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法人税法判例
最高裁平成16年10月29日第二小法廷判決
事実の概要(脱税による刑事事件)
 Y(被告人)は、宅地開発業を営む株式会社である。Yは、茨城県A市内の土地を購入して造成し宅地として販売することとした。宅地開発行為につき県知事の許可を得るために必要なA市の同意得るためA市と協議した結果、開発地域外にある雨水排水路の改修工事を行うよう指導された。
 Yは、知事の許可を得て宅地を造成し、昭和62年6月にこれを販売し、本件事業年度の収益に算入した。
 一方、改修事業はA市の方針変更により、A市が実施することとし、工事費を負担することに変更された。Yは、昭和62年10月頃、改修工事を請け負わせようとしていた建設会社に、工事費を見積もらせ、その金額1億5千万円を市の担当者に連絡した。そして、Yは、本件事業年度の法人税確定申告において、その金額を売上原価として損金に算入した。
 改修工事は、住民の反対運動などに配慮して、結局行われず、Yも負担金を支出しなかった。

Yの主張
 Yは、脱税により起訴されたが、1億5千万円は脱税金額に含めるべきではない。
 
1審および控訴審判決
 売上原価の額として損金に算入するためには、その支払債務が確定していることを要する。しかし、本件の場合、支払義務は法的拘束力を伴った義務として確定していたとはいえない。

判決(破棄差し戻し)
 A市は都市計画法上の同意権を背景として支出を求めてたこと、費用の額を見積もる事ができたこと、Yはその金額の支払いを見込んでいたことから、Yは近い将来上記費用を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれており、金額も適正に見積もることが可能であったと見ることができる。このような場合には、債務が確定していない場合であっても、法人税法22条3項1号にいう「当該事業年度の売上原価」の額として損金に算入できると解するのが相当である。

評釈(判旨賛成)
 費用収益対応の原則から考えると、本件の場合、売上に対応する費用は支出されていない。しかし、本件の場合、事業年度終了の時点では、費用の支出はほぼ確実と考えられていたので、企業会計上の利益計算では売上から減算すべきである。法人税の所得計算でも、その費用が原価であり、金額が適正に見積れる場合は、損金に算入されると解されている。



回線利用権と少額減価償却資産 NTTドコモ中央事件
最高裁平成20年9月16日第三小法廷
事実の概要
 携帯・自動車電話事業等を営むXは、PHS事業の営業譲渡を受け、電気通信設備の相互接続に関する協定に基づき、NTTとNTTの通信網に接続するエントランス回線利用権(1回線あたり工事費および契約料7万2千円で15万回線)を108億円で取得した。
 Xは、これを少額減価償却資産(取得価額が10万円未満)であるとして、全額を損金に算入して法人税の申告を行った。
 Y税務署長は、これを取得価額108億円の電気通信施設利用権(耐用年数20年)であり、少額減価償却資産に該当しないとして108億円の損金算入を否認して更正処分を行った。
              NTT電話回線

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判決
 エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からNTTの固定電話または携帯電話への通話等、固定電話または携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話が可能であるから、本件権利はエントランス回線1回線に係る権利1つでもって、PHS事業において機能を発揮し収益の獲得に寄与することができる。そうすると、エントランス回線1回線に係る権利1つをもって、1つの減価償却資産と見るのが相当である。
 本件エントランス回線は少額減価償却資産に該当するので、損金算入を否認した課税処分は違法であり取消す。

評釈
 本件で取得したのは、1回線の利用権ではなく、NTTの全通信網に接続して全通信網を利用する権利である。そうすると、1回線に配分した契約料は電気通信施設利用権の対価を15万回線に配分したものであり、電気通信施設利用権の取得費は108億円であるとすべきである。




脱税工作のための支出金の損金性(脱税の刑事事件)
最高裁平成6年9月16日第三小法廷判決

本件は脱税をした被告人会社が、量刑に関して逋脱税
額が過大であると主張するものである。

事実の概要
被告人会社Xは、不動産売買を目的とする会社である
が、所得を秘匿する手段として、社外の協力者に架空の土地造成工事に関する見積書および請求書を提出させ、2億8千万円の造成費を損金に算入して法人税の確定申告をした。支払った2億8千万円は、返還され簿外の資産としたが、1900万円を手数料として、社外の協力者に支払った。
 
