6AS7Gトランスドライブ プッシュプル・パワーアンプ
・本機のトランスドライブについて
・EL38 5極管接続シングルと比較試聴する
・<後編>エージングが進んで再調整した本機を試聴する
2026年2月27日/ 7月21日 秋 一郎
[1] [2]
[3] [4]
[5] [6]
[7] [8]
[9] |
6AS7Gは3極出力管の中でも相当大きなドライブ電圧が必要なタマです。しかも特性上、自己バイアスによるプッシュプルが必須となります。CR結合のドライブ回路はすでに7年前から探り始めていました。それをトランスドライブで作ってしまったわけですが、28年前から途絶えていたトランスドライブ方式を再開したい気持ちに負けたものです。
本機が採用したトランスドライブ方式
トランスドライブにはいくつか方式がありますが、本機はドライバートランス1次側をドライバー管のプレートに直接接続する直列接続方式です。
この方式の利点はドライバー管の静止時プレート電圧(実質的なB電圧)が負荷抵抗により著しく低下しないことにあります。固定抵抗を負荷にする場合は100V〜200VものB電圧低下が起こりますが、1次側コイルを負荷とすれば数Vしか低下しません。大きな励振電圧が必要なときに都合がよい方式です。
不利な点はコイルにプレート電流の直流が絶えず流れて静止時でも磁束が発生するため、交流動作時にコイルが磁気飽和に達しやすいところです。大出力時に波形の頭がなまる現象が起こるはずです。
本機に採用したドライバートランスPMF-55Dはドライバー管に直列接続して使用できることが明記されていますが、磁気飽和の影響を受けないように直流電流値に制限が設けられています。この条件のもとで動作仕様が保証されるわけです。本機の場合、制限が60mA(1次側の2つのコイルが並列のとき)のところへ12mAほど流れています(余裕しゃくしゃく)。
ドライバートランス2次側を開放で使うとどうなるか
1次側コイルがドライバー管の負荷となっているわけですが、コイルの直流抵抗は微小すぎて負荷にはほとんど役立ちません。負荷の本体はコイルに交流信号が通るときの誘導現象です。音声信号を流したときに初めて負荷インピーダンスが発生して電圧増幅(2次側で昇圧)がおこなわれます。
本機では2次側を開放で使っているためドライバー管から見た負荷インピーダンス(交流負荷抵抗)の算出が困難です。それでもきちんと動作するのがトランスドライブの不思議なところですが、おそらく出力管のグリッド電流が動作源となっているのでしょう。シミュレーションではドライバー管が12BH7(電極並列)の場合、6AS7Gのグリッド電流は交流動作時に数μ〜10μAくらい流れるようです。
同じくシミュレーションで1次側がどのくらいの負荷インピーダンスで動いているか確認すると200kΩ前後のようでした。 |
|
なお2次側コイルに並列に固定抵抗を接続するとその抵抗との並列がドライバー管の負荷となるはずですが、グリッド電流の流れ方が変化するせいか単純な並列値にはならないようです。また周波数特性や音質が変化するらしいのですが、シミュレーションでは特性に目だった変化がなかったので本機では採用しませんでした。音質変化の実験も後の課題としておきます。
ドライバー管内部抵抗の影響
トランスドライブではドライバー管の内部抵抗が低域の周波数特性に大きく影響を及ぼします。本機の場合、現状の回路では12BH7の電極並列でもまだ高すぎるようで、50Hzまでの波形を維持できるのが2Wどまりとなりました。これを超える出力では50Hz波形の側面が凹んできます。周波数特性の低域が落ちるのはこのひずみが原因です。
ちなみにシミュレーションでは電極を並列接続した12BH7を2本使って4電極並列にすると低域特性がかなり改善するようです。
内部抵抗の効果を実機で確認するため、内部抵抗が12BH7より高い12AT7をドライバー管として実機に挿してみると、わずか0.2Wで50Hz波形の側面が凹み始めるという結果になりました。
ということでハイファイ用途をめざすなら、本機に挿せるドライバー管として許容できるのは12AU7までです。12BH7とほぼ同じ特性が出ます。ただし12AU7の音は12BH7より低音が軽いです。12BH7特有の低音の重さを好まない場合には12AU7がよいかもしれません。
オーバーオールNFBは可能か?
出力トランスの2次側から負帰還をかけるオーバーオールNFBはトランスドライブには禁断とされています。ものは試しと実機で実験してみると、数dBかけただけで高域の落ち込みがぐっと改善されました。
ところが低域20Hzと可聴外の高域50kHzで大きな持ち上がりが発生してしまいました。可聴外高域に対する微分補正を試みたのですが、可聴帯域が大幅に下がってしまい、まともな特性が得られませんでした。
やはり間にドライバートランスが入っているとオーバーオールNFBは困難なようでした。
素の音を聴く
組み上がり直後の動作チェックは音質調整前に行いますが、一応音も出して確認します。素のままの音が出るわけですが、後の音質調整に左右されない基本的な性格が見えてきます。
このときはカソードバイパスの電解コンデンサには対策済みですが、B電源用電解コンデンサには何も細工していない状態で聴いています。
その音は案外「普通」に感じられました。CR結合で聴くものと大差ない印象です。昔なじんだ真空管サウンドを聴いている気がして、一抹の懐かしさがありました。このまま昔懐かしいサウンドをしばらく楽しむのもよいと思います。確認ができたところで、音質を追い込むことにしました。
どのような音質調整を行ったか
私が「音質調整」と呼んでいる調整内容は主に高域の聴こえかたの改善です。特に「ちりちり、ひりひり」した刺激感を嫌います。
これとは別に高域に透明感や張りを与えるためB電源やバイパスコンデンサにフィルムコンデンサやセラミックコンデンサを並列接続します。調整の過程で試験的に外してみることがありますが、効果の大きさを痛感するのが常です。
フィルムコンデンサの並列だけでは効果不足のときはセラミックコンデンサも加えることがありますが、劇薬なので注意が必要です。過剰に効くと高域が鋭くなります。
本機のB電源では試聴実験によりセラミックコンデンサは入れないことにしました。また、真空管カソードバイパスコンデンサに並列に入れるセラミックコンデンサもイレギュラーな容量配分となりました。トランス結合の本機はCR結合機とは異なるパターンの調整が必要だったようです。
>>次ページ |