六郷 (ろくごう)



 東北地方は森と水の国。ブナの原生林が広がる白神・森吉・鳥海・月山・朝日・飯豊や、オオシラビソにヒバなどの針葉樹林帯が続く八甲田・八幡平など、広大で深く豊かな森が延々と連なる地域。その森がたっぷりと湛えた清冽な水が、奥入瀬渓流や透明度第二位の田沢湖に、幻の魚タキタロウの棲む大鳥池などの美しい渓流や湖沼を作り、他の地域では見られない神秘的な美しい光景を作り出しています。その森が連なる東北の脊梁にあたる奥羽山脈の中でも、一際人の踏み入れない地域に和賀・真昼山地があり、マタギの聖域とも呼ぶべき深い深い原生林が今でも静寂を保っています。この真昼岳の麓に広がるのが湧水群で知られる六郷という田舎町。冬場のとんでもない量の豪雪を天然の濾過器で浄化して、たとうえようもない程の綺麗な水を、町のあちこちでボコボコ湧き出しています。
 六郷町は大曲と横手のちょうど中間地点にあたり、ここらへん一帯は美味しいお米の取れる所。稲穂垂れる豊かな田園地帯に背後に真昼山地を抱えたこの町は、ウリになるものが”水”だというわけで、今は”水”関係で町おこし中。中心部の観光情報センターに行くと、湧水群巡りのガイドマップと無料のお茶のサービスもあります。

 

 町自体はそんなに広くないのに湧水箇所は60箇所あまり。住民の方々はその湧水を昔から日々の生活に利用していたそうで、飲料・炊事・洗濯と日常の水がらみは全部こなしていたとか。もちろん公共財なので清潔に大切に利用しているようです。ちなみにこの町に水道は今でも走っていない模様。観光情報センター裏の小道を東へ進むと程なく現れるのが「御台所清水」。領主の佐竹家の殿様が鷹狩りに来た時に、ここの湧水で食事の支度をしたことから命名されたそうで、本当に透き通るような綺麗な水。今でも近所の人が野菜を洗いに来たりしてるようです。エビも生息しているとか。

 

 観光情報センターの裏道を今度は西へ進むと、こんもりとした雑木林の中に「藤清水」があります。水辺に藤が多く自生することから名付けられたそうで、裏手が諏訪神社の境内なので杉林に囲まれたほの暗い泉。ここもエビが生息中。

 

 観光情報センターのすぐ裏手にあるのが「キャべコ清水」。キャべコとは方言で男性の○○○○。ということで大小三つの丸い泉がその形式に並んでいます。

  

 町中心部の商店街の一番端っこに古ぼけた工場があり、その敷地内に「ニテコ清水」があります。アイヌ語でニタイ(森林)、コツ(水たまり)からなまって名付けられたそうで、古くから名水の誉れ高い湧水。ここの水で大正時代から「ニテコサイダー・ラムネ」を製造販売していて、町のあちこちでも買えます。最近では流しソーメンと天ぷらソーメン定食がメインのレストラン「ニテコ名水庵」も登場しました。

 

 

 町内この他にも「紙漉座清水」「馬洗い清水」「座頭清水」「大工清水」「鷹匠清水」など、命名に色々と由来のある湧水が数多く点在。「ハタチヤ清水」「ニテコ清水」「神清水」等には、氷河時代の生き残りと呼ばれる「ハリザッコ」が生息してています。この「ハリザッコ」は正式名は「イバラトミヨ」という名の淡水魚で、澄んだ水でないと生息できないそうなのですが、秋の渇水期になると幾つかの湧水が干上がるので、保護されて冬を越す模様です。
 そしてこの町のもう一つの特徴はお寺が多いこと。秋田藩祖の佐竹義重が隠居所としていたことから、菩提と防御の面から寺を多く集めたそうで、町内27箇所の寺が開かれています。特に商店街裏手の寺町通りは直列に九つの寺が並び、鬱蒼とした木立に囲まれて粛然とした趣が立ち込めています。

 

 

 町には当然観光客目当ての施設が色々あって、多目的施設「湧太郎」、手作り工房「湧子ちゃん」等立派な建物で営業中ですが、何処も閑古鳥。秋の三連休の行楽日和でも訪れる人は疎らなので、このまま格差社会の中で埋没していかないことを祈るばかりです。緑が多く静かで良い町なのですが・・・。

 



 「六郷観光情報センター清水の館」
   
〒019-1404 秋田県仙北郡美郷町六郷字本道町22-4
   電話番号 0187-84-0110
   FAX番号 0187-84-3553