米国LLCからのインセンティブ再配分の配当所得該当性

文献種別      判決/東京地方裁判所
判決年月日     平成23年6月14日
事件番号      平成22年(行ウ)第244号
事件名       所得税更正処分取消請求事件
裁判結果      棄却
参照法令      所得税法24条、36条
                      (LEX/DB文献番号 25483604)

《事実の概要》
1 事実の経緯
(1)  原告は、わが国の居住者であり、リミテッド・パートナーシップ形式によるファンド(以下「本件ファンド」という。)のゼネラルパートナーであるリミテッド・ライアビリティ・カンパニー形式の法人(以下「本件LLC」という。)に出資している。
(2)  本件LLCの構成員間の取り決めを定めたAGREEMENT(以下「本件LLC契約書」という。)は、本件ファンドから、本件LLCにゼネラルパートナーの義務に対するインセンティブとして配分された金額のうち各構成員の持分相当額(以下「本件インセンティブ再配分」という。)の全部又は一部につき、各会計期間末又は本件LLCのAメンバー(議決権を有するメンバー)の決定した時に、本件LLCの各構成員が書面により払戻しの請求をすることができる旨定めている。
(3)  原告の各会計年度のインセンティブ再配分の額は、次のとおりである。
平成17会計年度 2007万3778.04米ドル
平成18会計年度 1275万8303,16米ドル
(4)  原告に対する平成17年分の払戻しの経過は、次のとおりである。
 平成17年12月29日、本件LLCの担当者は、原告に対して平成17年会計年度のインセンティブ再配分に係る払戻し金額が5億円でよいか尋ねた。原告は同担当者に対して平成17会計年度のインセンティブ再配分の60%を引き出したい旨、最終決定されたインセンティブ再配分の確定額が足りるのであれば、1200万ドルを払い戻したい旨を回答した。同月30日担当者より回答を受信したことの確認と来週には払戻金を送金できる旨の回答があり、平成18年1月5日、原告名義の米ドル普通口座に1200万ドルが送金された。
(5)  原告に対する平成18年分の払戻しの経過は、次のとおりである。
 平成19年1月11日付けで、本件LLCの担当者から平成18会計年度のインセンティブ再配分の金額が1275万8297米ドルである旨、この金額を円クラス、米ドルクラスでどのように配分するか及び現在の原告の本件ファンドにおける持分の90%弱が円クラスであり、残りは米ドルクラスになっている旨の連絡を受けた。原告は、この連絡を受けた後、担当者に対し、50%を払い戻し、残りは円クラスに配分してほしい旨伝えた。同月24日、原告名義の米ドル普通口座に631万3184.62米ドルが送金された。
(6)  原告は、実際に払い戻しを受けた金額を配当所得とし、平成17年分及び平成18年分の所得税確定申告書を期限内に提出した。これに対して、平成20年6月30日付けで、税務署長よりインセンティブ再配分の金額の全額が配当所得に該当するとして、平成17年分及び平成18年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
 原告は、これら処分を不服とし、不服申立て手続を経て、本件訴訟を提起したものである。
2 争点
  本件の争点は、本件LLCからの配分を配当所得として収入計上するに当たり、インセンティブ再配分の全額を配当所得とすべきか、実際に払い戻しを受けた金額を配当所得とすべきかである。
(1) 原告の主張
 ア 本件インセンティブの再配分は、その全額が本件LLCに対する原告の投資資本の増加分になるというべきである。
 イ 本件LLCの各構成員は、本会計年度末又はAメンバーズの決定した時という限定された時期にのみ払戻しの請求をすることができるのであり、原告の本件LLCに対する投資資本の期末残高は、次回の払戻請求可能時期までリスクにさらされた投資資本となっていることからすれば、本件インセンティブ再配分の金額を含む本件LLCに対する投資資本の全額について原告に払戻しを受けられる権利が生じているとしても、この権利は未実現の権利であり、その投資資本のうちから原告が払戻しを選択した額につき、その後、実際に払戻しを受けた時点で収入すべき金額となると解すべきである。
2) 被告の主張
ア 本件LLCへのインセンティブ配分については、その全額が各会計年度末に決定され、その後の本件ファンドの資産運用の結果、損失が生じたとしても、それ以前に決定されたインセンティブ配分の金額の減額又は返還を要するものではなく、いつでもその全額を払い戻すことができる。
イ 本件LLCから各構成員に対するインセンティブ再配分については、本件LLC契約に定めるインセンティブ割合によりほぼ自動的に各構成員に対するインセンティブ再配分の金額が決まることになる。そして、各構成員は、本件LLCの会計年度末において、インセンティブ再配分の金額の全部または一部について、払戻しを請求できる。
ウ 本件インセンティブ再配分の金額のうち払戻しを選択しなかった金額についても、原告が自ら明示又は黙示に再投資の指示を行い、日本円による投資ができるようになってからは原告が米ドルによる投資をするか日本円による投資をするかを指示していることからすれば、原告自身がその処分権限を有し、継続して管理していたと認めることができる。
エ インセンティブ再配分がされた後に、各構成員の意思に関係なく本件LLCの資本金に組み入れられることや本件ファンドの出資金となることはない。したがって、インセンティブ再配分がされた時点で、その全額について各構成員が自由に処分可能な払戻し請求権が発生するのであり、当該金額の全額が配当所得の収入すべき金額となる。

