向上寺三重塔 (こうじょうじさんじゅうのとう) 国宝



 山陽路の福山・尾道近辺は中世の折衷様建築物の宝庫で、国宝指定も四件と他の地域を圧倒しています。当時は瀬戸内海の水運が流通の大動脈でしたし、日明貿易船や朝鮮通信使もこの地域を抜けて往来しましたから、異文化に触れる機会も多かったでしょうからね。今のしまなみ海道がちょうどこのエリアにあたり、瀬戸内を東西に分断するゲートのような役割を果たしていたので、潮待ち港として発展していったようです。
 生口島にある瀬戸田もそんな古くから栄えた港町の一つで、この瀬戸田港を見下ろす小高い丘の中腹に、国宝物件の一つである向上寺三重塔が聳えています。この瀬戸田のランドマークであり、古くは水夫たちの燈台のような存在でもあったのでしょう。瀬戸内の島々をバックにする姿はまるで風景画のよう。

 

 向上寺は室町期の1403年(応永10年)に、三原の臨済宗仏通寺の修行場として庵が編まれたことに始まり、その後末寺として独立した寺院です。今は同じ禅宗でも曹洞宗に改宗しています。
 海沿いの傾斜地にあるせいか平地が少なく、漁師町の奥の長い石段を登りつめると小さな山門がお目見えし、さらに石段をつづら折りに進んで本堂の前に、そして聖火台の様な本当に長い急な石段を登って三重塔に辿り着きます。足腰の弱い方には過酷な試練ですがここは躑躅の名所でもあり、特に最後の石段はトンネル状態なので気を紛らせて登りましょう。秋の紅葉も見事です。

 

 1432年(永享4年)の建立された三重塔は、屋根が本瓦葺による方三間の外観で、相輪までの高さが約19m。山陽路に多い色鮮やかな朱塗りの塔で、明るい瀬戸内の海の青さに良く映えます。禅寺ということか折衷様式でも禅宗様を主体としており、桟唐戸や花頭窓を始めとして組物の斗栱に二・三層の高欄と一層軒の扇垂木などにその傾向が強く出ていますが、二・三層軒は繁垂木と和様で組まれています。禅宗様が強いのは日明交易が活発だった当地の唐物好みが由来なのでしょう。

  

 

 この塔は全国に数ある塔婆の中で最も華麗な装飾を纏っており、まず桟唐戸を吊る藁座は蓮の葉の形を、中備の蓑束には蓮弁を、肘木鼻や隅木下持送りに若葉のそれぞれ彫刻が施されていて、特に隅木下の姿は工芸品の様な趣があります。同じ禅宗様の強い折衷様式の尾道天寧寺塔婆にも見られる意匠で、このエリア独特のものです。

 

  



 「向上寺」
  〒722-2411 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田57
  電話番号 0845-27-3377