固定資産税の課税における住宅用地の認定について

文献種別      判決/最高裁判所第二小法廷

判決年月日     平成23年3月25日

事件番号平成21年(行ヒ)第154号

事件名       固定資産税賦課処分取消請求事件

裁判結果      破棄自判

参照法令      地方税法(平成18年法律第7号による改正前のもの)349条の3、702条の3

掲載誌       判例集未登載 

                      (LEXDB文献番号25443245)

《事実の概要》

1 事実の経緯

 上告人は、東京都渋谷区内に面積200平方メートル以下である本件土地およびこれを敷地とする建物(以下「旧家屋」という。)を所有していたところ、A社との間で、旧家屋を取り壊し本件土地に家屋(以下「新家屋」という。)を新築する旨の工事請負契約を締結した。A社は、平成16年7月26日、旧家屋を取り壊した。新家屋の建築工事は、同日から平成17年5月31日までを工事予定期間として着工されたが、同年2月ころ、地下1階部分のコンクリート工事が終了した時点で、多数の瑕疵が存在することが判明した。A社は、上告人に対して地下1階部分を解体して建築工事を継続する旨約したが、その後、近隣住民の反対等により工事が進捗しないまま、平成18年2月ころ、上告人に対し、本件土地を建築途中の新家屋とともに買い取りたいとの申し入れをした。そこで、上告人とA社は、同年4月14日、上記申し入れに係る買取についての和解契約を締結し、本件土地はA社に譲渡された。

2 課税の概要

(1)   地方税法349条の3の2は、「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの」(住宅用地)に対しては、その面積が200平方メートル以下のものについては、固定資産税の課税標準を課税標準の価格となるべき価格の6分の1とし、同法702条の3は都市計画税の課税標準を3分の1とする旨定める。旧家屋は、地方税法349条の3の2第1項所定の居住用家屋のうち「専ら人の居住の用に供する家屋」に該当するものであったが、平成17年度及び同18年度の固定資産税等の各賦課期日(平成17年及び18年の各1月1日)において、旧家屋は取り壊されて存在せず、新家屋はいまだ完成していなかった。

(2)   東京都においては、地方税法349条の3の2第1項所定の住宅用地の認定に関し、「住宅建替え中の土地に係る住宅用地の認定について」と題する通達(平成14年12月6日14主資評第123号による廃止前のもの。以下「本通達」という。)を発し、既存の住宅に替えて住宅を新築する土地のうち、〔1〕当該土地が当該年度の前年度に係る賦課期日において住宅用地であったこと、〔2〕住宅の新築が建替え前の住宅の敷地と同一の敷地において行われるものであること、〔3〕当該年度の前年度に係る賦課期日における建替え前の住宅の所有者と建替え後の住宅の所有者が同一であること、〔4〕当該年度に係る賦課期日において、住宅の新築工事に着手しているか、又は確認申請書を提出していて確認済証の交付後直ちに(既に確認済証の交付を受けている場合は直ちに)住宅の新築工事に着手するものであること、という適用基準の全てに該当する土地については、住宅が完成するまでに通常必要と認められる工事期間は、従前の住宅用地の認定を継続することとしていた。

(3)   東京都渋谷都税事務所の職員は、平成16年12月22日、本件土地の現地調査をし、旧家屋が取り壊されたこと、本件土地上に新家屋が建築されようとしていること、本件土地に設置されていた建築計画の看板に、上告人が建築主とする居住用家屋の建築工事中である旨及び前記1の工事予定期間が表示されていることなどを確認した。同都税事務所長は、本件土地が本通達の適用基準を満たすものとして、本件特例のうち面積が200平方メートル以下である住宅用地に対する特例を適用した上、上告人に対し、平成17年6月1日付けで平成17年度の、同18年6月1日付けで同18年度のそれぞれ本件土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の賦課決定をした(以下、これらの賦課決定を「本件各当初処分」という。)。

(4)   東京都渋谷都税事務所長は、平成18年5月8日、東京法務局渋谷出張所から、本件土地の所有権が売買を原因として上告人からA社に移転した旨の登記済通知書を受領した。同都税事務所の職員は、同年7月27日、同年10月21日及び平成19年1月15日、本件土地の現地調査をし、いずれの日においても、新家屋が完成しておらず、その建築工事が中断されている状態であることを確認した。同都税事務所長は、新家屋が通常必要と認められる工事期間内に建築されず、また、本件土地の所有権がA社に移転して建築主が変更されたことにより本通達の〔3〕の基準を満たさないことが明らかになったとして、同年2月9日付けで、上告人に対し、本件各当初処分における各年度の固定資産税等の税額と本件土地につき本件特例の適用がないものとして計算した当該各年度の固定資産税等の税額との差額分について、それぞれ賦課決定をした(以下、これらの賦課決定のうち、平成17年度の固定資産税等に係るものを「平成17年度処分」、同18年度の固定資産税等に係るものを「平成18年度処分」といい、両者を併せて「本件各処分」という。)。 

