中家住宅 (なかけじゅうたく) 重要文化財



 大阪から和歌山へ鉄道を使って向かう場合、南海電車とJR阪和線の二通りの経路があるのですが、南海電車が海沿いのベイエリアタウンを貫いて走るのに比べ、阪和線はあまり街中を通らずわざと避けるように田畑の広がる郊外をタラタラ進みます。乗車してみると判るのがその客層の違いで、南海は海辺の漁師町だった名残か荒っぽいところが多分にあり、キヨとだんじりで御馴染みの岸和田もあってなかなかヤンキー。それに対して阪和線は関西でも屈指の農作地域の泉南の田園地帯を進むので、どちらかというと野暮ったい風情です。関東でいうと南海が京急で阪和線は常磐線みたいな雰囲気があります。その阪和線の関空行きの快速も停車する熊取は、泉南地域でも特に農業が盛んで、今でも特産品の玉葱や水茄子が多く生産される町で、温暖な気候で雨が少なく海が近いせいか夏に強い西風の季節風が吹く、全体的に乾いた埃っぽい土地です。溜池が異常に多く造られているのも、この気象条件によるものなでしょう。大阪市内天王寺から30分で、とてつもなくカントリーな気分に浸れることうけあいです。
 町中心部の豪農屋敷である中家住宅は、平安時代から当地に赴き一帯を統治した泉南地域を代表する旧家でした。中世には地侍として、江戸期に帰農して岸和田藩の代官や大庄屋として君臨し、その屋敷構えも周りに壕と高塀を廻らし、主屋に客殿・長屋門・郷蔵などが立ち並び壮観だった模様です。今は敷地も狭くなり、建物も主屋と表門を残すのみですが、近所に住む古老の話によるとこの表門と失われた長屋門の間にもう一つ門があり(おそらく中門)、壕と高塀の他にも松並木と生垣が周囲を取り囲んでいたそうで、まるでお城のようだったわ、とのことだそうです。ちなみにこの表門は三間の薬医門で、国の重要文化財指定。

 

 敷地のほぼ中央に位置する主屋は、17世紀前半に建造された規模の大きな木造建築で、国の重要文化財に指定されています。大きさは桁行24.5m奥行16.1m、外観は入母家造りの屋根が茅葺きの妻入りで、庇に本瓦を葺いたこの地方に多い錣屋根です。門を潜って主屋を仰ぎ見た時にすぐ目に付くのはその妻部に穿たれた家紋で、かつて平安期に後白河法皇が高野山行幸の時に当家に立ち寄り、その際に当家で甘瓜を献上したところことのほか喜ばれ、その甘瓜を家紋とするようにとのことから、右三つ巴の家紋となり、一番目立つ所に付けた模様です。
 この建物は結構複雑な形状をしていて、外観のあちこちに突出部があり、特に東側には少し出っ張った「渡屋」という部屋があるのですが、これは元あった客殿への渡り廊下が途中でぶった切れた部分で、一頃流行ったトマソン物件です。この「渡屋」の部分から南側をグルッと土庇が主屋を回り込み、太い軒や柱で支えて外観に重厚な趣を与えています。

 

 

 内部もかなり複雑な構成で、大雑把に言うと南半分が土間部で北半分が座敷部となるのですが、土間部と座敷部との間に喰い違い三間取りと呼ばれる、この泉南地方や紀ノ川沿いで多く見られる独特の平面が入っているので、床上部分は迷路状態となっています。まずその土間部の広さは圧巻で、全国でも有数のもの。建ちの高い建物なので天井は高く、柱を極力排除して太い梁や差物をかませて、豪壮な梁組みを見せて雄大な空間を造りだしています。
 この土間部で一番印象的な箇所は、大きく土間に張り出した板敷きの台所で、あまりにも広いせいか民家の台所というよりは、寺院の庫裏のような趣があります。土間におおきくせせり出してくるので能舞台をも彷彿させます。

 

 

 喰い違い三間取りというのは、台所とナンドと座敷がそれぞれ少しずつずらして構成される民家の平面で、比較的古い時代の様式です。この主屋もこの喰い違い三間取りを基本として、台所の奥に正8畳間のナンドがあるのですが、ややこしいのはその奥にさらに4畳のオクナンドがあり、このナンドとオクナンドの東側にそれぞれ正8畳間が喰い違いで並ぶ、把握するのに少々時間がかかる構成です。この8畳の座敷は非常に閉鎖的な部屋で、木割りも太く床まわりも簡素な意匠の、プリミティブな部屋。居間として使われていた模様です。それと柱が一間ごとに立つのも、古式ゆかしい意匠です。
 ナンドの西側に6畳の部屋があり、その北側に2間続きで8畳間が並びます。ここは上段の間で、台所から見ると確かに段が上がる形式。上段の間が2室あるのは豪農屋敷でも珍しい造りです。ここは古風で閉鎖的だった東8畳の座敷と違い、書院造りの瀟洒な部屋で、釘隠しや違い棚に繊細な意匠を持つのですが、後補された部屋らしくその為に意匠に差があるようです。この主屋はこれだけ規模の大きな豪農屋敷であるのに、他の民家で見られる洗練された意匠とはあまり無縁で、雄大な土間や閉鎖的な座敷などに原始的で逞しい土着性の力強さを感じさせます。

 

 

 元々敷地が広かったので、今は破却された建物が多々あるために、主屋の周りは少々殺風景にはなっています。かなり外れた場所に向唐門(国重文)があり、これはかつてあった客殿の賓客用の門だったものなのですが、この門の前へは一回表門を潜って敷地内に入らないと行かれず、また潜っても同じ敷地内に戻るだけという、何の為の門なのか判らなくなってしまったトマソン物件です。

 



 「中家住宅」
   〒590-0415 大阪府熊取町五門西1-10-1
   電話番号 072-453-0391
   開館時間 AM10:00〜PM4:30
   休館日 水曜日 12月30日〜1月4日 1・2・8月は土日祝日のみ開館