金鈴荘 (きんれいそう) 栃木県指定文化財



 栃木県の第三セクター真岡鉄道の真岡(もおか)駅は、旧国鉄時代には”もうか”の表記だった駅で、国鉄真岡線も”もうかせん”の名称でした。このあたりは古来綿の栽培が盛んな地域で、地名も木綿の花から”もうか”と命名されており、今でも真岡鉄道は別名”コットンライン”の愛称も持つように、明治の頃までは綿花の集積地として繁栄した町です。そのあたりの歴史が市中心部の真岡木綿会館で解りやすく紹介されていますが、その敷地の奥まった場所に木綿問屋として財を成した地元の資産家の御屋敷が残されており、無料で内部が公開されています。

 

 この御屋敷を構えたのは江戸期から続く呉服商だった二代目岡部久四郎で、本邸ではなく接待用に拵えた別邸です。迎賓館的なものですから生活感皆無の施設で、約千坪の敷地を地元産の磯山石で取り囲み、周りに池泉回遊式の庭園が広がる開口部全面ガラス窓の二階建ての建物は、住宅建築というよりは高級料亭か旅館のようです。それもそのはず戦後の紡績産業衰退後に家業を第三次産業に変更したようで、割烹料理店として使われその時期の店名が「金鈴荘」でした。バブル期に市が岡部家から借り受け、その後寄贈されて今に至ります。

 

 

 というわけで、近代和風住宅建築の一つではあるのですが、内部は大広間ばかり並ぶ宴会場みたいな建物で、外観もナマコ壁と重厚な面構えの屋根とかなり特殊な物件です。明治中頃の建造ですから、この時期の北関東でのナマコ壁の建物は大変珍しく、防火対策としてナマコ壁以外も漆喰塗りで、玄関上には観音開きの窓も取り付くのもユニークなマスク。

 

 

 内部は一二階ともに間取りが同じで、玄関の取次用の十畳間から東へ十七畳半の座敷を中心に十二畳半の座敷が並び、玄関十畳間の北側に八畳間が取り付く構成。この真ん中の十七畳半を主室とする間取りはまさしく宴会用なのでしょうね。当然豪奢な意匠が見られ、材木には黒檀・紫檀・鉄刀木等の銘木で構成され、襖や床の天袋等には当地の文人墨客の絵画が見られます。この絵画群が本当に華麗で、特に一階は半分美術館のようです。明治期の重厚な和風住宅建築の空間のあちらこちらに絵があるのは、欧米の御屋敷内部に壁一面絵が掛けられてあるのに近く、その特異性からか江戸川乱歩原作の映画「双生児」のロケにも使われています。

 

 

 襖も枠は黒檀や鉄刀木が使われ、襖紙にも絹下地に金箔を五層貼った贅を凝らしたもの。それから二階の角部屋は板敷きのホールになっていて、ちょっと能舞台のようにも見えますね。北関東独特の風土が反映したかのような厳めしい外観に対してとても豪奢な内観は、紡績産業華やかりし頃の主要生産地だった関東北部の土着性と経済力が融合した証しなのでしょう。

 



 「岡部記念館・金鈴荘」
  〒321-4305 栃木県真岡市荒町2096-1
  電話番号 0285-83-2560(真岡木綿会館)
  開館時間 AM9:30〜PM4:00
  休館日 火曜日 12月29日〜1月3日