(5)   上告人は、本通達は、住宅を建て替えるときに通常たどる経過を前提としたものであって、本件のように、建替え工事中、その瑕疵が発覚したため、やむにやまれず土地を譲渡した場合までを想定したものではなく、このような場合まで本通達に従い、本件特例を適用しないのは地方税法に反するとして、訴えを提起した。

3 争点

固定資産税の課税標準たる土地の評価額の決定に関する土地の地目の認定について、固定資産税評価基準(自治省告示158号)は、「土地の現況及び利用目的に重点を置く」こととしており、現況重視は固定資産税課税の基本的な考え方である。本件土地に関しては、平成17年度、同18年度の賦課期日とも土地の上に家屋は存在しておらず、現況は「敷地の用に供されている土地」とはいえないであろう。

しかし、東京都は国の指導に基づき本通達を定め、居住用家屋が存在していない場合にも、一定の場合に居住用家屋の敷地と認めることとしている。

 本件においては次の点が問題となる。

(1)本通達は、租税法律主義に反しないか。

(2)本通達は、適用基準を満たさないことが判明した土地については、遡って本取扱いの適用を取り消す旨を定めているが(本通達4(6))、これに基づく本件各処分は適法か。

 

《判決の要旨》

 一審判決(平成20年6月13日東京地裁判決)及び控訴審判決(平成21年1月29日東京高裁判決)は、請求を棄却したが、本判決は、一部請求を認容した。その要旨は次のとおりである。

1 「本件特例は、居住用家屋の『敷地の用に供されている土地』(地方税法349条の3の2第1項)に対して適用されるものであるところ、ある土地が上記『敷地の用に供されている土地』に当たるかどうかは、当該年度の固定資産税の賦課期日における当該土地の現況によって決すべきものである。」

2 「事実関係等によれば、平成17年度の固定資産税の賦課期日である平成17年1月1日における本件土地の現況は、居住用家屋であった旧家屋の取壊し後に、その所有者であった上告人を建築主とし、同16年7月26日から同17年5月31日までを工事予定期間と定めて、居住用家屋となる予定の新家屋の建築工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあったということができる。このような現況の下では、本件土地は上記『敷地の用に供されている土地』に当たるということができ、その後になって、新家屋の建築工事が中断し、建築途中の新家屋とともに本件土地が訴外会社に譲渡されるという事態が生じたとしても、遡って賦課期日において本件土地が上記『敷地の用に供されている土地』でなかったことになるものではない。」そうすると、本件特例の適用がないものとしてされた平成17年度処分は、違法というべきである。

3「これに対し、前記事実関係によれば、平成18年度の固定資産税の賦課期日である平成18年1月1日における本件土地の現況は、上記の期間を工事予定期間として着工された新築工事が、地下1階部分のコンクリート工事をほぼ終了した段階で1年近く中断し、相当の期間内に工事が再開されて新家屋の完成することが客観的に見て取れるような事情もうかがわれない状況にあったということができる。このような現況の下では、本件土地は上記『敷地の用に供されている土地』に当たるということができず、本件土地に係る平成18年度の固定資産税等については、本件特例の適用はないから、その適用がないものとしてされた平成18年度処分は、適法というべきである。」

 

《判例の解説》

1 争点1について

(1)  本判決は、「ある土地が上記『敷地の用に供されている土地』に当たるかどうかは、

当該年度の固定資産税の賦課期日における当該土地の現況によって決すべきものである。」と地方税法349条の3の2の解釈について、現況以外の要素を考慮すべきでない旨を判示する。そして、東京都の定める本通達が、合法であるか否かについて触れることなく、平成17年度の賦課期日において「居住用家屋となる予定の新家屋の建築工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあったということができる。このような現況の下では、本件土地は上記『敷地の用に供されている土地』に当たるということができ、」と認定して平成17年度処分を取り消した。

