12AU7 12AX7 CR型フォノイコライザ (2025年)
対応カートリッジ MM型、MV型など出力3mV〜7mVのカートリッジ
対応録音特性 RIAAカーブ
イコライジング偏差 30Hz〜30kHzで±0.1dB
1kHz増幅率 後段 12AX7 95倍(40dB), 12AT7 90倍(39dB), 12AU7 72倍(37dB)
SN比 74〜76dB(Aフィルタ補正後)
回路図 電気的特性
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 2025年7月、本機CR型真空管式フォノイコライザを発表します。以前からこのサイトに掲載していたフォノイコライザ3機種はNF型でしたが、今回はCR型を採用しました。
 使用する真空管は12AU7(ECC82)と12AX7(ECC83)です。好みにより12AT7(ECC81)を使用することもできます。
 本機は諸事情により雑誌掲載の予定はありませんが、代わりに試聴記を含めた付録記事を本サイトに掲載しています。右上のリンクからご覧ください。
 実は2年さかのぼる「ラジオ技術」986号にCR型実験機を発表しています(本サイトには未掲載)。その経験を踏まえて設計し直したのが今回発表する作品です。満足のいく仕上がりになったので実用機として発表することにしました。
 本機はMM型カートリッジの出力を受けるためのフォノイコライザ専用機です。パソコンに接続してLPレコードをデジタル化することを想定しており、プリアンプのような入力セレクタなどの機能はありません。RIAAカーブのイコライジングとラインレベル増幅のみを行います。
 アナログ環境で使う場合は、本機の出力をプリアンプのCD入力やAUX入力などのLINEレベル端子に接続するか、入力ボリュームを備えるパワーアンプに直結します。
 接続先機器の入力インピーダンスは20kΩを想定しています。デジタル機器に多い10kΩとか、一部のメーカー製プリアンプに見られる50kΩでも問題なく利用できますが、厳密を求めるなら出力コンデンサの容量を調整すると20kΩと同様の特性を得られます(後述)。

 真空管式フォノイコライザの回路方式には大きく分けて「NF型」と「CR型」がありますが、本機はCR型です。
 レコードカートリッジの再生信号はまず前段の回路で予備増幅を行い、その増幅出力に対してコンデンサと抵抗を組み合わせた減衰回路を用いてイコライジングを行います(回路図で点線で囲まれた部分)。
 イコライジングにより復元された原音信号は、パワーアンプが利用できるレベルまで後段の回路により電圧増幅を行います。本機の場合はさらにカソードフォロワの出力段を設けました。
 前段に使用する真空管は12AU7限定ですが、後段は12AX7以外に12AU7や12AT7を使うこともできます。出力段のカソードフォロワは12AU7が推奨ですが、12AT7も使おうと思えば使えます。それぞれ音調が少しずつ異なるので、管種や銘柄を選んで組み合わせると好みの音を作れます。
 本機の設計で一番の目標は低ノイズの実現でした。実験機では「ジー」という耳につく音を含めた高域ノイズが目立ちました。サウンドの素性はよかったものの、音楽鑑賞用として日常的に使うには難がありました。
 その後の改造で高域ノイズの低減には成功したのですが、今度は片チャンネルからブーンという大きなハムノイズが出るようになりました。これを退治するには作り直しに近い作業が必要になります。であればと、一から設計し直すことにしたのが本機です。
 実験機ではNFB量をかせぐために裸の増幅度をうんと上げたのですが、少々やりすぎたようでした。そこで今回はほどほどの裸増幅度を与え、ほどほどのNFB量に抑えることにしました。
 またハムノイズの予防を徹底するため、電源トランスを左右分離しました。本機はモノラル2基をひとつのシャーシに搭載する構造になっています。
 ステレオアンプで片チャンネルのハムノイズだけ大きくなる現象はよくあることです。その原因として、B電源電流の帰還経路が左右共通となっている場所から発生しやすいことがわかっています。微小な信号を扱うプリアンプ、フォノイコライザはパワーアンプ以上に敏感なようです。
 ですからB電源の源流である電源トランスを左右チャンネルで独立させれば、確実な片ハム対策となります。

 「チリチリ」とか「シュー」という周波数の高い残留ノイズは真空管から多くを由来しますが、CR型フォノイコライザではイコライジング回路を挟む前段と後段、両方の増幅回路で発生します。
 前段の高域ノイズに関しては、続くイコライジング回路により数十dB落とされるので、段内のローカルNFBによる低減効果は脇役となります。
 その一方で後段から出る真空管由来のノイズはそのまま出力されてしまいます。そこで前段のNFBは10dBていどに抑えつつ、後段は24dB(12AX7の場合)と多めのNFBをかけてノイズ低減をはかりました。
 後段は3つの管種を挿し替え可能としましたが、それぞれ増幅度が異なっています。たとえば12AX7から12AU7に挿し替えると、12AU7のほうが増幅度が小さいためNFB量が減ってしまいます。
 しかし同時に、1段めから出るノイズ成分の2段めによる増幅も小さくなります。結果として12AX7、12AU7、12AT7のいずれを挿しても、ノイズレベルにそれほどの違いは出ません。
 計算上では12AU7だけ他より少し低ノイズになるはずですが、現実には真空管の種別よりも個体差のほうが残留ノイズに影響します。