争点
 社外の協力者に支払った1900万円は、損金の額に算入されるか。


Xの主張
 脱税のための手数料であるが、法人から支出されたもので、法人の純資産を減少するものであり、損金の額に算入されるべきである。損金に算入されない費用を列挙する法人税法38条には、違法支出を損金不算入とする定めはない。

判決
 「架空の経費を計上して所得を秘匿することは、事実に反する会計処理であり、公正処理基準に照らして否定されるべきものであるところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力することに対する対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできないと解するのが相当である。したがって、前記支出について損金の額に算入することを否定した原判決は、正当である。」


評釈(判旨賛成)
 違法な支出が常に損金不算入とはならない。麻薬の売買であっても、その仕入価額は損金に算入される。所得計算上当然のことである。
 本件との相違は、支出の費用性にある。この手数料は、法人税の脱税を目的とするが、収益を得るための支出ではない。強いて言えば、損金不算入の寄付金に相当すると考えられる。
 なお、脱税費用については、この判決後に損金不算入が法定された(法人税法55条)。




低額譲渡と法人税法22条2項
最高裁平成7年12月19日第三小法廷
事実の概要
 Xは金融業を営む会社であり、訴訟外取引先銀行の株式を昭和55年から昭和61年にかけて1株当たり210円から230円で15万株取得した。Xは、その株式をXの代表取締役甲に昭和63年4月に14万株、平成元年3月に1万株を1株225円で譲渡した。この取引先銀行の株式は、上場されておらず取引相場はなかった。
 税務署長は、63年4月の1株の時価を280円、元年3月の1株の時価を430円と認定し、取引金額との差額975万円を収益とし、それを甲に対する賞与(損金不算入)として975万円を所得に加算する更正処分を行った。
 Xは更正処分の取消を求めて訴えを提起した。

Xの主張
 法人税法22条2項は、無償取引による収益の認識を定めているのであり、低額譲渡の場合には適用されるべきでない。また、一つの取引を適正な対価による有償取引とその余の部分の無償取引に分解して22条2項を適用する事はできない。

判決
 この規定は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来たすべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される。
 低額譲渡は有償譲渡ではあるが、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるのであって、たまたま収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識されないとすれば、無償取引との間の公平を欠く。したがって、益金の額に算入される収益には、適正な対価との差額も含まれると解するのが相当である。
 
  
評釈(判旨賛成)
 本判決は、収益を値上がり益(キャピタルゲイン)とするものであり、現に発生している利益を認識するとの立場を取っている。それは通説の適正所得算出説とは異なる解釈であるが、正当である。
 (増井良啓教授も最高裁は、資産が社外に流出する時点において含み益を精算するという考えをとっているとみることができると述べている。)
 
 
 

交際費等の意義
東京高裁平成5年6月28日判決
事実の概要
 Xは中古自動車のオートオークション(競り売り)を開催する会社である。Xは、昭和62年10月1日から昭和63年9月30日までの事業年度に開催されたオークションの際に、終了時に会場に残っていた会員(中古自動車取扱古物許可証を有する者)を対象に抽選会を実施し、当選者に景品を交付していた。その景品の購入費用320万円を支払奨励金として損金に計上して確定申告をした。
 税務署長は、この費用は交際費等に該当するので、損金に算入できないとして更正処分を行った。
 Xは、更正処分の取消を求めて訴えを提起した。


Xの主張
 本件費用は、支払奨励金、販売促進費ないしは広告宣伝費に該当し、交際費等には該当しない。


参考
租税特別措置法61条の4第3項
 交際費等とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」のために支出するもの。
  
判決
 会員は古物許可証を有し、会員契約を締結した者であるから、事業に関係のある者に該当する。景品の交付は、贈答その他これに類する行為であり、交際費等に該当する。

