汎庵・万里庵 (はんあん・ばんりあん)
1970年(昭和45年)の大阪万国博覧会の際にはパビリオン以外にも色々と付帯施設が造られていて、万博終了後には太陽の塔以外のパビリオンは殆どが更地となって元の里山に還って行きましたが、その付帯施設の方は今でも細々と営業を続けており、特に園内一番北に広がる日本庭園は長い年月の間に人工的だった風景が自然な風合を醸し出していて、まるでウイスキーのエイジングのようにより円やかで奥行きのある景色を見せています。とても広い庭園で、上代から現代へと連なる日本庭園史を順次再現した庭園パビリオンでもあるわけですが、中世の禅宗による「わび・さび」の庭園を代表するものとして本格的な茶室も造営されており、普段は非公開ですが紅葉の時期に特別公開されています。
茶室もパビリオンということか全くタイプの異なる二つの茶室が造られており、一つは利休風の草庵造りのものと、もう一つは遠州風の書院造のもの。代表的な茶室のパターンを国の内外にお見せしようとする趣向だったのでしょうか?
園内に入って正面に見えるのが書院風の茶室「汎庵」。軒下の扁額には当時の首相だった佐藤栄作の手による直筆のもので、席名も佐藤首相が命名したとか。
外観は屋根が入母屋造りの檜皮葺と桟瓦葺による平屋建て。奥の主室からやや雁行型で横長に配置されており、土庇と土縁が周囲を取り巻いています。設計・施工は数寄屋建築の名工だった中村外二。京都俵屋や伊勢神宮茶室を手掛けた名棟梁の作品らしく、ノーブルで端正な佇まいで茶室というよりはアッパークラスの邸宅のよう。
内部は10畳の広間型の茶室がメインで、遠州の代表的な作品である「忘筌」を思わせる書院風茶室。戸袋に障子戸を全て収納すると茶室前は遮るものが何も無いフルオープン状態で庭園の風景が広がります。なんでも内外の賓客の御婦人向けに建てられたものらしく、まず何よりも庭の美しさを第一に考えられたものとか。女性向けらしく吉野太夫の愛した大きな丸窓(吉野窓)も開けられた、明るく伸びやかな空間です。床板は赤松の一枚板で、天井は吉野杉の一枚板。
隣には現代茶室らしく立札席もあり、こちらは檜の網代天井に床板は信楽焼の陶板を張って意匠に変化を与えています。他に6畳と4.5畳の控室もあり。
園内を汎庵に向かわず右手に取ると梅見門があり、その奥に草庵風の茶室「万里庵」があります。席名は万博と土地の千里から付けられており、扁額の「万里」はそれぞれ表千家と裏千家の家元が一字ずつ入れたものとか。外観は屋根が切妻造りの檜皮葺で、妻正面に貴人口がありその横に躙口が開けられています。ちなみに露地には水琴窟もあり。
内部は4畳半の間取りで、典型的な「又隠」の写しになります。裏千家の家元にある「又隠」は、利休の聚楽屋敷にあった4畳半の茶室を再現した草庵風茶室の代表的作品で、利休の孫である宗旦が再度隠居した際に造ったものです。この利休に因んだ茶室を造ることによって書院造の「汎庵」と対比させているのでしょう。
床・炉・茶道口・連子窓の位置が又隠と同一で、壁や貴人口・天井等が異なります。侘びた佇まいの落ち着いた空間の茶室です。
園内は様々な木々が四季折々に美しい風景を見せていますが、特に楓が多いこともあって秋の燃えるような紅葉の頃はその美しさはひとしお。
「汎庵・万里庵」
〒565-0826 大阪府吹田市万博公園9-1
電話番号 06-6877-7387
開園時間 AM9:30〜PM5:00
休園日 水曜日 12月28日〜1月1日