「12AU7 12AX7 CR型フォノイコライザ試聴記」はこちら

 組み上がった本機の残留ノイズは実験機と比べると天と地の差で改善しました。好ましいのは高域成分と低域成分のバランスがとれていることです。
 ノイズが周波数的に分散しているので、高低どちらかのノイズ成分が目立つことがありません。このような場合、測定上の数値が同じであっても聴感上の効果が大きくなります。
 スピーカーに耳を寄せるとツイーターからはかすかな「シュー」という音が聴こえます。ウーハーはこれもかすかに「フーン」と鳴っています。真空管式としては限界に近いのではないでしょうか。

 どのくらいの大入力(大音量)を処理できるかも、フォノイコライザに求められる実用性能のひとつです。
 昔のJIS規格では、通常の音量でのカートリッジ出力を1kHz5mVと設定していました(基準入力)。これはかなりの大音量になるはずで、ホールなど広めの空間で鳴らすことを想定していたのかもしれません。
 しかしこの旧JIS規格は同時に、最大で1kHz35mVの入力でも再生できることを求めていました(過大入力)。基準の7倍(+26dB)もの大音量です。特殊なカートリッジや特殊な場面でも対応できるマージンを求めていたのかもしれません。
 今まで作ったNF型フォノイコライザは余裕をもってこれをクリアしていました。CR型の本機でも問題なくクリアしています。
 これを実現するために、本機の設計で特別に注意した点があります。CR型の場合は高域の再生波形が大出力時にひずみやすいことです。
 なぜならMM型にしてもMC型にしても、コイルにより発電するカートリッジではLPレコードに刻まれている高域が1kHzの数倍〜10倍もの大きな電圧で出力されるからです。
 つまりイコライジング回路の手前に置く前段はレコードの高域大出力をそのまま受け取って増幅しなければなりません。だから高域は1kHzとは比べ物にならないくらいひずみやすいのです。
 シミュレーションによる回路設計ではこの点に十分注意を払いました。組み上がった実機で確認すると、後段に12AX7、12AU7、12AT7いずれを挿しても過大入力規格の1.6倍まで20kHzの波形を維持できることがわかりました。
 このことは、日常的な使い方ならLPレコードを全可聴帯域で十分低ひずみで聴けることを意味します。
 レコードをパソコンでデジタル録音するにはパソコンのアナログ入力端子にフォノイコライザを接続します。このときその入力端子のインピーダンスを気にする必要があります。私は自作パソコンを使っていますが、10年前のマザーボードでは10kΩだったのに最近の製品では20kΩになっています。
 入力インピーダンス20kΩというのはメーカー製プリアンプでよく見られるほか、拙作パワーアンプで採用することが多いです。
 そこで本機は20kΩ入力端子に接続したときに、RIAAカーブを忠実にトレースできるよう出力部のコンデンサ容量を決めています。この容量は50Hz以下の低域に影響があります。
 本機をたとえば入力インピーダンス50kΩの端子に接続すると、RIAA偏差特性の最低域あたりで0.3dBほどの持ち上がりが生じます。この程度では聴感的な問題はほとんどないと思います。
 しかしこだわりたいときは、回路図上1μFのコンデンサ容量を0.47μFに変更すると、低域を厳密にフラットに保てるはずです。
 また、端子入力インピーダンスが10kΩの場合は最低域が1dBくらい下がるので2.2μFに変更するとよいでしょう。
 本機の聴き心地は解像度が高く、音の分離がよいのが一番の特徴でしょう。残響音がきれいに減衰して聴こえるのも印象的です。
 後段に12AX7を使用したときはいわゆるハイファイ感が際立っており情報量が圧倒的です。12AU7はそこまでハイファイを強調せず、節度を感じます。12AT7はハイファイに加えて表現に力感を感じます。
 NF型と聴き比べると、高域の解像感は本機のほうがやや上回っています。一方、低音の力感はNF型のほうが出やすいようで、NF型回路の特性からくるものでしょう。本機の場合は真空管の管種や銘柄の組み合わせで変わります。ここはユーザーが選べるとも言えます。
 さて、本機が残留ノイズにこだわったのには、聴き心地以外の理由もあります。レコードカートリッジの選択幅を広げたかったのです。
 出力が小さめのカートリッジではフォノイコライザの残留ノイズが相対的に大きく増幅されてしまいます。楽音に比較してノイズが目立てば、静寂なパッセージの印象を損ねかねません。だからやむなく眠らせていたカートリッジがありました。
 本機の登場でようやく彼らにも出番が回ってきました。実際にこれらのカートリッジでどう聴こえたのかは、付録記事の試聴記でお読みください。


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