後楽園流店 (こうらくえんるてん)



 岡山の後楽園は藩主池田家の庭園だった場所で、隣の岡山城とは橋一つでダイレクトに繋がります。いわゆる殿様の庭道楽で造られた庭園なので、その内容はかなりバラエティに富んでおり、舟遊びやら能舞台やら弓道場やらタンチョウの飼育だとか、なんでもアリアリの多種多様に亘るユニークな構成です。当然武家社会では茶道も嗜むのがそのステイタスでしたからこの苑内にも茶室や数寄屋建築が色々と造られており、「茂松庵」「廉池軒」「島茶屋」「茶祖堂」等の茶室が点在しているのですが、これらの茶室の大半はわりとオーソドックスな草庵風の造りなのに対して、ただ一つ傾向が他とは異なる物件が流水の畔に佇んでおり、その名も「流店(りゅうてん)」と呼ばれているちょいとユニークな建物があります。

 

 この流店は建築年代が明確でなく、おそらく江戸後期のものと推定。大きさが桁行4間奥行3間で、屋根が寄棟造りの柿葺による木造二階建ての建物です。殿様の休息所として設えたそうで、そのせいか壁や扉の無いフルオープン状態となっており、四方八方どこからでも出入り可能。意匠はシンプルこの上なく、板敷きの床に棹縁天井を支える細い角柱が並ぶだけで、2階へ上がる階段もありません。天井に梯子を取り付ける穴があるだけ。とにかく庭の眺望を楽しむ為だけに造られたので、柱も細くして視界の邪魔になるものは一切排除しています。

 

 

 この流店の最大の特徴はなんといっても建物の内部を水路が走っていること。苑内を緩やかに蛇行する水路がこの流店の手前で分岐し、一本が流店の内部に入りもう一つがバイパスされてその畔を流れて、内部を流れた水路とまた合流しています。つまりこの建物は川の岸辺と中州の間に架けられており、夏の川遊びのような趣向があります。足湯にも見えますが。おそらく蒸し暑い西国の夏を過ごす為に、こうした納涼感の強い建物が造られたようで、足で感じる水の冷たさ、流水の音、吹き抜けていく風等、冷茶でも飲みながら五感で楽しんでいたのでしょう。乙で風流な建物です。

 

 内部の水路には青・赤・紫の大小6個の川石が置かれており、京都加茂川から取り寄せたものとか。この石の配置も禅寺の石庭の如く絶妙です。

 

 



 「岡山後楽園」
   〒703-8257 岡山県岡山市後楽園1-5
   電話番号 086-272-1148
   FAX番号 086-272-1147
   開園時間 4月1日〜9月30日 AM7:30〜PM6:00
         10月1日〜3月31日 AM8:00〜PM5:00
   休園日 年中無休