諸戸家住宅(西諸戸) (もろとけじゅうたく) 重要文化財



 桑名に豪邸を構える諸戸一族の御屋敷は、文化庁によると息子の造った東諸戸は旧諸戸家住宅で、父親の造った西諸戸は諸戸家住宅と表記されています。息子のが旧扱いなのは桑名市に寄贈されて六華苑という名で公開されているからで、父親のは今でも諸戸家が管理しています。ということで年中公開しているわけではなく、春秋の新緑と紅葉の時期オンリーに営業中。この二つの豪邸の周辺は諸戸姓の御屋敷や会社が立ち並び、諸戸一族の支配地なのだなと痛感します。
 その父親が構えた諸戸家住宅、後から造った息子の御屋敷より西にあるので、西諸戸と通称されています。初代諸戸清六は一代で米穀業により成功し、やがて山林王とまで呼ばれる全国屈指の大地主になった人物で、桑名の揖斐川沿いの敷地を購入したのは1884年(明治17年)の38歳の時。この土地は元々は尾張織田家の家臣だった矢部家の館跡で、その後江戸中期に豪商の山田彦左衛門が購入した代々セレブが住んでいた場所。矢部家の館は「江の奥殿」とも呼ばれる御屋敷だったそうです。そんな田園調布か芦屋みたいな場所を平民成り上がりの諸戸清六が買収して豪邸を構えるのはわりとありがちなパターンで、敷地内は和洋折衷の種々雑多な様々なスタイルの建造物が並ぶさまは成金趣味と言えなくもありません。
 敷地入り口には立派な大門が迎えてくれます。薬医門形式の重厚な造りで1894年(明治27年)頃の建造。国の重要文化財指定。その隣に道路に面してこりゃまた重厚な面構えの本邸が建てられています。用地取得の1884年(明治17年)から数年の間に建造されたもので、1889年(明治22年)に店舗として開業した建物。黒漆喰塗りの木造2階建てで、屋根は本瓦葺に一部桟瓦及び銅板葺きの寄棟造りです。これも国の重要文化財指定。

 

 この本邸ちょいと面白い構成を持っている建物で、正面はいかにも厳しい明治の商業建築なのですが、裏に回るとガラッと変って瀟洒な趣の洋館や茶室が付属する不思議な建物です。当初から商業空間と住居空間を合わせた構成で設計されており、正面の土間部が店となり太い格子窓に虫籠窓を開け、欅の一枚板による式台を設えた重量感溢れる業務空間。中央東西に走る土間の奥は家人の居室部で、落着いた座敷が並びます。2階は従業員の部屋だった模様。

 

 

 大門潜ってズンズン行くと現れてくるのが御殿。立派な車寄せを持つ玄関と座敷に洋館、そして渡り廊下で繋がる広間の構成で、1890年(明治23年)に着工し完成までに数年かかった建物です。国の重要文化財指定。玄関は当時の外務大臣だった大隈重信の指図により外務省の大広間を模したとかで、高い格天井に壁面や襖には胡紛で白波が描かれ寄木張りの床を張った21畳の大広間は、床上は和風でも床は洋風という不思議な空間です。
 このバカ広い玄関のすぐ隣に12畳半の書院があり、こちらは庭園を眺めながらの端正な書院造の座敷です。

 

 

 この玄関・書院棟から二本の渡り廊下と階段で繋がるのが豪壮な広間。1891年(明治24年)に上棟された大規模な木造建築で、桁行19.9m奥行12.9mの屋根は桟瓦及び銅板葺きの入母屋造り。内部は32畳の主室に24畳の次の間を配し、周囲三方に畳廊下と板敷き縁側で構成され、特に庭側の縁側は柱が一本だけ。この建物はやたらと床が高く、庭の眺望を楽しむことを第一としたことから極力柱の排除が行われたとか。主室も格天井に壁が群青色に金の霞雲をたなびかせたグレードの高い意匠で、政府要人も度々訪れていた模様です。
 この広間から見られる庭園は、広間と同時期に造営された池泉回遊式の庭。息子の東諸戸同様に汐入式で、揖斐川の水を取り込む方式ですが、息子のと同様に今はバッチイので止めています。池の形は琵琶湖を表しているとかで、そのため庭全体が近江八景を模しているとも言われていますが、山形県酒田の本間美術館にある本間家別邸の鶴舞園によく似ているとも言われています。

 

 

 敷地内の庭園はは本邸側と御殿側に大きく分かれ、本邸側は諸戸家が購入する前からあった旧山田氏林泉と呼ばれる景勝地だった場所。桑名きっての豪商だった山田氏が江戸期に造営された庭園で、その当時の建造物も幾つか残されています。本邸近くに佇んでいるのが推敲亭(すいこうてい)という茶室で、18世紀初期に表千家の覚々斎原叟の手により建造されたと伝えられる鄙びた草庵。菖蒲池の畔に建つので、やはり眺めを楽しむためか障子を外すとフルオープンの開放的な茶室です。

 

 菖蒲池の奥に建っているのが藤茶屋。藤棚を手前に並べたお茶屋で、6畳の座敷と4畳の茶室による構成。江戸期からあり、藩主もよく藤を見に訪れていたそうですが、太平洋戦争により戦災し今は戦後に復元されたもの。
 藤茶屋のさらに奥に山田氏が藩主を迎える為に造った御成書院があるのですが非公開。この庭園は菖蒲池を中心とした池泉回遊式で、伊勢が近いせいか伊勢物語のように池の中央に八ッ橋が渡してあります。昔は菖蒲でなくて杜若だったとか。八ッ橋のそばに蘇鉄山があります。これも江戸期からあったもの。

 

  



 「諸戸氏庭園」
   〒511-0005 三重県桑名市太一丸18
   電話番号 0594-25-1004
   FAX番号 0594-25-1040
   開園時間 春・秋 AM10:00〜PM5:00
   休園日 月曜日