評釈(判旨に反対)
 判決は、交際費等の要件を事業に関係のある者に対して、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為により、親睦のどを密にして、取引関係の円滑な進行を図るために支出されたものとしている。目的を重視しているが、法律の要件は接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のための支出であり、行為に該当するか否かを厳密に判断する必要がある。景品の交付は贈与に該当するが、贈答といえるか疑問である。客を引き止めるためのこの様な費用を交際費と解することは無理があると考える。
 

 交際費と販売手数料
 東京高裁昭和52年11月30日判決 行裁例集28巻11号1257頁
事実の概要
 X会社(原告、控訴人)はドライブインを営む株式会社である。昭和42年7月1日から昭和43年6月30日の事業年度において販売手数料勘定1,097万円を、次の事業年度に同勘定1,098万円を損金に算入して法人税の確定申告をした。
 販売手数料の金額は、ドライブインに駐車した観光バスの運転手、バスガイド、添乗員に交付した心付け(チップ)の合計額である。チップの内容は、運転手に300円、バスガイド、添乗員に100円から300円をのし袋に入れて渡していたものである。
 これに対し、税務署長は交際費等であるとして法人税の更正処分をした。

原告の主張
 大勢の者に渡しており広告宣伝費である。
 1件当たり少額で、冗費節約を目的とする交際費等に当たらない。

判決
 交際費等の要件は、支出の相手方が事業に関係のある者であること、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものであることを必要とするが、それ以外は比較的高額であることや冗費、濫費性を帯びていることを独立の要件とすべきものとは解せられない。
 



10月14日、15日
ストックオプション課税(給与所得か一時所得か)

最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決

事実の概要

 Xは、米国のアブライド社の100%子会社である日本アブライド社の代表取締役を務めていた。

 アブライド社は、従業員の精勤に対する動機付けとしてストックオプション制度を設けていた。

 Xは、この制度によりストックオプションを与えられていた。

 Xは、平成8年から平成10年までにストックオプションを行使して、それぞれの権利行使時点におけるアブライド社の株価と所定の権利行使価格との差額相当分約3億6000万円を得た。

 Xは、これを一時所得に該当するとして申告を行ったが、税務署長は、これが給与所得に該当するとして増額更正処分を行った。Xは、これを不満として訴訟を提起した。

参考

 ストックオプション制度

  会社が自社株を、一定の価額(権利行使価額)で売却することを約束すること。

  従業員は、一定期間勤務後いつでも権利行使価額で購入することができるので、株価が権利行使価額より高いときにオプションを行使(購入申し出)すれば、その差額が利益となる





 

500円

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

    1000円      1500円

税務署長の主張

 ストックオプションの権利行使利益は、アブライド社がXに給付した給与であるから、給与所得になる。

Xの主張

 何時権利行使するかは、Xの判断により決めるものであるから、その利益はアブライド社が給付したものとはいえない。

判決

 被付与者は、ストックオプションを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるものとされている。そうであるとすれば、アブライド社は、Xに対し、本件付与契約により本件ストックオプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使益を得させたものであるということができるから、本件権利行使益は、アブライド社からXに与えられた給付に当たるものというべきである。

評釈(判旨反対)

 ストックオプション自体が権利として価値があり、その付与は付与された時点での給与と考えられる。しかし、価額の算定が難しく課税が困難である。そうであるとしても、行使利益自体は労働の対価とは考えられない。



10月7日、8日

@ 不法な所得

最高裁昭和46年11月9日第三小法廷判決 

事実の概要

 Xは金融業および質屋業を営む者

 Xはその債務者との金銭消費貸借契約について利息制限法の定める制限利率を超える利息・損害金を約定。

 

 32年分の修正申告による所得 91万円

 税務署長は、未収の貸付金利息で制限利率超過の

部分も所得とし、所得を348万円とする更正をした。

(参考)

利息制限法1条

 左の利率を超えるときは、その超過部分につき無効とする。

10万円未満           20%

100万円以上          15%

任意に支払ったときは、その返還を請求することができない。

所得税法の定める「収入すべき金額」とは、収入すべき権利の確定した金額と解されている。

 

Xの主張

制限超過利息の未収分は違法のものとして請求できないから、これを課税の対象から除外すべきである。

 

