拾翠亭 (しゅうすいてい)
京都御所の周りには、かつてやんごとなき御歴々のお住まいが立ち並ぶ公家屋敷が形成されていました。そんな上流階級の高貴な街並も明治の御世になってからは、東京遷都に伴い多くの公家も東京に移住した為に、御所と幾つかの門などを残して荒廃していきました。今は下賜されて国民公園の京都御苑として園地化されて庶民の憩いの場として機能していますが、公家生活の一端に触れられる遺構も残されています。御苑南部の丸太町通り沿いに建つ拾翠亭(しゅうすいてい)も数少ない遺構の一つ。九条池の畔に優雅に佇んでいます。
この拾翠亭は五摂家の一つであった九条家の別邸として建てられたもので、江戸後期の建造。九条家はこのあたりの敷地1万坪余りを所有していたそうで、拾翠亭の東側に広がる九条池もその名残りであり、かつては鴨川の水を引いていました。建物は敷地面積40坪に二階建ての数寄屋造りで、二階の屋根は入母屋造り、一階は寄棟に一部柿葺きの外観。
一階の内部は十畳の書院風の広間と七畳半の控えの間、そして広間の北側に三畳中板入りの茶室の構成で、十畳の広間には池に張り出すように広縁が付けられています。十畳の広間には炉も切られているので、池を眺めながらの茶事も行われたのでしょう。池に臨する開放的で明るい典雅な空間です。
茶室は屋根が柿葺きの三畳中板の構成で、北東角に躙口を開けて、その正面に台目床を設けています。この床柱には百日紅の太い物を使用しており、この拾翠亭の周りに多く見られ樹木です。東側に大きく窓が開けられていますが窓の数が少なく壁の色も黒いので、昼でもかなり薄暗い小間となっており、明るい広間に対比してより内省的な静寂した空間です。
二階は十一畳半の書院風の座敷一部屋で、座敷には踏込床に戸袋と書院窓が作られた瀟洒な趣の空間。外部には縁側が周され、縁高欄と呼ばれる手摺が取り付けられています。ここから見られる外の景色は風光明媚で美しく、かつては東山も望めたそうで、借景式の庭園だった模様です。この建物の由来となった翡翠も多く飛来していたことでしょう。
「拾翠亭」
〒602-0881 京都府京都市上京区京都御苑内
電話番号 075-211-6364
拝観時間 3月1日〜12月27日までの金・土曜日のAM9:30〜PM3:30
葵祭・時代祭・春秋の御所一般公開日も同時刻に公開