「MJ無線と実験」6回連載シリーズの第5弾(最終)となったJJ 2A3-40 3段増幅シングルパワーアンプです。2021年11月号から2022年4月号にかけて発表しました。スロバキアのJJエレクトロニック製出力管2A3-40専用のアンプです。3段増幅シングルアンプの一例として設計したものです。
---JJ 2A3-40 3段増幅シングルパワーアンプの連載内容---
2021年11月号 JJエレクトロニック製2A3-40の紹介
2021年12月号 3段増幅の回路案5つを検討
2022年1月号 選んだ回路案をシミュレーションで設計
2022年2月号 製作用回路図の作成と配線設計
2022年3月号 実機を製作して特性を測定
2022年4月号 初段管のノイズ問題を解決して試聴 雑誌発表後、シャーシ下の脚をゴム脚からプラスチック製に変更しました。音質面の改善をはかったものです。
基本的な動作仕様に変更はありませんが、回路上でも若干の音質改良を行ないました(雑誌未発表)。2023年1月にはNFB量をわずかに増やし、微分補正も修正しました。この結果、NFBをかけたときの音質が格段に向上しました。
真空管アンプというものは、単に回路がちゃんと動いただけでよい音が保証されるわけではありません。わずかな定数の違いにより、出てくる音の印象ががらりと変わることがあります。 JJ製2A3-40はフィラメント電圧を2.5V化した300B(フィラメント電圧5V)と言える珍しい出力管です。末尾の「40」はプレート損失40Wを意味しており、最大出力において300Bと同等であることを示しています。
そこで本機はフィラメント電圧が異なる以外300Bと同等の動作条件で設計しました。本機のプレート損失は30Wあるため、普通の2A3を使用すると許容値を超えます。だから本機はJJ製2A3-40専用です。
2A3-40の一番のメリットは、シングルアンプであってもフィラメントを直流点火する必要がないことです。
300Bのフィラメント電圧5Vの場合は、シングルアンプで使おうとすると大容量のコンデンサを使った直流点火回路でハムノイズを防止しなければなりません。
しかし2.5Vならば安価なボリューム部品(ハムバランサー)を取り付けるだけでハムノイズに対策できます。
ちなみにプッシュプルアンプであれば300Bでも直流点火する必要はありません。プッシュとプルに現れる同相のハムノイズが出力トランス1次側で逆相となって打ち消しあうので、各チャンネルに1個づつ微調整用のハムバランサーを置くだけで十分なハム対策となります。 本機はわざわざ3段増幅で設計しました。MJ誌連載の既存4機種のシングルアンプがすべて2段増幅だったため、3段増幅の一例として取り上げました。
3段増幅が必要になるケースは、出力管のバイアスが深くて大きな信号電圧で励振しなければならないときです。しかし2A3-40は初段に5極電圧増幅管を使用すれば、深いNFBをかけないかぎり2段増幅でも出力管をフルに励振できます。
そこをあえて3段増幅で設計することによってメリットやデメリットを考察してみました。
2A3-40で3段増幅を採用すると、利得が大きすぎて実用上不便なアンプになりかねません。そこで前段2段に増幅度を落とす工夫をしました。
まず初段の負荷抵抗を通常の4分の1に落としました。このようにするとひずみがやや大きくなるのですが、初段カソード抵抗に電流帰還がかかるようにしてひずみを低減しています。同時に、電流帰還がかかった分だけ増幅度を下げることができます。
2段めでもやはり負荷抵抗を小さくしました。このようにすると電圧利得は小さくなりますが、信号電流が増えるため電力ドライブに近い動作を得ることができます。
この電力ドライブは出力管が3極管の場合に有利に働きます。電極間容量が大きい3極出力管を高い周波数で励振する際に、理論上は高域の増幅度低下を改善できるはずです。
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2A3-40は300Bに準じた動作仕様で使えます。しかし300Bの動作規格表を見ると負荷が2.5kΩでも3.5kΩでも同じように動作することになっています。これではどちらが音質的に適切なのか判断がつきません。
そこで本機は出力管負荷を2.5kΩと3.5kΩから選べるようにしました。公称インピーダンス8Ωのスピーカーをどのスピーカー端子に接続するかで切り替えます。6Ωのスピーカーの場合は3.5kΩ端子に接続すると出力管負荷2.5kΩで動作します。いずれにしても音質を確認して好みの音が出ている方に接続すればよいと思います。
もうひとつの工夫として軽いNFBをかけられるようにしました。3極出力管を採用した本機は無帰還で十分実用になりますが、音質を変えて楽しめます。無帰還では雰囲気のあるしなやかな音、帰還をかけたときはかっちりした正確な音を楽しめます。
NFBのオン・オフは天板上のスイッチで切り替えます。音楽再生中に切り替えても問題ない回路にしてあります。 電圧増幅段6SN7のヒーターを直流点火していますが、事前のノイズ対策です。経験上たまにハムノイズを出すタマに遭遇するので、対策として設けました。
さらにヒーター回路に25Vの直流電圧を印加してもうひとつのノイズ対策を行なっています(ヒーターバイアス)。カソード電極の出来があまりよくないタマに対して、ヒーターからカソードへの不要な電子移動を防ぎます。 本機はいくつかの音質対策を施しています。そのひとつはB電源用電解コンデンサに並列接続しているフィルムコンデンサとセラミックコンデンサです。これでB電源の高域応答特性を改善できます。必要かどうか、その適切な容量は試聴しながら決めます。
2段めのドライブ段のB電源は音質に敏感に影響します。こちらも調整をいろいろと試しました。
もうひとつは初段カソード抵抗に並列に入れたごく小容量のコンデンサ(ディップマイカ)です。バイパスコンデンサとして機能しますが、可聴帯域ぎりぎりの高い周波数に対してのみ働きます。これによりドライブ段と出力段の高域周波数特性の低下を補償しています。
聴感的には高域がしっかりと聴こえてきて明瞭になります。ただし本機の回路に特有の調整であり、どのような回路のアンプでもよい効果があるとは限りません。 本機の音は出力管負荷を切り替えると変化します。負荷はスピーカー端子で選べます。公称インピーダンス8Ωのスピーカーを使用して負荷2.5kΩの端子に接続すると勢いのあるサウンドが聴けます。負荷3.5kΩの端子に接続するとやや整った感じに変化します。
公称インピーダンス6Ωのスピーカーを使うと負荷の値が少し小さくなると同時にクリップ前最大出力がわずかに小さくなりますが、音は8Ωの場合と同様に変化します。
このように本機はいくつもの動作モードを選ぶことができるわけですが、これが特に便利なのはアナログレコードを鳴らすときかもしれません。カートリッジや針先を交換して楽しむときに、相性のよい音質を選ぶことが可能です。
そもそもJJ製2A3-40はどのような音で鳴るのでしょうか。普通の2A3シングルアンプに2A3-40を挿して2A3と聴き比べると、ひとまわり上質できめ細かい音がしました。
一方、記憶に残る中国製300Bの音の印象と比べると、普通の2A3と300Bの中間くらいの印象です。300Bのようなクセの強さはなく、ごく真っ当なハイファイサウンドです。
JJ製2A3-40はフィラメントを交流点火できるうえ、上質な音と大出力を出せます。3極管シングルアンプの自作にはまことに都合のよい出力管と言えるかもしれません。
改良前の旧型になりますが、製作の詳細と実体配線図は「MJ無線と実験」を参考にしてください。 |