税法U(後期)講義予定・講義概要

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税法U(後期)講義概要

1月14日 税法U定期試験
 試験範囲 所得税法と法人税法(税法慨論十一訂版 80頁〜123頁、 136頁〜195頁)

1月7日 講義概要
 法人税法の課税標準である所得の金額は、企業会計の確定した決算に基づき企業会計の当期利益を調整して算出する。調整とは、益金不算入の金額を当期利益から減算し、損金不算入の金額を加算することである。そのような調整は、法人税の申告書において行われることから、申告調整と呼ばれる。具体的には、法人税の申告書の第4表において、当期利益に加算する事項、減算する事項を明確にしてその金額を加減する。加算項目の金額を算出するために別表で算定し、それを4表に転記する場合もある。
 今回は、授業の大半の時間を用いて、簡単な設例に基づき、法人税申告書の4表と1表を作成する作業を行った。これに関して、質問を受けたが、多数の学生から質問があり、それなりに充実した時間であった。
 今回が、久留米大学19年間の最終の講義であった。真摯に受講した学生に感謝するとともに、学生諸君の多幸を祈る。

12月17日 講義概要
 法人税法の特別の規定により、収益であっても益金に算入しないもの、費用であっても損金に算入できないものがある。益金不算入、損金不算入の規定である。益金不算入の代表的なものとしては受取配当がある。配当は配当会社の課税海の所得から配分されるものであるので、法人がその受取配当を益金に算入するとその所得について二重、三重の法人税が課されたこととなる。そのため、受取配当は原則として益金不算入である。しかし、支配関係にない会社の株式は資金運用の一端であり、配当を利息と同様に扱うことが妥当であるので、その場合は半額が益金不算入とされている。損金不算入の費用は、寄付金、交際費等、法人税等の所得に課される税等である。寄付金は、収益に直接的に貢献するものではなく、利益から支払われる性質と考えられるが、費用性の部分もあることから、一定の限度額を設け、それを超過する部分を損金不算入とする。交際費等は、政策的観点から大法人は全額を、中小法人は一定額以上を損金不算入としている。益金不算入の金額は、所得の算定について企業会計上の当期利益から減算し、損金不算入の金額は当期利益に加算して計算する。
 
12月10日 講義概要
 今回は、法人税の所得の計算における損金の額について説明する。損金の額に算入されるのは、原価と費用(販売費及び一般管理費)と損失である。原価とは収益に直接貢献する費用であり、費用は間接的に貢献する費用であり、損失は収益に貢献しないが業務上発生する費用である。損金の額で大きいのは原価であり、原価とは収益である売上の基となった商品の仕入値である。売れた商品は、期首に在庫していた商品と期中に仕入れた商品である。しかし、個別の商品の仕入値は通常不明であり、帳簿上で原価は算定できない。ただし、期中の仕入価額の合計は仕入れ勘定で把握できる。そうであれば、期末に在庫している商品の価額が解れば、期中に売れた商品の仕入価額が解る。それと前期末の商品の価額を合計したものが原価となる。つまり売上原価=期首商品価額+期中仕入額−期末商品価額である。期末商品の価額は、期末の商品を棚卸して算定する。すなわち、期末に商品の在庫を調べ、種類、型別に数量を調べその単価を乗じて算定する。単価の出し方には棚卸資産の評価方法として先入先出し法、総平均法等の方法があり、法定されている。その中から一定の評価方法を選択して継続してその方法を適用する必要がある。
 費用については、間接的な費用であり、人件費、広告宣伝費、接待交際費、交通通信費、福利厚生費、修繕費、租税公課、減価償却費、雑費等があり、事業年度中に債務の確定した費用が損金に算入される。
 減価償却費は、長期間使用できる機械を購入したような場合、その購入費例えば1000万円をその期の費用とするのではなく、5年間使用できるのであれば200万円を当期の費用として計上するものである。機械自体は購入した時点で資産として計上される。決算の処理として減価償却費200万円増/資産機械200万円減と処理する。帳簿上の操作であるため、債務の確定とは無関係である。
 損失については、貸倒が問題となる場合が多い。全額回収不能の場合に貸倒が認められると解されているが、検討を要する。



