モエレ沼公園 (モエレぬまこうえん)



 札幌の北部から北東部地域には沼が多い。石狩原野は三日月湖の宝庫で、石狩川が蛇行して出来た沼が札幌郊外にはあっちこっちにあります。札幌駅北東6kmにあるモエレ沼もそんな湿地の一つで、以前は使い道の無い役立たずの荒地だった為に、ゴミ処理場として市内から出るゴミが大量に埋め立てられていた場所でした。そのゴミ総量は270万トン。さすがに異臭・水質汚染・景観等でこれはマズイということになり、同時進行で園地化する話が出来て、片方でゴミを埋めて片方で公園にするという矛盾する手法を採用しながら、緑地化が進められていきました。ここまではまあよくある都市緑化のエピソードなのですが、園地化が進む1988年になって世界的な彫刻家のイサム・ノグチ氏がそのプランに加わり、公園全体をアートとする環境彫刻により設計を行って、2005年に開園した巨大彫刻作品のような公園なのです。そのスケールは膨大なもので、周囲約3.7km面積約189haの広大な敷地に山を盛り川を流し森を作って、アトラクションのように様々な施設を備えて来訪者を楽しませています。

 

 イサム・ノグチはいわずと知れた20世紀を代表する米国籍の高名な彫刻家。パリユネスコ本部の石庭やニューヨークメトロポリタン美術館のTUKUBAI等が代表作ですが、彫刻の分野に留まらず舞台装置や家具・造園とその守備範囲は広く、環境彫刻も手掛けているので公園の設計にも問題はなかったのでしょう。このモエレ沼の園地化にあたっては当初から賛同していたわけではなく、バブル真っ盛りの1988年に札幌市が招聘して市内各施設の設計を依頼した際に、視察でこのモエレ沼を自ら選択したことが始まりで、同年3月に着手し「全体をひとつの彫刻とみなした公園」というコンセプトによるマスタープランを同年11月に完成させました。がその一ヵ月後に急逝してしまい、その意思を次いで翌年から造成が始まり16年越しの年月を経て完成したというわけです。このあたりの経緯は公園内の東口すぐにある「ガラスのピラミッド」内3階のイサム・ノグチギャラリーにおいて、映像で詳しく紹介されています。このガラスのピラミッドはビジターセンターの役目も果たしており、公園内の案内や休憩所・レストラン・ミュージアムショップ・ホールと色々な設備があるので、まず最初にここを訪れてから公園内を探索するのが良いでしょう。ソフトクリームや生ビールも売ってます。

 

 

 そのソフトクリームや生ビールを販売しているコーナーを抜け、フレンチレストランの前を横切って裏口から外へ出ると、気持ちの良い芝生と良い香りのする唐松の林が広がります。このあたり思い思いに座り込んでソフトクリーム舐め舐めしているカップル多し。唐松林を通り抜ける明るい小径を進むとポッカリと森に囲まれた広場があり、その広場の中央には巨大な噴水口が開けられています。なんでもイサム・ノグチは噴水の研究をしていたそうで、マスタープランには直径48mの巨大な噴水を描いていたとか。没後はおそらくそのイメージに近いと思われるマイアミのベイフロントパークの噴水を参考に設計されたそうで、「海の噴水」と呼ばれるスケールの大きな水のショーが見られます。但し常時では無く、毎日15分〜40分を3〜4回程なので、ガラスのピラミッドで開始時刻をチェックしておきましょう。

 

 海にまつわる施設というと、もう一つこの「海の噴水」の北東側に「モエレビーチ」があります。傾斜の緩い擂り鉢状の人工海浜で、サンゴで舗装されたキラキラ光る美しい浜辺。夏にはプールとして開放されています。

 

 この「モエレビーチ」の周りには、約3000本のエゾヤマザクラが植えられた「サクラの森」が広がります。もちろん春がお薦めなのですがここは児童遊園にもなっており、イサム・ノグチ自身がデザインした大小様々な遊具120点が森のあちこちに配備されていて、遊びながら森の迷路を探検するという趣向にもなっています。シーソーやスライドマウンテン等の楽しい遊戯が並びますが、ユニークなのはピラミッド型の建物。実はこれはトイレで、園内を象徴するオブジェクトとしてのピラミッドが、色々な場所で見つけることが出来ます。

 

 

 「サクラの森」から西へ向かって一本の道が山の頂へ向かって伸びています。この山は「プレイマウンテン」で、東面は傾斜がなだらかな芝地ですが、反対側の西面は花崗岩を階段状に積み上げたピラミッド状になっており、「海の噴水」を挟んで南北にタイプの異なるピラミッドを置いたようになっています。イサム・ノグチが1933年に構想したアイデアとかで、特に西面には古代の野外劇場のような趣があり、何かイベントにでも使えそうです。東面ではグラススキーに興じている人がいました。

 

 

 この「プレイマウンテン」の西面下には「ミュージックシェル」と呼ばれる半球状の建物があります。ここは舞台になっており、やはり「プレイマウンテン」のピラミッド席を客席としてコンサートや舞踊のパフォーマンスが行われるそうです。裏側はトイレにもなっています。

 

 隣には直径2mのステンレス柱で構築された、「テトラマウンド」と呼ばれる巨大な三本柱のオブジェがあります。これもこの公園に共通するテーマであるピラミッドに因んだ形状であり、また園内東口の「ガラスのピラミッド」に対してここは西口になるので、対比させると共にそれぞれがゲートのシンボル的に設置されたのかもしれません。側に広場があるのでイベント会場にもなりますが、近所のヤンキー達がスケボーしてました。

 

 園内でなんと言っても一番目を引くのは東口近くに聳える「モエレ山」。標高62mは札幌市北東部では唯一の山らしく、国土地理院により三角点も置かれています。やはり形状はピラミッド型で、この公園に共通するテーマに倣ったもの。山頂は絶好の展望台で札幌市内はもとより暑寒別岳連峰や夕張山系も見渡せるスケールの大きなパノラマが広がります。テレテレの緩斜面なので、冬にはスキーや雪橇も可能だとか。

 

 

 この山頂で公園内を見渡すと、それぞれの施設が箱庭の様に一望できます。そのランドスケープのデザインは幾何学的であり、反復や対比を繰り返しながら巧妙に配置されています。そこにはイサム・ノグチが仕組んだ謎があり、その豊かなイマジネーションには感嘆するしかありません。

 



 「モエレ沼公園」
   〒007-0011 北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1
   電話番号 011-790-1231
   FAX番号 011-792-2595
   開園時間 AM7:00〜PM10:00
   休園日 年中無休