Midas
 ミダース

 ギリシア神話に登場する、フリギアの都市ペシヌスの王。フリギア王ゴルディアースと、女神キュベレーの夫妻の養子として育てられた。リテュエルセスという残忍な性格の息子がいたとされ、またゾエという娘もいたとされている。黄金をなによりも好んだ快楽主義者であり、そのために神話では酷い目に遭うこととなる。
 ある時、酒の神であるディオニューソスの養父であるシーレーノスが行方不明になり、彼は酔いつぶれていたところを農民に発見され、ミダースのところに運ばれる。ミダースは、相手がシーレーノスであると気づいて歓待して手厚くもてなし、11日後にディオニューソスのもとへと返した。
 ディオニューソスはお礼として、どんな報酬でも与えると言ったため、ミダースは触れたもの全てを黄金に変える力を求めた。この力によってミダースは、手に触れたあらゆるものを黄金に変えることができるようになり、最初は狂喜したものの、やがて水も食べ物も黄金になってしまうため食事をすることができなくなったことに気づき、ついには触れた自らの娘をも黄金に変えてしまうこととなる。
 ミダースは自らの力を呪い、この力をなくしてほしいとディオニューソスに懇願する。ディオニューソスは願いを聞き入れ、パクトーロス川で行水すればいいと教える。ミダースがその通りにすると、力はパクトーロス川に移って、ミダースの力は失われ、以後パクトーロス川では砂金が豊富に採れるようになったのだという。
 またミダースは「王様の耳はロバの耳」として知られる神話にも登場する。黄金の力の一件で富と贅沢を嫌うようになったミダースは、田舎に引っ越して、田園の神パーンの崇拝者となった。そしてある時パーンは、竪琴の神アポローンに、音楽技能を優劣を競う試合を挑むことになる。
 山の神トモロースが審判を務め、最初にパーンがパイプを吹き、崇拝者であるミダースらはその旋律に感動するも、続けて演奏したアポローンの竪琴の演奏はさらに素晴らしく、トモロースはアポローンを勝者とし、その場にいた多くの者もそれに納得する。しかしミダースはこれに納得しなかったため、怒ったアポローンが、ミダースの耳をロバの耳に変えてしまう。
 耳がロバの耳になってしまったという醜態のために、ミダースはたくさんの頭飾りで耳を隠すようになったが、当然理髪師はそのことを知ることができたので、ミダースは理髪師に耳のことを他言するなと厳命していた。しかし理髪師は我慢できず、地面に穴を掘って耳のことを囁くようになったため、やがて地面から「王様の耳はロバの耳」という囁きが聞こえてくるようになった。
 ロバの耳の噂が広まり、ミダースは最初は噂の出所を突き止めようとしたが、やがて自らのあり方を悔い改めるようになったため、アポローンはミダースの耳を普通のものへと戻してやったとされている。

 なお伝説上の人物であるが、実在したフリギアにはミダースを名乗った王が複数いたとされている。