《判決の要旨》
1 権利確定主義
 「本件インセンティブ再配分の全額を収入として計上すべきかどうかという本件の争点に対する判断に当たっては、本件インセンティブ再配分のうちの原告が現実に払戻しを受けなかった部分について、その収入の原因となる権利が確定したといえるかどうかを検討する必要がある。」
2 インセンティブ再配分と投資
「本件メモランダムおよび本件LLC契約書には、本件インセンティブ再配分が自動的に本件ファンドにおける投資に充てられることを定める趣旨の規定は置かれていないと解すべきである。」
3 再投資に対する指示
 「本件インセンティブ再配分のうち払戻しを請求しなかった部分については、原告が、毎年、明示又は黙示に再投資の指示をしていると解するのが相当であり〔(一部略)原告は、乙第13号証において、明示的には再投資の指示を行わなくなっていると供述しているが、他方で、平成18年分の本件インセンティブ再配分のうち払戻しを請求しなかった部分につき、円による投資をするのかドルによる投資をするのかを指示しているのであり、再投資には原告による何らかの指示が必要とされていることは明らかである。〕、その結果として、本件インセンティブ再配分のうち、原告が払戻しを請求しなかった部分が、翌会計年度において投資対象となっていると解することが相当である。これらによれば、原告は、各会計年度における本件インセンティブ再配分の金額が確定した時点で、その全額の払戻しを請求することができ、かつ、本件インセンティブ再配分が自動的に本件ファンドにおける投資の対象となることはないと解され、本件インセンティブ再配分については、当該会計年度が終了した直後で現に払戻しを受け得る状態となる翌会計年度の初日の時点〔(略)〕で、その全額につき、支払を受ける権利が確定したというべきであり、その全額が、配当所得の収入すべき金額となるというべきである。」

《判例の解説》
一  米国LLCの特色と本判決
1 米国LLCの法人該当性
 本件は、米国の事業体であるLLC(Limited Liability Company)からの利益配当に関する事案である。米国のLLCは、パートナーシップと一般の法人の中間的な事業体と考えられ、米国においては、法人格を有しながらもパートナーシップ課税すなわち構成員への所得税課税を選択することができる場合(チェック・ザ・ボックス方式)がある。米国LLCについて、わが国の税法の適用において法人と認めるのか、組合と認めて構成員に所得税を課すのかの疑問があった。
 これについては、平成13年の国税不服審判所裁決は、LLCが米国でパートナーシップ課税を選択した場合であっても、わが国ではこれを法人と認め、LLCの損失をわが国の構成員の所得計算上損失とすることを認めないとした(注1)。また、平成19年の東京高裁判決は、米国ニューヨーク州法により組成されたLLCの構成員が、パートナーシップ課税を選択した当該LLCの不動産賃貸業に係る収支及び預金利息を、不動産所得及び雑所得としてわが国の所得税の申告をした事案について、それをLLCに帰属するものとし、LLCからの分配金を出資の払戻しではなく配当所得として課税した処分を認めている(注2)。さらに、国税庁の質疑応答事例「米国LLCに係る税務上の取扱い」は、米国LLCを原則的にわが国私法上の外国法人に該当するとしている。
 本件では、本件LLCがわが国の税法上の法人であること、インセンティブ再配分の払戻しが配当所得であることについては争わず、LLCについての解釈が定着したものといえよう。しかし、本件LLCが組合的組織であることは、課税及び本判決に影響していると思われる。
2 LLCの特質と審理の形態
 本事案の審理は、法人である本件LLCからのインセンティブ再配分について、配当所得としての権利が確定しているか否かを認定することが中心となる。LLCは、その組合的特質から契約によって多くのことを定めているため、本判決は、外国法を根拠とした複雑な本件LLC契約書を中心に、綿密に契約の解釈を行い、インセンティブ再配分について、払戻しを請求しなかった金額についても、権利が確定したものと認定した。LLCに係る事案についての、モデルとなる審理の形態と考える。
 ただし、このLLC契約書の解釈については、疑問がある。

