Atlantis
 アトランティス

 古代ギリシアの哲学者プラトンが、晩年に書き記した著書「ティマイオス」と「クリティアス」の中で記述した、大西洋にかつて存在した大陸ほどの大きさの島と、そこに栄えた文明および国家のこと。地質学的には架空の存在と考えられているが、実在していたのではないかと考える人もいる。
 「ティマイオス」と「クリティアス」は、哲学者ソクラテス、政治家にして哲学者であるティマイオス、プラトンの曽祖父であるクリティアス、政治家にして軍人のヘルモクラテスの4人の対話というかたちで書かれた作品で、ティマイオスでは簡単に触れられている程度だが、クリティアスでは詳細な説明がなされている。アテナイの神官ソロンが、エジプトのサイスの神官から伝え聞いた話が、巡り巡ってクリティアスに伝えられ、それが対話の中で披露されたものとされている。
 エジプトの神官によれば、古代ギリシアでは、神話にあるデウカリオンの洪水伝説より以前の記録は残っていないが、ナイル川に守られたエジプトではそれより以前の記録が残されており、それによればアテナイは9000年前(現代から数えるとおよそ12000年前)には強大な都市国家として存在していた。それと同じ頃、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)の入り口の外洋に、アトランティスと呼ばれる、リビアとアジアを合わせたよりも広い島と、強大な国家が栄えていた。
 アトランティスでは、その地に生まれた原住民が、海神ポセイドーンとの間に10人の子供を作り、彼らとその子孫が、10に分割された島内のそれぞれの地域で王として君臨することとなった。島の南に位置する首都ポセイドニアは、3重の巨大な水路に囲まれており、多くの人々が暮らす大都市であった。また都市の中心にはアクロポリスが建設され、ポセイドーンを祭る壮麗な神殿があり、希少な金属であるオリハルコンや、金や銀、銅や錫といった様々な金属で飾られていた。
 アトランティス島では、豊富な天然資源や鉱物資源など、様々な自然の恵みを享受することができたため、アトランティスは凄まじい発展を遂げることができた。またアトランティスは島内のみならず、島の外側にもその勢力を拡大するようになり、やがてヘラクレスの境界内(地中海)へと侵略を行うようになった。だがこのことに脅威を感じたアテナイをはじめとしたギリシア諸国家は、アテナイを総指揮として団結してアトランティスと戦い、ついにはアトランティスをヘラクレスの境界から追い出すことに成功し、さらにはアトランティス島へと攻め込むことになった。
 一方、繁栄の極みに達したアトランティスの民はやがて、堕落した生活を送るようになり、それを目にした主神ゼウスは、アトランティスに神罰を下すことを決定する。そうして、アテナイの戦士たちがアトランティスに攻め込んだまさにその時に、異常な地震と大洪水によってアトランティス島は一昼夜にして海底へと没し、アテナイの戦士もろともアトランティスは海の藻屑となったとされている。
 アトランティスがあったとされている大西洋には、プラトンの記述にあるような大きな島が存在したという痕跡はなく、記述の内容そのままの島と文明が存在したは考えにくいため、プラトンの創作か、あるいはモデルとなった別の文明があったのではないかと考えられている。特に有名なのは、地中海に存在するサントリーニ島に栄えたミノア文明が、アトランティスのモデルになったのではないかという説で、このミノア文明はサントリーニ島の火山噴火と大津波で滅亡しており、アトランティス滅亡のイメージと合致している。また大西洋に存在するいずれかの島がモデルである、アメリカ大陸に存在していた、奇抜なところでは南極大陸がアトランティスだったのではないか、という説もあるが、いまだはっきりとした答えは出ていない。