(2)しかし、本通達の合法性について1審判決は、「本件特例規定は、固定資産税等の賦課期日において現に居住用家屋の存する土地を対象とするものではあるものの、取扱通達、自治省通知及び本件通達は、それらの定める基準に該当する場合には、現に居住用家屋の存する土地でなくても、本件特例を適用するものとしており、そのような取り扱いは、前記2のとおり、上記賦課期日までに新たな居住用家屋が完成していなかったとしても、現に居住用家屋が存する場合と同視し得る事情が存するものとして合理的な根拠があると認めることができるから、それらの趣旨に照らし、本件特例規定が許容し得るところの納税者にとって有利な解釈又は行政先例として、本件特例規定に反し違法とするには及ばないものと解するのが相当である。」としている。前記2とは、賦課期日から賦課期日の間に建て替え工事が完了する場合と、賦課期日を跨いで工事が完了する場合を区別する取り扱いは合理性に疑いを生じさせかねないとの記述を指す。1審判決は、本通達を本件特例規定が許容しうるところの納税者にとって有利な解釈であり適法と解する。

 控訴審判決も1審判決を引用しつつ、「本件通達のように、当該土地が前年度の賦課期日において住宅用地であり、居住用建物の建替えの前後で当該建物の所有者が同一で、通常必要と認められる工事期間内に新家屋が建築される(住宅の建設が当該年度の賦課期日において着手されており、翌年度に係る賦課期日までに完成する)場合に、例外的に当該土地は「居住用家屋の敷地の用に供されている」と解することは、本件特例規定の趣旨に沿い、課税の公平にもかなうもので、同規定の解釈として合理的であり、本件規定に反し違法とするには及ばないものと解されるのである。」とする。

(3)1審判決及び控訴審判決は、物理的にその土地の上に家屋が存しない土地を「敷地の用に供されている土地」と認定することは、現況重視の視点からは問題があるが、現況重視は固定資産税に関する法の解釈に当たっての考え方であり、現況以外の要素を加えて通達が一定の範囲で取扱いを定めることは租税法律主義に反しないと解するものである。

本判決は、そのような解釈を租税法律主義の合法性の要請に沿わないと判断したためか、本通達の適法性を認めることを回避している。一方、現況を広く解して、工事中で家屋の存在しない土地の現況を「敷地の用に供せられている土地」と解釈し、結果的に本通達より広い範囲で取扱いを認める結果となっている。

2 争点2について

(1)本通達は、4つの適用基準の全てに該当する場合に限り、「敷地の用に供されている土地」とすることとしている。そして、後に適用基準に該当しないことが判明した土地については、その取り扱いを取消すと定めている。本件土地については、平成18年度の賦課期日の後に譲渡されたことから、本通達の定める〔3〕当該年度の前年度に係る賦課期日における建替え前の住宅の所有者と建替え後の住宅の所有者が同一であることの基準を充たさないこととなった。そうすると、本通達によれば平成17年度も、同18年度も「敷地の用に供されている土地」とはならず、非住宅用地として課税されることになり、本件各処分が行われた。

(2)しかし、本判決は、本通達を前提とすることなく、平成18年度について非住宅用地として課税することを認める一方で、平成17年度について非住宅用地として課税することを違法とした。その根拠となる事実認定につき、最高裁は「旧家屋の取壊し後に、その所有者であった上告人を建築主とし、同16年7月26日から同17年5月31日までを工事予定期間と定めて、居住用家屋となる予定の新家屋の建築工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあった」とする。一方、平成18年度については、「着工された新築工事が、地下1階部分のコンクリート工事をほぼ終了した段階で1年近く中断し、相当の期間内に工事が再開されて新家屋の完成することが客観的に見て取れるような事情もうかがわれない状況」と認定して、これに対する非住宅用地としての課税を是とした。

(3)本判決が、本通達を認めない以上、通達の取り扱いと無関係に、独自に17年度の賦課期日の現況を認定して、平成17年度処分を違法と判断することは可能であろう。

本判決の解釈によれば、平成17年度の賦課期日の現況は住宅用地としての要件を充たしていたのであり、本判決の判断は正当と考える。

3 本判決の影響

 本判決は、現況を重視する一方で、現況の範囲を単に物理的外観を指すのではなく、その範囲を広く解している。本件で、平成17年度と平成18年度の各賦課期日の状況の相違は、物理的外観はほとんど異なるところはなく、異なるのは工事期間のほか「相当の期間内に工事が再開されて新家屋の完成することが客観的に見て取れるような事情もうかがわれない状況」の存在である。しかし、このような状況を現況に含むと解することは、大量処理を前提とする課税実務からすれば困難な面があると考える。その意味で、本判決は、実務に課題を残したとえよう。

むしろ、現況自体は従来同様に限定的に捉え、現況以外の使用目的も含めた解釈を許すものとして、その基準を定める取扱通達の合法性を認めるべきではなかっただろうか。争点2については、後の状況の変化は先の賦課期日の状況を変更するものではないとして、その点の通達の取扱を違法とすれば足りたと思われる。

本判決が、結果的に本通達の基準をおおむね認めていることから、遡及取消しの点を除き、本通達の機能は存続するものと思われる。