三条の湯 (さんじょうのゆ)



 三条の湯は温泉旅館ではありません。純然たる山小屋です。美人女将もいないし仲居の気の利いたサービスも当然なく、女体盛りやパ二オンのオネエチャンもいるわけがない、消灯時間が夜の9時と言う怖い山番のオヤジが運営するストイックな山小屋です。さらには温泉といっても10℃の源泉を沸かせており、尚且つ多摩川の水源域ということで石鹸・シャンプー類が一切使用できないので、ちょっとお風呂に浸かれる程度の山小屋と思った方が無難です。湯船も小さく異常に混みますので、車で来た日帰りのハイカーは、小菅の湯かもえぎの湯に入るのがお薦めでしょう。

 

 それでもこの三条の湯はロケーションがとても素晴らしく、雲取山直下の深い原生林に覆われた深山幽谷の地で、奥秩父らしい濃密な森が広がります。辺り一帯はブナやシオジ・カツラの大木による照葉樹林帯に囲まれ、多摩川の水源でもある清流が渓谷となって森を縫っており、その川瀬にはキャンプ場も設営されています。GWや紅葉時期の週末になると小屋は中々に混むので、テントの方がお薦めかもしれません。新緑や紅葉の頃は絶景です。

 

 

 この三条の湯を起点とする山歩きでお薦めなのが飛竜山へ辿るコース。お近くの雲取山とはまるで正反対の山で、まず人気がないので雲取山の喧躁さから逃れて静かな山旅が味わえますし、カヤトの防火帯による尾根道で明るい開けたイメージの雲取山に対して、こちらは神秘的な深い深い奥秩父の原生林に覆われて山頂も展望が効きません。さらには整備されて歩きやすいコースの多い雲取山に対し、倒木は多いわ崖っぷちの危なっかしい木の桟道が続くは、中には崖下へ崩落していたりと荒れ放題。大きな岩もゴロゴロしていて、決して歩きやすい道では無い所が、このルートの醍醐味でしょうか。

 

 でもこの飛竜山、花の名山でもあり特に新緑の時期がお薦め。沿道にはトチノキの白い花が咲き誇り、トウゴクミツバツツジの群落が見られ、なによりも稜線にはアズマシャクナゲの大群落が広がります。足元はとてもおっかないけれど、この時期には辿る価値のあるコース。

 

 

 雲取山の懐に抱かれた山小屋ですから山頂へも比較的短時間で登れます。もし後山林道が車両通行可能な時でしたら、林道終点に駐車して三条の湯を経由してピストンで5時間ほど。東京都心から日帰りも充分可能です。
 三条の湯を出て一旦三条沢を渡る為に下りますが、その後は樹林帯の登りになります。青岩鍾乳洞の分岐あたりまでは結構キツイ坂道が続きますが、後半はラクな登りやすい広い道です。殆どが視界のない原生林の道ですが、中途で奥秩父主脈縦走路が見渡せる開けた場所があり、印象的な三ッ山の山容や飛竜山の特徴的な稜線が眺められ、やがて稜線の三条ダルミに到着します。

 

 

 三条ダルミは奥秩父縦走路との合流点で、ここからは富士山も気分よく目前に広がります。ここから雲取山頂までは40分程の急登となり、最後のひと踏ん張り。あせらずゆっくり行きましょう。
 雲取山頂は南北に細長く意外と広いです。石尾根のカヤトがそのまま山頂まで続くので、富士山も遮る物もなくダイレクトに眺望が望めます。

 





 「三条の湯」
  〒409-0300 山梨県北都留郡丹波山村2079
  電話番号 0428-88-0616