平成25年3月修了者
 
 花等長一郎  DESにより生じる債務消滅益をめぐる裁判例に対する一考察

論文紹介(原本 久留米大学御井図書館蔵)

 法人税法は、資本等取引による収益および資本取引における損失は、所得計算上益金の額および損金の額に算入しないことを定めている。すなわち、資本等取引による純資産の増加および純資産の減少は、所得に反映されないのである。しかし、近年、出資の一部を寄付金とする課税を認容する判決、DESを目的とする増資会社を債務者とする債権の現物出資について、混同により消滅する債務について債務消滅益を益金の額に算入する課税を認める判決が出された。
 本論文は、この二つの判例の適否を論ずるものである。
 そして、会計学、会社法学、経済学の諸文献を検討し、資本を株主が会社に払い込んだものであり、利益は資本を運用した資本の増加部分であり、資本を運用した後にはじめて生ずるものであるとする。そして、この資本を増加減少させるものを資本等取引と解する。
 そして、このような資本取引の定義を前提として、額面より簿価が低額な債権を適格現物出資した場合に会計上生じる債務消滅益は、借方 債務消滅益/貸方 資本準備金として処理されるべきであるとする。すなわち、債権の適格現物出資により生じる債務消滅益は、資本等取引による収益であり益金の額に算入する課税は誤りであると結論する。


國友武    人的役務提供支払対価の課税仕入れ該当性についての一考察

論文紹介(原本 久留米大学御井図書館蔵)

 消費税法において、所得税法28条1項に規定する給与等は、仕入税額控除の対象から除かれるが、同じ人のサービスに対するひようであっても請負等の外注費は仕入税額控除が認められる。したがって、人のサービスに対する対価が給与であるか外注費であるかにより消費税額は大きく異なるため、この区別は重要である。すでに外注費として仕入税額控除した金額について、給与として否認された事例がある。
 本論文は、何故給与が仕入税額控除の対象から除かれているのかを解明し、それにより外注費と給与の区別の基準を明確にしようとするものである。
 消費税は付加価値税として構成されており、付加価値とは企業により付加された価値であり。給与は労働の対価であり、土地、資本とともに生産要素である。すなわち生産要素の活動により付加された価値が課税対象であり、給与は地代、利子とともに生産要素の対価である。生産要素により付加された価値の内容となっている。仕入税額控除は、その企業により付加されたものでない価値を除くものであるから、生産要素の費用は仕入税額控除から除かれる。すなわち、給与か否かの判断は、外部創出価値であるか内部創出価値であるかによるべきであり、その観点からは企業からの独立性が基準となる。

 税田大輔   借地権課税の明確化 
        −権利金の収受の慣行のない地域における借地権課税の整理ー

論文紹介(原本 久留米大学御井図書館蔵 )  一部推敲して久留米大学法学第69号に掲載

 本論文は、借地権の課税関係に関する研究である。借地権は、相続税、贈与税については、資産の価額として、法人税、所得税については設定及び移転に伴う収益の計上について問題となる。借地権は民法上の権利であるが、土地賃借の需要の多い東京圏および大阪圏の一部では、賃借権としての借地権の設定に権利金を支払うことが自然発生的な慣行となっている。一方、過疎地帯では借地権自体の価値が認められない地域もある。従来の借地権の課税関係についての議論は、東京圏の権利金の収受の慣行がある地域の課税関係が取り上げられ、それ以外の地域の課税関係をどのように解するかについて論じられることは無かった。
 本論文は、権利金の収受の慣行がある地域(第一地域)、権利金の収受の慣行はないが借地権を評価する地域(第二地域)、借地権が取引上評価されず評価通達でも評価しない地域(第三地域)と、地域区分をし、日本のほとんどの都市を含む第二地域における課税関係を各税について詳細に解明するものである。
 この地域を明確に三分割する考えは貴重であり、その根拠と、なぜそれが明確にされてこなかったかについても明らかにしている。


 田中慎吾   認定賞与の分類と源泉徴収制度との関係に関する一考察
        −法人の代表者による横領を巡る課税上の問題を契機としてー 

論文紹介(原本 久留米大学御井図書館蔵)

 本論文は、法人の代表者が横領を行った場合に、認定賞与とされ、給与所得として法人に源泉徴収義務が生じるとされる現在の課税実務の適否を検証するものである。先ず、経済的利益が役員に帰属していることが明確な認定賞与を「経済的利益の事実認定に係る認定賞与」とし、経済的利益が役員に帰属しているか否か不明である認定賞与を「使途不明金等の不正に係る推認を伴う認定賞与」に分類する。
 認定賞与に係る源泉徴収義務について、所得税法第4編は、源泉徴収義務者に源泉所得税の納税義務を成立させる独立の実体規定であり、横領のように支払者において支払を予測できないものは、「支払」という課税要件を充足しているとは言えないとする。実務において支払を「税法上支払と同視できるもの」にまで拡大しているが、納税者が認識できないものを課税要件とすることは課税要件明確の原則に反し、租税法律主義に反するとする。
 結論として、「使途不明金等の不正に係る推認を伴う認定賞与」については、支払の際に課税要件事実が認識できないことから、源泉徴収の対象とするべきではないこと、「経済的利益の事実認定に係る認定賞与」については、支払者に相当の注意を払えば支払を認識できたと考えられるので、源泉徴収義務が認められるとする。しかし、「経済的利益の事実認定に係る認定賞与」についても、支払という明確な行為を課税要件とする源泉徴収制度の趣旨から、これを源泉徴収から除外する立法措置が望ましいとする。


 平岡孝介   損害賠償請求権の収益計上時期について
        −法人税基本通達2−1−43の批判についてー

論文紹介(原本 久留米大学御井図書館蔵)

 本論文は、法人が不法行為により損害を受けた場合に取得する損害賠償請求権を、何時法人の収益に計上すべきかを考察したものである。
 国税庁の通達は、一般的に損害賠償が支払われたときに計上することを認めているが、これはその法人の役員や従業員による横領等には適用されないと解されており、判例もその立場に立っている。この通達によらない場合の見解は、様々であるが、権利確定主義の観点から損害賠償債権成立の時、すなわち不法行為時とする説も有力である。
 本論文は、損害賠償債権は、その成立時には債権金額が未確定で成立するものであり、その段階では権利確定とはいえず、示談または判決等により債権金額が確定した時に損害賠償の権利が確定し、その時が収益計上の時と解するものである。
 このような、収益の計上時期を損害金額確定時とする見解は従来からあったが、その根拠とするところは双方に争いがあるとか弁済能力が不明であるというものであるが、本論文は損害賠償債権が金額未確定段階で発生するという法的性質に基づき論証するものである。