6AU6 3極管接続 出力トランス式ヘッドホンアンプ 最大出力200mW (2015年〜16年発表、2024年改良)

オーナー:愛知県 Yさん

最大出力 (クリップ前) 負荷39Ω時 200mW
周波数特性 (-1dB) 13Hz〜20kHz
ひずみ率 (1kHz, 10mW時) 0.25%
ダンピングファクタ (1kHz時) 17.3
SN比 (A補正後, 出力0.1mW時) 90dB
入力感度 (100mW出力時) 0.95V
回路図 電気的特性
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 「ラジオ技術」2015年8月号、9月号、2016年3月号に掲載していただいた真空管式ヘッドホンアンプです。地道に改良を行なってきましたが、2024年に音質の大幅な進歩があったため、当掲載ページを刷新することにしました。
 市販品でよく見かける「真空管」をうたう小型ヘッドホンアンプは、半導体も併用するハイブリッド式なので純粋な真空管式とは呼べません。これに対するアンチテーゼとしてスピーカー用真空管パワーアンプと同じように「出力トランス」を備えるヘッドホンアンプを作りました。
 真空管の数にもこだわりました。普通だと双3極管(電極が2セット)を2本使えばよいところを、わざわざ電極1セットの3極管(5極管の3極管接続)を4本使っています。スピーカー用真空管アンプのミニサイズ版に見えれば成功です。
 2024年になってから9年の間に積み重ねた知見を基にしてアース配線を見直したところ、音質の大幅改善が実現しました。新しい回路図にはこの改修が反映されています。
 結果として、大型スピーカーで聴くような本格的な真空管サウンドをヘッドホンで再現できるようになりました(利用環境にもよります)。
 本機をお譲りしたオーナー氏は私と同じような感想をお持ちで、「夜中のマンションでも周りを気にせず(大音量の真空管サウンドを)楽しめる」とのことでした。

 本機は入力信号の電圧を約2倍に増幅しますが、音楽鑑賞用ヘッドホンのインピーダンスに合わせた電力増幅も行なっています。想定するヘッドホン・インピーダンスは30Ωから60Ωあたりです。
 付属機能として、出力トランス1次側の接続を変更することにより、個々のヘッドホンに最適な動作条件を選べるようになっています。
 この機能はダンピングファクタ(出力インピーダンス)を変化させることにより、音質の硬さや柔らかさを変化させるものです。ヘッドホンの公称インピーダンスへの最適化が狙えます。
 私が試聴した感想としては、「30」の表示のあるスイッチ位置は30Ω〜40Ω、「50」は50Ω〜60Ωのインピーダンスのヘッドホンに具合がよいのではないかと思います(そのような表示にしてある)。最終的には自分の耳で聴いた好みで選んでかまいません。
 入力音源にはCDプレーヤーなどのLINE出力、または携帯型プレーヤーなどのイヤホン出力のいずれかを選べます。携帯型プレーヤーにとってドライブが苦しい高級ヘッドホンで携帯型プレーヤーを聴くことが可能になります。しかも真空管サウンドで聴けるわけです。

 音質改良後も電気的特性には変化がありません。技術的視点で厳密に見ると、この電気的特性には制約があります。たとえば高域側の周波数特性の伸びが可聴帯域内に限定され、いわゆるハイレゾの領域には達していません。
 しかし実際にデジタル音源を聴くと何も問題がないどころか、普段スピーカーで聴く以上の精緻な音を聴くことが可能です(利用環境にもよります)。
 音質改良後のサウンドを半導体式と比べると、よく似た音になりました。パワフルでノリのよいサウンドです。しかし違いはクリアさにあります。
 オペアンプ式のヘッドホンアンプ2機を本機と比べましたが、本機のほうがクリアーに聞こえます。これに対して半導体式はかすかなモヤの中で音が鳴っているようなところを感じざるをえません。本機のサウンドには半導体式にはない透明な輝きがあり、音色がよりはっきり聴き取れます。
 真空管式のほうがクリアーというのは逆説的に聞こえるかもしれませんが、真空管内部では電子が電極間の真空空間を超高速で飛び、制御電界に極めて鋭敏に反応しています。
 対して半導体内部では、固体物質内部の多量の電子が密集しながら原子間をぞろぞろと移動しています。電子の移動速度が圧倒的に違うのです。
 クラシックの交響曲とピアノ協奏曲を中心に2機種のヘッドホンで聴きました。
 オーディオテクニカ(以下オーテク)のATH-AD900Xで聴くクラシックは空間の見通しがよく、本機の音質とよくマッチします。真空管パワーアンプでスピーカーを鳴らしたときとよく似たサウンドで聴くことができました。クセもなく安心して聴けます。
 AKG(アーカーゲー)のK240 Studioはかなり雰囲気の違うサウンドで、抜けのよさよりも緻密さが勝る印象です。イヤーパッドを厚みのある社外品に交換したところ、オーテクの雰囲気に近づきました。
 AKGはインピーダンスがオーテクより高いだけでなく、能率が9dB/mWも低くなっています。実際に使ってみた印象として、やわなアンプでは十分な音量を確保しにくいでしょう。本機は余裕があるため、ボリュームをめいっぱい上げた状態でかなりの大音量を出すことができました。
 クラシックの交響曲はスピーカーの音量を上げ気味にして迫力再生したいものですが、夜遅くには限界があります。その点、堂々たる真空管サウンドをヘッドホンで聴ける本機はたいへん助かります。
 本機は6AU6を3極管接続して電圧増幅段と電力増幅段の両方に使っています。必ずしもすべてを同銘柄にそろえる必要はありません。電圧増幅段(中央2本)と電力増幅段(両端の2本)で銘柄を変えることにより、使用するヘッドホンに適した音作りができます。
 6AU6はノイズの出ないものを選別する必要があります。かなり安く買えるので、まとめ買いして選べばよいでしょう。改良後の本機ではシーメンス製EF94も使えるようになりました。
改良前になりますが、製作の詳細と実体配線図は「ラジオ技術」を参考にしてください。


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