6550A/EL34 UL接続シングル・パワーアンプ 最大出力9W(2021年発表、2022年改良)

オーナー:神奈川県 陽天(ひてん)さん

最大出力 (クリップ前) 9W(6550A), 8W(EL34)
周波数特性 (-1dB) 12Hz〜30kHz
ひずみ率 (1kHz, 1W時) 1.4%
ダンピングファクタ (1kHz時) 2.5(6550A), 3.3(EL34)
残留ノイズ (補正なし) 0.2mV〜0.3mV(最大出力とのSN比91dB)
入力感度 (最大出力時) 0.45V
回路図 電気的特性
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 「MJ無線と実験」6回連載シリーズの第4弾となった6550A/EL34 UL接続シングルパワーアンプです。2021年5月号から2021年10月号にかけて発表しました。元々は6550A用に設計したアンプですが、EL34でもよい音で鳴ります。
--6550A/EL34 UL接続シングルパワーアンプの連載内容--
2021年5月号 UL接続の歴史的背景と技術的な効果
2021年6月号 シミュレーションで回路を設計
2021年7月号 製作用初期回路図と実体設計
2021年8月号 寄り道編:秋一郎宅のオーディオシステム
2021年9月号 実機を製作して特性を測定
2021年10月号 80年代ポップ系音楽を中心に試聴
 雑誌発表後、音質面での改良を行ないました。発表時にはややシャリシャリしたサウンドが昔のデジタルサウンドを思い起こさせて面白かったのですが、今様のハイレゾ音源の再生に適した滑らかさとクッキリさが両立したサウンドに改良しました(雑誌未発表)。なお基本的な動作仕様に変更はありません。
 お譲りしたオーナー様によると、力強い音に驚いた、ボーカルがすばらしい、ドラムが生々しいとのことでした。音に比較してオークション落札価格が安すぎるのに納得いかないともおっしゃっていました。
 UL接続というのは多極出力管の動作方式のひとつです。出力トランスへの接続方法を変えることにより、多極管接続と3極管接続の中間的な動作をさせることができます。オーディオ的なメリットとして「多極管の大出力」と「3極管の繊細な音質」を併せ持つ特性を得られると言われています。
 欠点として純粋な3極管よりもひずみが大きくなるため、昔の業務用アンプでUL接続を採用する場合は、プッシュプルでひずみを打ち消して用いられることが多かったようです。
 しかし家庭用であればそれほど大きな出力を必要としないため、ひずみの小さい領域で動作します。そのためシングルでも十分実用になります。
 音質改良をどのように行なうかですが、調整ポイントは5か所あります。いずれも高域のシャリシャリ感やヒリヒリ感に対する対策です。これを行なえば低音楽器の倍音成分の聞こえ方も改善するため、楽音の全帯域で聴感が改善します。
 まず多極出力管によく見られる高域のヒリつきですが、出力トランスとの相性により微小な共振・発振を起こすことから生じるものです。これを抑制する方法は、昔から知られているように出力管のコントロールグリッドの直近に数kΩ〜10kΩの抵抗を直列に入れてやります。どの抵抗値が適切かは計算で出せないので試聴しながら探るしかありません。本機の場合はひと月以上地道に試聴を繰り返して決定しました。
 次にUL接続特有の対策として、スクリーングリッドに直列抵抗が必要になる場合があります。ケースバイケースですが、高域がピリピリした神経質なサウンドになるときの対策です。必要かどうか、必要ならその最適な抵抗値を試聴しながら探らなければなりません。雑誌掲載後の長期間の試聴により発表時の270Ωでは微妙に小さすぎることがわかりました。330Ωでは効きすぎて音がなまります。その中間の300Ωが本機における最適値とわかりました。
 B電源に用いるアルミ電解コンデンサにも特性改善が必要です。化学反応で電子を蓄積・移動させる電解コンデンサは高い周波数で動作することが得意ではありません。
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 これをおぎなうため、高い周波数での応答性能がよいフィルムコンデンサを並列に接続して、B電源の応答性能を上げてやります(小さな容量でよい)。私の場合はさらに高域応答特性のよいセラミックコンデンサも併用することが多いです。どちらも試聴しながら必要かどうか、必要であればその容量を実際に取り付けて判断します。
 オーバーオールNFB(負帰還)をかけるアンプであれば、高域で起こりやすいオーバーシュートを抑制するための微分補正が高域のヒリヒリ感に対して有効です。容量によっては抑制が効きすぎてサウンドがなまるので、周波数特性の測定と同時に試聴しながら適切な容量を探ります。
 本機の場合、雑誌発表時には微分補正を多めにかけていました。しかし現在は前述の3種類の対策が進んだ結果、最小限の容量で済むようになりました。これにより高域の伸びやサウンドの鮮度が上がっています。
 最後は出力トランス2次側にコンデンサと抵抗を直列接続したフィルタ回路です。元来はNFBアンプでスピーカーをつながずに電源を入れたときに発振させないための付加回路ですが、本機の場合は高域の音質改善のために追加しました。
 以上の5か所の音質対策はただ順番に行なっていけばよいわけではありません。それぞれの箇所での効果の組み合わせにより全体効果が生まれる性格のものなので、パラメーターの組み合わせが数多く存在します。
 だから一度に一か所の部品を交換しては「組み合わせ結果」を試聴して確認し、数値を変えては確認し、調整箇所を変えては確認するというぐあいに、時間をかけて追い込んでいきます。
 たいへん時間がかかりましたが、パラメーターの最適解をなんとか見つけ出すことができました。デジタル音源で現われがちな高域の刺激感は消え、パワー感のある密度の高いサウンドが現れました。
 UL接続多極管シングルアンプは回路だけ見ればシンプルですが、よい音を出すことがたいへん難しい動作方式だと痛感しました。不可能ではありませんが、設計者にとってたいへん難しい仕事であることに間違いはありません。
 写真の6550Aは中国製ですが米国製に負けないよい音がします。写真のようなロシア製の6SJ7と組み合わせでは、低音が力強く、パンチが効いたサウンドが特徴です。
 米国GE製6550Aや米国製6SJ7を組み合わせると、米国製らしい高域の伸びやキレが味わえます。なおGE製6550Aには背が高い長管と低い短管が存在します。音にも少し違いがあり、長管はゆったりした音、短管はタイトな音で鳴るような気がします。
 一方、EL34のサウンドはビーム管とは趣が異なります。高域の伸び感は5極管らしく控えめですが、その分自然な味わいとなります。UL接続の効果なのか、3極管のようなきめ細かで繊細なサウンドを聴けます。
 なおKT66も挿して使えますが、クリップ前最大出力が少し小さくなります。負荷は2.5kΩ、3.5kΩのいずれでもかまいません。
改良前の旧型になりますが、製作の詳細と実体配線図は「MJ無線と実験」を参考にしてください。


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