円覚寺 (えんかくじ)
臨済宗大円覚興聖禅寺、略称円覚寺は鎌倉五山の二位の位置を占める名刹、六国見山の谷あいに開かれた緑豊かな敷地には、幾棟もの建造物が点在し塔頭も18頭を数えるほどの広大さを誇っています。文学者との縁も深く、漱石の「門」や川端康成の「千羽鶴」の舞台にもなり、有島武郎の「或る女」もここで執筆されました。
また映画の舞台にも度々登場し、特に小津安二郎監督の「晩春」では、冒頭のお茶会のシーンで北鎌倉駅のバックに豊かな緑を添えて登場し、爽やかな印象を映画に残しました。その小津安二郎監督の墓所がこの境内の墓地にあります。墓地は山門を入って仏殿右奥の小高い丘の中腹にあります。
墓地入り口には各墓所の位置が明示された掲示板があるので、お墓参りの際には参考になるでしょう。中央の石段を左手に登ると2層目の墓所に辿り着きます。ここに正力松太郎の大きな墓があるのですが、そこを右手に回り再び石段を上がるとある3層目の墓所に、小津監督のお墓があります。
墓碑銘にはただ「無」と一文字。そういえば葬式や喪服の出てくるシーンが多い監督でした。死を扱う内容の割りには陰惨なイメージが無いのは、物事はなるようにしかならない、既に諦めることが人生という、仏教的な諦観から来るのでしょうか?その回答がこの「無」の墓碑銘なのでしょうか?お酒好きで知られた方からか、日本酒やビールの空き缶が墓前に立ち並んでいます。
一頃の小津ブームのせいか、墓参に訪れる人々が絶えません。外国人の方々もチラホラお見えになります。ところでこの小津監督のお墓と向合わせるように、木下恵介監督のお墓もあります。ただ気づく人は稀のようですが。
木下恵介監督と言えば万人にも分かるヒューマンスティックなホームドラマで一時代を築いた人でした。「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾年月」「野菊の如き君なりき」等。その印象が強いせいか、やもすると甘ったるい作風の時代遅れの監督といった見られ方もされているようですが、実際には多面的な作風を持つ才気煥発な天才的映像作家でした。今は完全な過小評価と思われます。
「カルメン故郷に帰る」における国産初カラー、「日本の悲劇」「女の園」におけるリアリズム、「楢山節考」における様式美、「笛吹川」における大胆な色彩処理、など常に実験的な手法を模索しながらその一方で、新人時代から失わない瑞々しい作風がバランスよく混ざった良質の娯楽映画を作り続け、黒澤明監督と共に戦後映画界の牽引車として活躍しました。国際的にも「永遠の人」がアカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど、高い評価を得ています。
そういえば小津監督も木下監督も双方ともに独身を通した方々でした。今は冥府で二人で楽しく酒宴を酌み交わしていられるのでしょうか。
この墓地の裏手の崖上に国宝の「洪鐘」があります。長く急な石段を登り、茶屋のある見晴らしの良い小高い丘の上に鐘楼が建てられています。関東でも最大級の大鐘で、高さ2.59m直径1.24mもあり、「風調雨順 国泰民安」と刻まれています。ここの鐘楼から下の墓地が良く見渡せ、巨匠達の眠りを静かに見守り続けています。
「円覚寺」
〒247-0062 神奈川県鎌倉市山之内409
電話番号 0467-22-0478
拝観時間 4月〜10月 AM8:00〜PM5:00
11月〜3月 AM8:00〜PM4:00