秋田銀行本店(あきたぎんこうほんてん) 重要文化財
明治期の洋風建築は、太平洋側の比較的温暖な地域には下見板張りの木造コロニアル風の軽快な建物が多く、北日本や日本海側の雪の多い地域では石積みや煉瓦積みの重厚な建物が多くなります。それぞれの地域の環境に対応して変化していくわけですが、特に雪深い北海道や北東北はそんな明治期の重厚な洋風建築の宝庫で、小樽・函館・盛岡などの都市部の中心に数多く遺され、雪の降る日にはモノトーンのコントラストをまとってよりいっそう美しく映えた姿を見せています。場所によっては夜間のライトアップもされて観光資源の一つとしても活躍している模様です。
北国秋田にも同じように明治期の洋風建築が市中心部にあり、縞模様と赤煉瓦にとんがり帽子のドームを載せたちょっと奇妙な外観。この建物は元々は秋田銀行の本店だった建物で、解体が決定した時に市が市有地と等価交換することで保存が決まり、今は「赤れんが郷土館」という名の市の資料館として公開されています。国の重要文化財指定。
かつてはこの辺りは金融街で、銀行が軒を並べて営業していた場所。この秋田銀行本店も1909年(明治42年)6月に着工し、3年後の1912年(明治45年)7月に完成した建物で、そろそろ鉄筋コンクリートに移行しようする直前の赤れんが建築です。耐震構造に相当気をつかったそうで、基礎工事に工期・工費の半分を費やして徹底的に行ったせいか、幾度かの強度の地震にも微動だにしなかったとか。ユニークな外観は土台が地元秋田の男鹿石を積み、その上に1階が磁器白タイルで2階が化粧赤れんがという構成で、何よりも眼を引く正面両側の円筒形ドームは、スコットランドに多いイギリスルネッサンス様式に基づいたもの。さらに屋根の越屋根付けたスレート葺きは北欧ルネッサンス様式で、正面玄関を少し前に張り出すのはイタリア・ルネッサンス様式と、各種ごった煮の意匠のせいか重厚でありながら華やかな印象があります。
内部は一階が営業室と頭取室、二階が貴賓室などで、特に営業室は二階まで高く吹き抜けた大空間。壁や天井は青白色漆喰塗りで、窓の多い部屋。どことなく旧共産圏の劇場を彷彿とさせます。
この空間の白眉は天井の装飾。忍冬唐草(すいかずら)、ギリシャ風アカンサスの葉、花かご、月桂冠等の複雑で精妙巧緻なレリーフが施され、見事な景観を見せています。寒天で型を取ってから石膏彫刻したそうで、バロック様式に基づく意匠です。
他にも贅を凝らした意匠が施されていて、客溜まりのタイルはイギリス製で腰壁は埼玉県産の濃緑の蛇紋岩を採用。営業台石や暖炉には、福島県の霰石(あられ石)が採用され、豪奢な趣を醸し出しています。
営業室の奥は頭取室。ここにも暖炉があり、岐阜県産の紅縞石と薄雲石と重厚な設え。窓のシャッターは明治期の国産スチールシャッターで、鎧戸のような頑強な造り。天井の装飾も営業室同様に見事な彫刻が施されています。
二階へ上がる階段や踊り場には、埼玉県産の寒水石を採用。営業室同様に白を基調とした空間で、やはり旧共産圏風の趣があります。
二階は大半が営業室の吹き抜け部なので部屋数は少なく、貴賓室ともう1室あるのみ。貴賓室は頭取室とよく似た内装で、蛇紋岩の暖炉や豪華な照明などが印象的な部屋。床は欅の寄木板張りとかで、漆喰塗りを施して防音効果を高めたもの。ここで重役や上客が密談を交わしていたのでしょう。
「赤れんが郷土館」
〒010-0921 秋田県秋田市大町3-3-21
電話番号 018-864-6851
FAX番号 018-864-6854
開館時間 AM9:30〜PM4:30
休館日 12月29日〜1月3日