平成21年3月修了者の修士論文の概要

末永統大  第二次納税義務と連帯納付義務の権利救済に関する一考察
 第二次納税義務者の権利救済については、主たる納税者の課税額が第二次納税義務の税額に直接影響するにもかかわらず、第二次納税義務の納付告知処分の取消訴訟では主たる納税義務者の税額を争うことはできないと解されてきた。それは、主たる納税義務者に対する課税処分の公定力を根拠と解されてきた。このことから、今まで第二次の宇治得義務者の権利救済方法については種々の議論がされてきた。その結果、判例では第二次納税義務者が主たる納税義務者の課税処分を争うことができるとされてきた。ただし、現実には第二次納税義務者が処分から2月の不服申立期間内に課税処分を知ることはなく、また、それが滞納となり二次義務を追及される可能性を知ることも困難であった。しかし、平成18年1月19日最高裁判決は、主たる納税者に対する課税処分についての第二次納税義務者の不服申立て期間の起算日を、第二次納税義務の告知処分からとしたことにより、実質的にこの問題を解決した。
 本論文は、第二次納税義務者の権利救済を、二次義務の告知処分の取消訴訟で争えることを論証するものである。これは、平成18年最判の泉裁判官の補足意見も指摘することであるが、その論拠は違法税の承継論ではなく共通違法性論というべき考え方で説明するものである。
 相続税の連帯納付義務については、連帯納付義務を課すについて納付告知を必要と解し、この告知には違法性の承継を認めるべきとする。



古川玲子  法人税法におけるのれん・法人税法62条の8「資産調整勘定」の性質についての一考察

 本論文は、企業が合併等により他企業から事業を承継する場合、その企業の純資産価額以上の対価を株主等に支払った場合の差額、すなわち営業権(会計上の「のれん」)に関する考察である。この差額は、営業権として受入れ企業の資産に計上し、一定の償却をするのが法人税法上の扱いであるが、それが営業権と認定されない場合は、寄付金として寄付金課税の対象となる。以上のことから、営業権とは何かが問題とされ、近年のM&Aの活発化により注目されている。
 本論文では、最近の会計基準の制定、新会社法の規定、法人税法の改正を踏まえ、従来の通説判例とされていた営業権を被合併企業の有する超過収益力と解する超過収益力とするの誤りを指摘し、赤字会社にも営業権があり得ることを論証する。超過収益力では無くて単なる超過額であり、法人税法上の資産調整勘定となる。なお、法人税改正前に営業権に含まれると解されていた無形減価償却資産は資産調整勘定から除かれ、資産調整勘定は60月の強制償却が行われる。それは資産ではなく、正に調整勘定である。
 のれんが超過収益力でないと解することから、赤字法人との合併においても資産調整勘定は発生し得るのであり、これを寄付金と認定することは誤りであることになる。



宮崎吉昭  同族会社の行為計算否認に係る対応的調整とその手続
      −法人税法と所得税法を中心にー

 本論文は、同族会社の行為計算否認規定により、両取引当事者間の経済的取引の一方当事者について否認された場合、他方の当事者と二重課税になることから、これを是正するために対応的調整規定が導入されたことを取り上げるものである。この規定の運用については、必ずしも明確でない。筆者は、過去の判例、学説、裁決を検討し、その運用の在り方を明らかにするものである。対応的調整を定める法人税法132条3項は、法人の行為又は計算につき所得税法157条1項、相続税法64条1項、地価税法32条1項の適用があったときについて1項を準用すると定める。1項は増額更正についての規定であり、対応的調整として減額更正できるか否かについて議論がある。本稿は、準用とは必要な読み替えを行なって適用する意味であるから、1項の「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは」を、「所得税法157条1項の規定の適用があったとき」A読み替えて、税務署長の認めるところにより法人税の額を計算することができると読むことができるとする。そうであれば、税務署長の認めるところにより減額更正が可能である。この3項の対応的調整規定は税務署長に反射的な計算処理の権限を与えた創設規定と解すべきである。同時に、納税者に減額更正を求める請求権が与えられたと解すべきであるとする。