深谷商業学校 (ふかやしょうぎょうがっこう) 登録有形文化財
埼玉県内には大正期に建造された木造の洋風建築による学校の校舎が二件残されています。この大正期における洋風校舎は全国的に見てもそれほど多くはなく、特に木造の校舎は数えるほど。大正後期になると関東大震災もあって鉄筋コンクリート造りの物件が増えていき、元々旧制中学等は煉瓦造りが多いので、木造洋風建築の校舎は段々と少なくなっていきます。しかしこの大正期の木造洋風建築は意匠的に優れたものが非常に多く、当時欧米で流行していたアールヌーボーやアールデコの影響も見られるなど、魅力的な物件が多いです。
その貴重な埼玉県内の大正期木造洋風校舎の一つは東松山市内にある松山中学校(現松山高等学校記念館)で、アールデコの様式が採用されています。そしてもう一つが深谷市内にある深谷商業学校(現深谷商業高等学校)で、こちらはアールヌーボーの様式が採用された校舎です。現在は記念館として公開中。
深谷商業学校が開校されたのは1921年(大正十年)のことで、翌1922年(大正十一年)4月15日に校舎が完成しています。桟瓦葺の寄棟造りによる木造二階建ての大型洋風建築で、中央部の玄関上部に塔屋を乗せ、左右に教室がシンメトリカルに配置されたフレンチルネサンス様式の外観です。深谷といえば今でもネギ畑が広がる長閑な田園地帯、そんな北関東独特の洗練さとは無縁の野暮ったい環境に、ましてや戦前の大正期となれば四囲にはこんな洒落た建物は皆無でしょうからね。校歌にも「巍峨壮麗の二層楼」と唄われているように周囲からは浮きまくった建物だったのでしょう。以前は臙脂色と淡いピンクの色調で彩られていましたが、修復工事後に竣工当時のパールグリーンの外観が復元されています。
外壁はドイツ式下見板張りですが、スクラッチスタイルに結ばれた連続する上下開閉窓と、その間を幾何学模様の張り板で構成されたキュビズム的にモダンな整った姿を見せ、さらに玄関上部の軒上飾りや両端部における半円モチーフ飾りのペディメントにはアールヌーボーの意匠が見られており、とても優美で華やかな印象があります。屋根の上に乗る小さなドーマー窓も程好いアクセント。土台には深谷ならではなのでしょう、煉瓦が積まれています。
外観で最も際立つのは中央に聳える塔屋。換気用の尖塔なのですが内部は伽藍堂で、二階のロビー上部は天井板が張られず構造体が露出しています。ランドマークのような存在なのでしょうね。
内部は北側に廊下が走り南側に教室が整然と並ぶ片廊下式の平面構成で、両端に階段が取り付くシンプルなもの。教室のドアも外壁と同様にパールグリーン色に塗られています。玄関内部の受付窓枠が「商」の文字に象られているのもユニークですね。二階のロビーには開校当時の時計も掛けられています。
今でも部活動などで使用されているらしく、畳敷きの茶室もあったりします。一階の校長室は当時の姿に復元されており、ここでも戸棚の扉が「商」の文字に象られてあります。国登録有形文化財指定。
「埼玉県立深谷商業高等学校記念館」
〒366-0035 埼玉県深谷市原郷80
電話番号 048-571-3321
開館時間 日曜日 AM10:00〜12:00 PM1:00〜3:00