二 各論点について
1 権利確定主義
 本判決は、払戻しをしなかったインセンティブ再配分が配当所得に該当するか否かを、権利確定主義により判断するとしている。権利確定主義とは、収入金額に関する考え方である。所得税法24条2項は、「配当所得の金額は、その年中の配当等の収入金額とする。」と定める。そして、所得税法36条1項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(括弧内略)とする。」と定めている。昭和26年に制定された旧所得税基本通達では「収入すべき金額とは、収入する権利の確定した金額をいう。」(旧基本通達194)とされていた。このように収入金額とは、収入する権利が確定した金額と解され、権利確定主義とよばれた。つまり、権利確定主義とは所得の認識を法律上の物権、債権等の権利の帰属に求め、その所得認識の時点を権利の確定時とするものである。
 なお、所得認識については、無効な売買契約により代金を収入した場合のように、法的根拠を欠くが、現実にその利得を管理支配している場合には、所得を認識すべきとする管理支配基準が妥当する場合もある(注3)。現行の所得税基本通達(昭和45年7月1日直審(所)30(例規))(以下「基本通達」という。)が、旧基本通達194を踏襲していないのは、この理由である。
2 配当所得の権利確定の時期
 権利確定主義は、条文からも明らかであるように、所得の帰属年分を決定するための基準である。しかし、権利確定主義によるとしても、具体的な権利確定の時点を決定することは難しいので、基本通達がその細目を定めている。
 配当所得の収入金額の収入すべき時期について、基本通達36−4は、次に掲げる日によるものとし、剰余金の配当等については、「当該剰余金の配当等について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該剰余金の配当等を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日。(以下略)」と定めている。その効力を生ずる日とは、配当支払義務の発生した日、すなわち配当を請求できる金銭債権の発生時と解される。
3 インセンティブ再配分の意義
 インセンティブ再配分自体が各構成員の金銭債権の発生とみることができるか否かについては、本件LLC契約書等の定めによると考える。本件LLC契約書の詳細は十分把握できないが、判決文によれば以下のことがいえる。
 本件LLCには、各構成員ごとにインベストメント資本勘定、インセンティブ資本勘定、オペレーティング資本勘定が開設されている。インセンティブ資本勘定は、本契約により維持・調整され、本件ファンドから本件LLCに分配された分配の割当てが、各構成員のインセンティブ割合に基づき、貸方計上される。インセンティブ資本勘定から構成員に分配される払戻金は、インセンティブ資本勘定の借方に計上されるものと思われる。
 資本勘定の払戻しについては、本件LLCの各構成員は、会計年度末又は全てのクラスAメンバーが決定するその他の時点において、本件LLCの投資資本のうち、当該構成員の持分の全部又は一部について、一又は複数のファンドから払い戻す要請を本件LLCにさせることを書面で選択することができ、当該払戻しにより受ける受取金は、本件LLCが本件ファンドから受領する形で当該構成員に分配されるとされている。したがって、払戻しについては、形式的には本件LLCからの払戻しとされるが、実質は本件ファンドへの払戻しの要請を本件LLCが本件ファンドに行い、本件ファンドから送金されるものと思われる。
 以上の本件LLC契約書の内容によると、インセンティブ再配分が貸方計上されたことをもって、各構成員に払戻しを請求する金銭債権が発生したと解するには無理があると考える。
4 インセンティブ再配分と払戻しの法律関係
 本件LLC契約書によると、会計年度末にインセンティブ再配分について、構成員はその全部又は一部の払戻しを請求することができるとされている。この段階では、各構成員に、払戻しを受けるか否か、払戻しを受けるとすれば全額か一部かを選択する権利が生じているといえる。そして各構成員が選択して払戻しを請求した金額について、請求した時に払戻し請求した金額の金銭債権が発生するものと考えられる。したがって、払戻しを請求しなかった金額については、金銭債権は発生しておらず、権利確定があったとはいえない。
 インセンティブ再配分があった時に、全額を上限とする金額未定の金銭債権が発生したと考えることも可能であるが、そうであるとしても金額が確定するまでは権利が確定したとは言えず、払戻しを請求した以後は、払戻を請求した金額の金銭債権となるので、払戻しを請求しなかった金額についての金銭債権は存在しない。
 なお、以上によれば、権利確定の時期は、払戻しの請求をした時となる。本判決はインセンティブ再配分のあった会計年度の翌会計年度の初日に権利が確定したとしている。本件会計年度末は12月31日であるため、原告のした平成18年分又は平成17年分と平成18年分の所得税確定申告には、年分の誤りがあることになるであろう。
5 払戻しを請求しなかったインセンティブ再配分
 本判決は、払戻しを請求しなかったインセンティブ再配分について、担当者に投資についての指示をしていることをもって全額について権利が確定したことの根拠としている。(本件LLC契約書に担当者への指示に関して規定があるか否かは不明である。)しかし、払戻しを請求しなかったインセンティブ再配分は、本件LLCの資本勘定に計上された法人の資本であり、各構成員はそれについて直接の権利を有しない。被告は、この部分につき管理支配基準のような主張をしているが、LLCを法人とする本件では妥当しない。権利確定主義により払戻しの請求をしなかった部分について配当所得を認定するのであれば、その部分について原告が本件LLCに対して、私法上の確定した金銭債権を有することを認定する必要があったと考える。それらの点で、課税及び本判決が、LLCの特質に影響されたのではないかと懸念するものである。

注1 国税不服審判所平成13年2月26日裁決 裁決事例集61号102頁
注2 東京高裁平成19年10月10日判決 訟務月報54巻10号2516頁
注3 金子宏 租税法第17版 弘文堂 256頁