国側の反論

制限超過利息部分も、制限内の利息と一体として管理され、現実に支払われている。

(参考 消費者金融の金利は、通常29.2%以下の29%程度で貸し出されている。)

 

判決

最高裁判決では、制限超過利息の支払は、元本の返済に充当されると解されている。

しかし、課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしも、その法律的性質いかんによって決せられるものではない。当事者間において約定の利息・損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っている以上、制限超過部分も含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸し無視の所得として課税の対象となるというべきである。

一般に金銭消費貸借上の利息・損害金債権については、その履行期が到来すれば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、収入すべき金額に当たるものとして、課税の対象となる所得を構成すると解される。これは、特段の事情のない限り、収入実現の可能性が高度であると認められるからである。

しかし、制限超過の利息・損害金は、その基礎となる約定自体が無効であって、貸主は、ただ、借主が、大法廷判決によって確立された法理にもかかわらず、あえて法律の保護を求めることなく、任意に支払を行うかも知れないことを、事実上期待しうるにとどまるのであって、収入実現の蓋然性があるということはできず、「収入すべき金額」に該当しないというべきである。

 

評釈(判旨反対)

 法的には権利を主張することは出来ないが、現実には収入の蓋然性は高く、所得と認識すべきと考える。




7月22日・23日

帳簿不提示と仕入税額控除

最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決

(事実の概要)

Xは大工工事業を営む個人事業者であるが、平成2年分の消費税について確定申告をしなかった。また、Xは平成2年分の所得税の確定申告をしたが、その申告書に総収入金額および必要経費を記載しなかった。

 税務署の職員は、Xの消費税を算出するためXの帳簿書類を調査しようとしたが、Xは調査を交際費の領収書を見せただけで帳簿書類を提示せず、調査に協力しなかった。

 税務署長は、所得税について推計課税を行い、その計算における総収入金額に消費税率を乗じて仕入税額控除をせず、納付すべき消費税額を算定して決定した。

 Xは仕入税額控除を認めるべきであるとして訴えを提起した。

争点

 調査の際、帳簿を提示しなかった場合は、後に保存があったことを証明しても、仕入税額控除を適用しないことは正当か。 

判決

 事業者が、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間および場所において、税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、帳簿又は請求書等を保存しない場合に当たる。

評釈 判旨妥当

後に保存を証明すれば30条1項適用ありとする見解もあったが、最高裁は提示なき場合は保存なしと判断した。文理上疑問もあるが、目的論的解釈として許されると考える。



7月15日・26日

消費税の計算方法

東京高裁平成12年3月30日

(事実の概要)

 スーパーマーケットを経営するX(原告・控訴人)は、平成元年から平成4年度までの消費税の計算を次のように計算して申告した。

A商品の売上金額÷A売上個数=Aの単価(例60円)

A単価(60円)×3%=1.8円 A1個の消費税は1円

A1個の消費税×Aの売上個数=消費税額

            (1000個)   (1000円)

商品BCD・・・・・・について同じ方法で計算

すなわち、1個で計算した場合の1円未満の端数切り捨てを利用して、消費税額を少なく申告していた。

 税務署長は、この計算を認めず、課税期間の全売上額に3%を乗じて消費税額を計算する更正を行った。

参考

 当時、決済上受領すべき金額を消費税の額と対価の額に区分して領収し、1円未満の端数処理をしている場合は、例外的にその金額を基礎として消費税額を計算することが出来ることとされていた(消費税法施行規則221項)。

判決

 法28条1項は、消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とする旨を規定するものであるから、・・・・原則的に個々の取引の対象となった課税資産の対価の額が課税標準となるものと解される。しかしながら、・・・・申告納税方式をとる消費税においては、確定申告書に記載されるべき右の課税標準額の合計額(課税標準額)に税率を課する方法がとられている。

 決済上受領すべき金額とは、一括受領代金合計額を意味するものと考えられており、これを個々の商品ごとの決済として個々の商品の代金を受領しているものとは観念されていないので、施行規則221項の規定は適用できない。そうであれば、原則どおり課税標準額に税率を乗じて消費税額を計算すべきである。



7月8日・9日

 消費税の合憲性

東京地裁平成2年3月26日判決(判時1344号115頁)

