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“アンゼルム・キーファー SOLARIS”京都二条城 https://kieferinkyoto.com/overview.html | |||||
京都市、ファーガス・マカフリー
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一年前に観た映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』(監督 ヴィム・ヴェンダース)の日誌にも記したように、高知県立美術館開館当時の職員だった時分から特に気に入っていた『アタノール』以外には実物作品を観たことがなかったので、やおら思い立ち観に行ったものだ。 展覧会タイトルに相応しい太陽神を題した『ラー』['19]の屋外展示から始まっていたのは、ラーを目指して支柱を登る形にあしらわれていた蛇が重要な意味を持っていたからなのだろう。僕のなかにあるキーファーの主題“滅び”と対照的な作品として、本展覧会において最も目を惹いた『モーゲンソー計画』['25]は、御殿台所の最奥に配されていたのだが、瑞穂の国で豊かに穂を垂れる作品の中央部に『ラー』を想起させる金色の蛇が配されていた。 古代エジプトで王権の象徴として知恵や豊穣のシンボルとしてされていた蛇は、我が瑞穂の国でもまた、神格が付与されていることと呼応させていたような気がする。思えば、我が国の天照大御神もまた太陽神だ。西洋型建築の美術館ではなく、敢えて二条城に展示された本展に相応しい意匠だったように思う。順路に従って入った『ヨセフの夢』[?]を配した側から観るとやけに暗く、中庭からの光射す割れた甕の配された奥側から観ると豊かに明るい本作が面した屋外には、女性のドレスの首から上に様々なオブジェをあしらった作品群が並んでいて、どこか本県出身の岡上淑子のコラージュ作品を思わせる風情があったことも印象深い。 その『モーゲンソー計画』と隣接する小部屋にあった『ダナエ』['13]は、大開脚の全裸女性の描画を逆さに鉤フックから吊るした作品だったが、観ようによっては、金色の雨に姿を変えたゼウスの滴りを全身で浴びてペルセウスを受胎しようとしている姿として受け取ることによって『モーゲンソー計画』にも通じる“稔りの図”とも言えるわけで、手前の御清所のほうに配されていたもう一つの『ダナエ』[?]の老いさらばえた向日葵との対照が利いていたように思う。 面白かったのは、御清所から台所に渡ったばかりのところにあった『ヨハネ:光は闇の中に輝いている。闇は光を理解しなかった。』[?]で、横から観ると変哲もない金槌と金床なのだが、金槌のほうから奥に金床を観る角度で臨むと、屠殺される豚のようにも映って来た。そのほか印象に残った展示は、御清所入り口正面に配されていた『オクタビオ・パスのために』['24]や木片を積んだ乳母車そのものを作品のなかに取り込んでいた『オーロラ』['19-22]など。 また、同じタイトルの作品が複数あって、『ライン川』が2つ、『アンゼルムここにありき』が2つ、『アンゼルムスここにありき』というのもあったが、展示にキャプションが添えられていないうえに作品リストもスマホ対応のQRコード読み込みのものしかなく、製作年次も不明で特定できない有様で、備忘記録の用をなさないのが残念だった。それでも、遠方から出向いてきた甲斐のある展示だったようには思う。 | |||||
by ヤマ '25. 6. 4. 元離宮二条城 二の丸御殿台所、御清所等 | |||||
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