12月3日 講義概要
 今回は、法人税の所得の計算における収益について説明する。益金の額に算入される収益とは、法人が受け入れる経済的利益と考えられる。流入する経済的利益と説明する教科書が多いと思われるが、所有株の値上がり益を認識する場合も収益とするので、受け入れと説明するほうが正当と考える。法人税法の収益で問題となるのは、資産の販売、有償による資産の譲渡および役務の提供が収益を生じさせる取引の例示とされていると同時に、無償による資産の譲渡および役務の提供が収益を生じさせる取引の例示として規定されていることである。無償取引による収益とは何かが重要な問題である。ちなみに企業会計では無償の場合は収益がないとしている。企業会計との大きな相違である。
 これについては、東京大学名誉教授の適正所得算出説が通説となっている。この見解は、無償取引には収益は本来無いが、時価で取引をした企業との課税の公平を図るために、収益があったと看做してこ課税する規定と解するものである。しかし、久留米大学の税法ではそのように解釈しない。これを定める法人税法22条の立法の経緯からしても、これはこの規定に成立前からキャピタルゲイン(値上がり益)が生じている資産を無償で譲渡した場合に、発生していたキャピタルゲインを収益として課税する実務を規定化したものである。したがって、キャピタルゲインの発生していない場合に、この規定が適用される余地はないと解する。適正所得算出説によれば、無償で建物を貸与した場合も家賃相当額の収益があったとみなすことになるが、久留米大学説(キャピタルゲイン説)ではこの場合に収益を認識することは無い。無利息貸付けは、無償による役務の提供としてし利息相当の収益を認識するが、貸付金は常に利息を発生させるのが取引社会の通念であり、貸金は時間と共に価値を増加させるため、その増加分はキャピタルゲインに相当するものとして、久留米大学説によっても収益と認識すべきである。適正所得算出説は、時価以外の取引を認めないことから、収益のない取引に課税することとなり、取引の自由を害することとなるので誤りと考える。

11月26日 講義概要
 法人税の計算が企業会計の利益計算を基礎としていることから、企業会計の仕組みを知る必要がある。企業会計は、利害関係者に会社の経営状況と財政状況を報告することを目的としており、具体的には経営状況を報告するための損益計算書と財政状況を報告するための貸借対照表を作成することである。その作成をする手法が、複式簿記である。損益計算書に関するフローの記録について売上、仕入、各種費用等についてそれぞれ勘定科目を設け、貸借対照表に関するストックの動きについて現金、預金、借入金、土地等について勘定科目を設け、それぞれの取引について、借方、貸方双方に同時に同額を記載してゆく。例えば10万円の売上があった場合、現金の増として現金10万円/売上10万円と現金勘定の借方に10万円売上勘定の貸方に10万円と記入してゆく。そして、期末に全ての勘定の残高を1表に記載して残高試算表を作成する。その借方、貸方は同額となるはずである。その損益計算書勘定と貸借対照表勘定を抜き出すと、それぞれの借方、貸方は同額ではない。そして、その差額が当期の利益となる。
 企業会計の原則的な考え方は費用収益対応の原則であり、費用の配分等が問題となる。

11月19日 講義概要
 今回は、法人税の計算の仕組みについて説明する。法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額であるが、所得の金額とは、益金の額から損金の額を控除した金額とされている(法人税法22条)。そして、益金の額に算入されるのは収益であり、損金の額に算入されるのは原価、費用、損失とされている。そうであると、所得=収益−原価、費用、損失である。これは、企業会計における利益の計算と同じ方法である。しかし、法人税法が利益に課税するのではなく所得に課税するとするのは、利益と所得が完全に同じではないからである。つまり、法人税法の収益と企業会計の収益とでは異なるところがあり、法人税法の原価・費用・損失と企業会計の原価・費用・損失とは異なる点があるのである。しかし、基本は同じであるので、所得の計算は、企業会計の利益を基に収益の異なる金額、原価・費用・損失の異なる金額を調整して所得を三syつすることとしている。
 企業会計と法人税の異なる理由は、企業会計が利害関係者に自社の経営状況を報告することを目的とするのに対し、法人税法は課税を目的とするため各企業に公平な基準を適用することにある。そのため、企業会計の選択可能性を一定の範囲で排除する点がある。