損害賠償請求事件

事実の概要

 Xら(サラリーマン新党青木茂ほか)が、消費税法の立法行為は違憲であるとして、国家賠償法により国にその損害の賠償を求めた事件。実質的には制度改革訴訟といえる。

違憲の主張

@ 仕入税額控除制度

A 簡易課税制度

B 事業者免税点制度  

は、事業者が消費者から消費税を徴収しながらその一部

を国庫に納入しないことを是認する点で不合理であり、恣意的徴税を禁止する憲法84条に違反する。

判決

消費税は取引の各段階における事業者に課税されるもので、消費者はその実質的負担者であるが、その納税義務者ではない。

したがって、消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が当該消費税分につき、過不足なく国庫に納付する義務を消費者に対する関係で負うものではない。・・・・・・

免税事業者からの仕入についても仕入税額控除が認められる点、簡易課税制度により3%の負担をしていない点、免税事業者も消費税分を上乗せしている点において、消費者に対する過剰転嫁が生じる可能性もなくはないが、転嫁額は事業者の取引上の意思決定に任されているので、消費税分の価格への転嫁が必然的に過剰転嫁を生ぜしめるものとはいいがたい。消費者が消費税相当分として事業者に支払う金銭はあくまで商品ないし役務の対価であって、消費者は税そのものを恣意的に徴収されるわけではないから、消費税法は租税法律主義を定めた憲法84条の一義的な文言に違反するものではない。

評釈 判旨賛成

 消費税は事業者に課される税であるが、導入当初は消費者に課される税と誤解されていた。Xはその誤解に基づいて本訴を提起したものである。


7月1日、2日

審理の対象―理由の差替えー
最高栽昭和56年7月14日 第三小法廷判決
事実の概要
  宅地の分譲販売を業とするX会社は、昭和36年の事業年度において本件不動産を7000万円で販売し、取得価額7600万円との差額600万円を損失として計上した。この申告に対してY税務署長は、本件不動産の取得価額は6000万円であり、1000万円の譲渡益が生じたとして、所得を1600万円増加する更正処分を行った。

 提訴後6年以上経過した第1審口頭弁論期日にYは、本件不動産の販売価額は9600万円であることが判明したとして従前の主張を変更した。(取得価額は土地代6000万円の他、その土地で営んでいたパチンコ店に支払った廃業補償金1600万円を含むと認められる。)

譲渡所得の計算方法
総収入金額−(取得費+譲渡費用)=所得 
申告 7000万円−7600万円=−600万円
更正 7000万円−6000万円=1000万円
     1000万円+600万円=1600万円の増額更正
裁判での税務署長の主張
 9600万円−7600万円=2000万円  譲渡所得は2000万円であるので譲渡所得を1000万円とした更正は違法でない。(取得価額を理由に更正したが、裁判では販売価額の漏れを主張した。)

争点
 理由を付して行った更正処分の取消訴訟において、更正処分の理由と異なる理由を主張することができるか。

1審京都地裁判決

 青色申告に対する更正処分には理由付記を要することとされている趣旨からすれば、異なる理由を訴訟において主張することはできない。

2審大阪高裁判決
 更正処分に理由を付記する目的は、処分者の判断を慎重にさせることと、不服申し立ての便宜のためである。

 これと、更正処分による所得金額の存否とは、別問題である。理由付記に瑕疵がなく処分が有効である以上、訴訟において異なる理由を主張することは妨げられない。

最高裁判決

 Yは、本訴における更正処分の適否に関する新たな攻撃防御方法として、仮に本件不動産の取得価額が7600万円であるとしても、その販売価額は9600万円であるから、いずれにしても本件更正処分は適法であるとの趣旨の追加主張をしたというものである。このような場合にYに本件追加主張の提出を許してもXに格別の不利益を与えるものではないから、Yが追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

評釈

 取消訴訟で争われている物(訴訟物)は何か。

 処分の適否か

 税額(所得)の適否か

すなわち

 手続きの適否か

 実体法上の義務の適否か

通説 最高裁判例を是認する。すなわち、正当税額を超えない処分は適法とする。

しかし、取消訴訟は抗告訴訟であり、訴訟物は処分の違法性一般と解されている。それは、行政官庁(税務署長)の行為に瑕疵があるか否かを問題にするものであると考えられる。行政法の通説と税法の通説に矛盾はないか。

