TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


小曲五章  


詩: 与謝野晶子 (Yosano Akiko,1878-1942) 日本

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本 日本語


1 いづくにか


いづくにか悲しき鐘の鳴り出でしここちす春の雲のうごけば


2 うら淋し


うら淋し雨だれほどのひまおきて桜ちるなり今日を初めに


3 薔薇の花


薔薇の花朝朝摘めと咲くことも夏は嬉しや水の鳴れるも


4 我が手の花


我手(わがて)の花は人染(そ)めず、
みづからの香(か)と、おのが色。
さはれ、盛りの短(みじ)かさよ、
夕(ゆふべ)を待たで萎(しを)れゆく。

我手(わがて)の花は誰(た)れ知らん、
入日(いりひ)の後(のち)に見る如(ごと)き
うすくれなゐを頬(ほ)に残し、
淡き香(か)をもて呼吸(いき)すれど。

我手(わがて)の花は萎(しを)れゆく……
いと小(ささ)やかにつつましき
わが魂(たましひ)の花なれば
萎(しを)れゆくまますべなきか。


5 子供の踊


踊(をどり)、
踊(をどり)、
桃と桜の
咲いたる庭で、
これも花かや、紫に
円(まる)く輪を描(か)く子供の踊(をどり)。

踊(をどり)、
踊(をどり)、
天をさし上げ、
地を踏みしめて、
みんな凛凛(りゝ)しい身の構へ、
物に怖(おそ)れぬ男の踊(をどり)。

踊(をどり)、
踊(をどり)、
身をば斜めに
袂(たもと)をかざし、
振れば逆(さか)らふ風(かぜ)も無い、
派手に優しい女の踊(をどり)。

踊(をどり)、
踊(をどり)、
鍬(くは)を執(と)る振(ふり)、
糸引く姿、
そして世の中いつまでも
円(まる)く輪を描(か)く子供の踊(をどり)。



1926年の作曲。2年前の夫、与謝野寛の和歌に続いて晶子の和歌からもまずは3首選ばれています。いずれも歌集「舞ごろも《(1916)より。しっとりと春の悲しい鐘の音を描き出す「いづくにか《、同じく春の桜散る情景を流れるようなメロディで嘆く「うら淋し《、一転して明るい夏のバラの華やかさとうきうきする気持ちを軽快に歌い上げる「薔薇の花《。いずれも印象的です。続いての2曲は和歌ではなく詩より選ばれています。「我が手の花《は単独でも良く取り上げられる傑作です。歌詞も人生の盛りの短さを手に持った萎れた花をみつめてしみじみとつぶやくもの。言葉がとても美しく響きます。
最後の「子供の踊り《は晶子のつけた副題に「唱歌用に《とありますが、信時の音楽はもっと調子の良いもので楽しく盛り上がります。

小川明子さんがYoutube上に自らの歌唱をアップして下さっていて、5曲全部聴けるのはたいへんにありがたいことです。ぜひこの楽しい歌曲集を多くの方に味わって頂ければと思います。

( 2015.12.16 藤井宏行 )