奈良家住宅 (ならけじゅうたく) 重要文化財
東北地方の代表的な民家の形式として、「曲家」と「中門造」の二つがあります。双方ともにL字型の形状で、外観は非常によく似ているのですが、地域性と機能性とに大きく違いが見られ、全く別の形式のものです。「曲家」は主屋から馬屋が突出して出来た構造で、馬産を奨励した岩手県の南部地方で多く見られる形式。一方「中門造」は突出部が玄関になり、日本海側の秋田・山形、それに新潟で多く見られる形式です。これは豪雪地帯での出入りを容易にする為に採用された構造で、座敷や馬屋を兼ねることもある多機能なスペースです。「曲家」のほうが馬屋という閉鎖的な空間の為に簡素な意匠ですが、「中門造」はその性格上多彩な面を見せることが多く、格式を示す為に大掛かりになるものも見られます。
秋田県には中門造の優れた民家が多く点在しており、秋田市郊外の金足地区小泉集落にある「奈良家」は、その中でも代表的な遺構です。この小泉集落近辺は八郎潟同様に男潟・女潟と呼ばれる湿地が広がる平坦な土地で、奈良家はこの土地の開拓をした豪農の家柄。元々は奈良の大和小泉の豪族で、中世末に当地に移住して治めたのが始まりとなり、土地の名の由来もそこから。この辺りは中々の景勝地で、高名なドイツの建築家ブルーノ・タウトも自著「日本美の再発見」の中で、故郷ドイツに似た絵画的な風景を賞賛しています。湖畔の静かな集落の奥に、黒塀に囲まれた広い敷地の中に奈良家の特徴のある建物が見えています。
この奈良家の特徴のある外観は「両中門造」と呼ばれる形式で、L字型の中門造にもう一箇所突出部を設けてコの字型に変化したもの。この場合の突出部はそれぞれ寝室と馬屋になることが多く、ここでも上手中門が寝室で下手中門は馬屋となります。この建物は宝暦年間(1751〜1764年)に建造され、大きさは桁行21.8m奥行12.7mの本体に、桁行6.4m奥行3.6mの上手中門と、桁行7.3m奥行9.1mの下手中門が付いたもので、屋根は寄棟造りに下手中門は破風の入母屋造りの茅葺き。二つの中門の接合部の屋根には谷が出来て雨水が溜まるので、ここに杉皮を葺いて雨樋の様に水路を作ります。
下手中門を入ると中は広い土間となり、中央に太い八角形の土間柱を立て、その上部を何段も組み上げた小屋梁で大きな屋根を支えています。規模が大きく立ちの高い屋根なので、巨木で架構を組むのではなくこのように幾層にも組み上げた小屋梁のほうが有効なのでしょう。この八角形の柱は野太く正八角形に鉋で仕上げられ、屋根近くまで突き上げています。
土間の入り口側は馬屋となり、その裏手は囲炉裏と竈。土間に囲炉裏がある例は珍しく、「地炉」と呼ばれる古いスタイル。作業しながら暖をとれるのは雪国らしい構成で、馬屋を暖める効果もあったのでしょう。
土間まわりには「いなべや」「からうす場」「だいどころ」が並び、作業場として機能していました。「いなべや」は転ばし根板の低い板床の部屋で、収穫した稲の収納場所。青森・秋田では多く見られます。「だいどころ」は今で言うダイニングキチンで、土間から一段高くなった床が板張りの部屋となり、ここにも囲炉裏が切られています。
土間上手は「おえい」と呼ばれる21畳の広間となり、家の中心となる空間でちょっとした接客場であり、主人がここで作業に睨みを効かせる勘定場でもありました。天井は高く差鴨居を嵌め、四角く仕上げた梁組みを交差して架けています。
この「おえい」の奥は座敷部となり、「かみざしき」「なかざしき」と二間が並びます。この「なかざしき」と「おえい」との間の板戸には鶴や竹林などの絵が描かれ、「かみざしき」と「なかざしき」との欄間にも繊細な意匠の透かし彫りが施されています。
「かみざしき」はこの家の最も格式の高い部屋で、畳床が付いた9畳の書院造り。仏間も付属しており、柱・床框・長押には面皮付を用いた瀟洒なもので、一年でも「ハレの日」などの数日しか使用されなかった模様です。
座敷部の外側は鍵の手に土縁を廻し、土庇の半分程の広さの木口縁を付け、土庇に柱を立てて格子を嵌められるようになっており、冬になるとここに板戸を入れて完全に閉ざされた状態になります。防寒と雪対策からこのような二重構造が採用されているのですが、冬以外の蔀格子を上下に嵌めた構成は非常に繊細な趣があり、京都栂尾の高山寺石水院や大徳寺孤篷庵の茶室忘筌席に共通する洗練された透けた美しさが感じられます。
座敷の南面と西面には石灯籠も据えられた瀟洒な庭園が広がります。実はタウトはあまりこの家を評価しておらず、当時はかなり改変があった模様で付属してハイカラな建物も繋がっていたようでした。戦後の早い時期に県に寄贈され嘗ての姿に修復され、今は県立博物館の分館として無料公開されています。国の重要文化財指定。
「奈良家住宅」
〒010-0116 秋田県秋田市金足小泉字上前8
電話番号 018-873-4121
開館時間 4月〜10月 AM9:30〜PM4:30
11月〜3月 AM9:30〜PM4:00
休館日 月曜日 年末年始