林芙美子記念館 (はやしふみこきねんかん)



 放浪の作家林芙美子がその流浪の果てに安住の地を定めたのは、まだ当時は田園風景の残る郊外の新宿区落合でした。この落合だけで都合2回の引越しの末に、西武新宿線中井駅近くの高台の土地を購入し、自ら研究して純和風の日本建築を設計した住居が、現在林芙美子記念館として公開されています。

 

 芙美子は昭和14年(1939年)にこの土地を購入し、昭和16年(1941年)8月に完成してから昭和26年(1951年)6月28日に急死するまでこの家で暮らしました。設計は山口文象氏で、竣工の際に芙美子自身建築についてかなり勉強し、設計者や大工を連れて京の民家を見学に行ったり材木を見に行ったりと、自分の納得する建物を時間と金によりをかけて造り出したものです。
 門から玄関前にかけては、竹林の中に曲りくねった緩い階段を拵えて、竹林の隙間から主屋を見え隠れしながら、やがて端正な数寄屋造りの玄関に至る構成を取っており、なかなか効果的な意匠になっています。

 

 家自体は二部構成になっていて、家族が生活する場と芙美子の創作活動の場とが完全に切り離されており、その二つの建物は台所続きの狭い土間だけで繋がれています。この二つの建物間に作られた中庭がほどよい距離で出来ているので、建物同士のそれぞれの場(生活と創造)としての空間の緩衝機能を果たしていて、芙美子自身の小説家と主婦、または小説家と母親の切り替えがすんなりと出来たのではないのでしょうか。

 

 元々書斎として作られた寝室は、芙美子が明るすぎると言って隣の納戸に移ってしまいました。寝室は数寄屋造りの開放的なもので、南面には見事な庭が広がり季節の花々が彩りを添えています。

 

 その納戸に移った書斎ですが、寝室と趣の異なるこじんまりとした部屋で、庇が深いためあまり陽射しが部屋の置くまで入り込まず、かえって落ち着いた雰囲気があります。北面には廊下越しに小庭があり、南面に広がる明るい華やいだ庭と相対になっいて、この合い異なる二つの庭に挟まれるようにして部屋自体が透ける構成になっており、数寄屋建築の意匠を取り込んだ構造になっています。

 



 「林芙美子記念館」
   〒161-0035 東京都新宿区中井2-20-1
   電話番号 03-5996-9207
   開館時間 AM10:00〜PM4:30
   休館日 月曜日 年末年始