臭い匂いも漂ってきそうです。
今では廃墟と化しているユネスコ村は、オランダ風車があったように遊園地と植物園とたてもの園が合体した複合的なレジャー施設で、そのゴッタ煮的な野暮ったさが西武ならではですが（とてもテーマパークとか洒落たものではない）、日本全国の歴史的建造物が移築されており、そのブロックだけユネスコ村から切り離して宗教法人化したのがこのお寺です。一説によると脱税対策とかいう話もありますけど、実際にインサイダー取引でパクられてましたからね。
西武グループといえば鉄道事業者というよりは不動産事業がメインで、全国にホテルやゴルフ場・スキー場などのリゾート開発事業を展開していますが、その土地購入の際に建てられてあった歴史的建造物を移築したのがユネスコ村となるわけで、因みにこの不動寺のすぐ側にはメリーゴーランドやシミレーションシアター等がありました。ちょっと異様な光景でしたね。
西武ドームを正面に臨むように山門が開かれていますが、この山門自体が歴史的建造物の一つで、元は芝増上寺の徳川家霊廟にあったものです。増上寺には徳川将軍家の墓所があり、二代秀忠・六代家宣・七代家継・九代家重・十二代家慶・十四代家茂の壮麗な霊廟や墓所が建ち並んでいましたが、1945年（昭和20年）の東京大空襲で焼失し残されたのは門だけ。戦後になって堤康次郎が徳川家から跡地を買収して東京プリンスホテルを建てることになり、焼け残った五棟の門の内三棟の門を旧ユネスコ村内に移築したというわけです。
この三棟の門はいずれも二代将軍秀忠と夫人の江の方の霊廟にあった門で、秀忠の戒名である台徳院（たいとくいん）霊廟門ということになります。この台徳院霊廟は数ある霊廟建築の中でも最高峰クラスの規模・技術・意匠で造営されており、日光東照宮と相前後して造られていることから、徳川将軍家の威光が最も強かった時代が反映されているのでしょう。
霊廟は総門を入って進むと、石垣上に霊廟の正門である勅額門が置かれていたようで、移築先のここでは山門となっています。建造は1632年（寛永9年）で、屋根が切妻造りの銅瓦葺による四脚門。将軍家の門らしく漆塗りに極彩色の紋様が描かれており、豊かな彫刻や飾り金具打ちも見られる華麗な装飾性の強い意匠です。
正面上部の頭貫が途中で切断され、左右の柱から持送りで支える特異な構造で組まれており、その切断された中央部に「勅額門」の由来となる御水尾天皇の扁額が掲げられています。国重要文化財指定。
この勅額門を潜って石段を上がると、今度は正面に次の門が現れます。こちらは霊廟奥院の前にあった御成門で、屋根が切妻造りの銅瓦葺に大きさが桁行二間奥行一間の妻入りとなります。建造は1632年（寛永9年）。
華やかな極彩色で彩られた勅額門に対してこちらは朱漆塗りとなり、組物間や妻壁に夥しい数の金箔押の彫刻を嵌め込んでいます。また格天井の中央には飛天が描かれた鏡天井となり、朝鮮渡来の天人門とも呼ばれています。国重要文化財指定。
もう一つの門はちょっと判りにくい場所にあり、本堂の裏手の一段下がった箇所にポツンと置かれています。こちらは江の方（崇源院）霊牌所の通用門で、丁子門と呼ばれています。屋根が銅瓦葺による平唐門で、大きさが桁行一間奥行一間と他の門に比べて少し小振りな造りです。建造は1632年（寛永9年）。
こちらは黒漆塗りを主体とし、上部の屋根裏や虹梁は朱漆塗りとして組物や精緻な彫刻に極彩色を施したとてもコントラストの強い門で、彫刻の金が良く映えています。脇の花頭窓もちょっと異色の意匠です。国重要文化財指定。
いずれの門も将軍家の門らしく豪華で格調高く、まるで工芸品の様な際立つ技巧を見せていますが、それぞれ極彩色・朱漆塗り・黒漆塗りなど細部の意匠に違いが見られており、比較して見るのがお薦めでしょう。
本堂も京都東本願寺の七間堂を移築したものでしたが、放火であえなく焼失。面白いのは多宝塔が二つもあることで、東側の第一多宝塔は大阪府高槻市の畠山神社にあった桃山期の、第二多宝塔は兵庫県東條町の椅鹿寺にあった室町中期のをそれぞれ移築しています。第一多宝塔が埼玉県指定文化財。
「狭山不動寺」
〒359-1153 埼玉県所沢市上山口2214
電話番号 04-2928-0020
