興福寺三重塔 (こうふうくじさんじゅうのとう) 国宝



 興福寺は近鉄奈良駅やJR奈良駅からのバスでのアクセスからか、北側から境内に入ることが多く、その為に国宝館や東金堂・五重塔周辺に参拝客が集中しがちです。神社仏閣は北側を表とする例はあまりなく、特に奈良の寺院は南向きに伽藍を構えることが多く、この興福寺も南側の猿沢の池から石段を登って南大門を潜るのが正式なルートなので、殆どの観光客は裏側から参拝することとなります。また興福寺は諸堂の伽藍構成にも特徴があり、南大門から中金堂への南北の軸線を中心にシンメトリーに配置されていて、中金堂の左右に東金堂・西金堂が建ち並び、南大門の左右に五重塔と三重塔が聳え立ちます。このうち五重塔は古都奈良のシンボル的な存在であり、東寺五重塔に次いで二番目に高い五重塔としてあまりにも著名な塔ですが、三重塔は南円堂の崖下にあってまったく目立たず、広くは知られていません。これも大半の参拝者のアクセスが北に寄ってしまう腸捻転によるものだと思われます。

 

 でもそのおかげで何時でも静寂が保たれており、奈良でも屈指の美しい塔を心穏やかに鑑賞することが出来ます。重厚で堂々たる姿の五重塔に比較すると本当に小さく、相輪までの高さは19.1mと五重塔の二重分しかありません(ちなみに五重塔は50.8m)。木割も細く華奢で繊細な印象を与えていますが、これは鎌倉前期に建立されたことからで、平安期の様式を踏襲して組まれているからです。一方の五重塔はお隣の東金堂と同様に室町期ですので、天平期の復興建築となり太古的な力強い外観となります。北円堂と共に境内最古の仏堂で、国宝に指定されています。

 

 初重は方三間で4.8m四方となりますが逓減がとても大きく、プロポーションがほっそりとしながら腰の低い安定感の高い外観で、それも優美な印象を与えているのでしょう。この初重と二重以上は構造・意匠でも厳然と分けられているようで、組物が二重以上が三手先なのに対して初重は出組だけとなり、また心柱も初重の上から立つ為に初重の内部は広いスペースが造られています。これを見ると初重を従来の仏堂としその上に二重の塔婆を乗せたような構成で、多宝塔に近いものがあります。逓減が大きいのも鎌倉期に多い多宝塔の影響があるからなのでしょうか?
 屋根が本瓦葺による和様の古風な佇まいは、古都に最も相応しい塔なのかもしれません。

 

 



 「興福寺」
  〒630-8213 奈良県奈良市登大路町48
  電話番号 0742-22-7755