通説が妥当であるか検討を要する。現在(昨年)の私の研究テーマであり、9月中にまとめるつもり。昨年講義時のもの。現在の見解は講義のとおり。




6月10日、11日

推計課税

東京高裁平成6年3月30日判決 行集45巻3号857頁

事実の概要

1 X(原告・控訴人)は、建設業・飲食業等を営む白色申告者である。

2 昭和54年分から昭和56年分の所得税について、税務署員がXの事務所に行き、再三の調査協力を要請したが帳簿を提示せず、調査を拒否した。

3 そこでY(税務署長)は、Xの取引銀行および取引先の半面調査により把握した各事業の収入金額に、各事業の同業者の平均所得率を乗じる方法により所得金額を算定し、更正を行った。

4 Xは、更正の取消を求めて訴訟を提起した。

所得税法156条

 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(・・・青色申告書に係る年分を除く・・・)を推計して、これをする事ができる。

Xの主張

1 調査は係官が一方的に打ち切ったので、本件は推計課税の必要性がなかった。

2 Yは恣意的に同業者を選定しており、推計に合理性がない。

3 所得金額は帳簿書類に基づき、実額で算定すべきである。

判決

1 調査に非協力であったので、推計に必要性があった。

2 所得税法156条は、間接的に資料で所得を認定する方式を認めており、これは概算課税の性質を有するので、実額課税に代わる方式にふさわしいといえる程度の合理性があれば足りる。

3 実額で反証するには、収入、経費の全ての実額を主張・証明することを要する。 

評釈

 判旨妥当






5月20日税法A、21日税法T 使用判例 


租税回避の否認

最高裁平成6年6月21日第三小法廷判決

事実の概要

X(原告、控訴人、上告人)は土地、建物および駐車場(本件物件)を所有している。

  有限会社AはXとその妻Bが出資し設立、Xが代表取締役、Bが取締役である。(Aは同族会社)

 XはAに本件物件を賃貸した。

X     賃貸     A      転貸      利用者

    (年2400万円)     (年3635万円)

転貸料と賃貸料の差額(管理料)は、1235万円で転貸料収入の33.9%である。

税務署長は、この実質管理料は高額に過ぎ、この取引はXの所得税を不当に減少させるもの(租税回避)として、否認した。

つまり、Xと同様の不動産業を営んでおり、管理を第三者に委託している者数社の管理料の平均9%を適正管理料として、それを超える金額(1235万円−327万円=908万円)を所得の脱漏として、これを所得に加えて課税した。

論点
 同族会社を利用して、通常ありえない取引によりXの所得税を減額させた場合、実質課税の原則により課税する事ができるか。

租税回避

 私法上の契約を巧妙に構成して、課税を回避する事

  実質課税の原則により、経済的に把握して課税できるとの考えもある。しかし、学説、判例はこれを課税するためには、法律の根拠を要すると解している。

所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)
 「税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合は、・・・・・所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、・・・・税務署長の認めるところにより、・・・・・・・計算する事ができる。」

Xの主張
        Aから役員報酬を受けているので、所得税の負担を不当に減少していない。
        適正管理料の算定は不当である。

判決 上告棄却
 次の高裁判決を維持

       報酬は所得の発生根拠が異なるので、切り離して考えるべき。
       「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が通常の経済
人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきである。

    適正管理料の算定の方法に不合理な点はない。

評釈 不当に減少させる結果についての判断は、正当と考える。
    しかし、高裁判決のAからの報酬は、所得の発生根拠が異なるので、切り離して考えるべきとの判断は不当と考える。
    所得税の負担は、Xの全体の所得税について考えるべきであり、報酬の発生が当該同族会社の行為計算と関係している場合は、報酬に係る所 得税も総合的に判断すべきである。そうであれば、結果的に不当に減少させる結果となっていたか否か疑問である。これは、久留米大学大学院修了者の修士論文のテーマで取り上げられた問題であり、その結論も同じである。