11月12日 講義概要
 今回より法人税の説明に入る。法人税は法人の所得に課される税であるが、所得とは利益に類するものであり景気により税収が増減する程度が大きい。今年度予算で法人税の税収は10兆円であるが、平成元年は約19兆円の税収があった。また、法人税の負担が大きいと製品等の価格が高くなり国際競争力が落ちることになる。そのため、経済界は法人税率の引き下げを要求しており、宮沢経済産業相は来年度法人税率2.5%の引き下げを要求している。
 本来、法人の獲得した利益は株主に配当されるべきものであるので、個人株主に配当された時に配当所得として所得税を課すべきものである。そうすれば法人に法人税を課す必要はないのであるが、現行の制度はその配当所得に対する課税を法人の段階で先に課税する所得税の前取りとして法人税を設けている。したがって、所得税の配当所得については、その10%を税額控除する配当控除の制度が設けられている。これにより所得税と法人税の二重課税を防止する趣旨であるが、この制度では十分に二重課税を排除できていない。
 現行制度に対して、法人はそれ自体が独立の経済主体として税金を負担する能力があるとして、配当所得の前取りとしてではなく、法人自体の担税力に対して課税するべきとの考えもある。大企業についてはこの考えが実態にあっているともいえる。所得税と法人税の完全な二重課税の排除が求められていないのは、この考え方も生かす趣旨と考えられる。家族企業的な法人と巨大企業が同一の制度の下で課税されることから、あえてあいまいな制度にしているといえる。

11月5日 講義概要
 
前回の確定申告書の作成は、時間が少なかったこともあり出来なかった人が多かった。そのため、予定を変更してこの時間を改めて設例に基づく確定申告書の作成練習の時間とした。手引も詳細に用意したので、それに基づき作業をした。質問もあり、大体の学生が申告書を完成させることが出来た。

10月29日 講義概要
 損益通算と所得控除について説明。各種所得の計算上、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得について、所得がマイナスとなった場合、他の所得と通算して他の所得からマイナス所得を減算することができる。他の雑所得、配当所得、一時所得も計算上マイナスになる可能性があるが、他の所得と通算することはできない。理由は、収入からマイナスする費用が趣味娯楽等の家事費との区別が不明確であり、通算を認めない制度としている。損益通算の順序も法定されており、納税者の不利益とならないよう合理的に定められている。
 所得控除は、納税者の担税力に反映する個人的事情を配慮して定められてものである。すべての納税者に38万円の基礎控除が設けられている。最低生活費を考慮したものであろう。現実には38万円は1年間の最低生活費に足らないと思われるが、所得税法は1人あたりの生活費を38万円として扶養控除、配偶者控除を定めている。38万円の金額の根拠はなく、政策的に決められた金額である。その他、所得控除は14種類ある。総所得金額から所得控除を減算した金額が課税総所得金額である。退職所得、山林所得がない通常の場合は、総所得金額に税率を乗じてその年の税額を算出する。その算出税額から税額控除、源泉徴収税額、予定納税額を控除した金額が確定申告による納付税額である。確定申告書の用紙と設例を用意して、設例に基づく確定申告書を作成させた。

10月22日 講義概要
 各種所得の計算において、総収入金額は収入を合計した概念であり、収入の形態が単純でない所得に使用され、利子所得、配当所得、給与所得等には収入金額の概念が使用されている。総収入金額が使用される場合、収入金額は総収入金額に算入される金額と表現されるが、以下収入金額として説明する。収入金額が問題とされるのは、@収入金額に該当するか否かということと、A収入金額であるとして何時の年分の収入金額となるかである。所得税は累進税率を採用しているため、ある年の所得が多く、他の年の所得が少ない場合、年により同じ金額の収入であってもその金額に係る所得に対する税額は同一ではなくなる。納付時期の相違だけでなく税額自体が異なることとなる。
 所得税法36条は、Aについてその収入金額となる時点について、その年において「収入すべき金額」を収入金額とすると定めている。収入すべき金額とは収入すべき権利の確定した金額と解されており(権利確定主義)、権利の確定した年の収入金額となるのである。権利の確定とは商品の売買であれば商品を引き渡した時と解されている(引渡基準)。売買契約の時に代金債権は成立しているが、商品を引き渡すまでは相手側に同時履行の抗弁権が存在するので、権利確定とせず、同時履行の抗弁権が失われた引き渡しにより権利確定と解するものである。これは会計処理と整合する。金銭の収入が何時かはこの判断に関係しない。支払を受ける権利が確定した時の年の収入金額とする必要がある。
 @について所得税法36条は、金銭以外の経済的利益も収入すべき金額に含まれるとする。
 必要経費については、原価と費用であるとする。費用については債務の確定しないものを除外している。収入についての権利確定に対応するものであり、相手の給付(引き渡し)が完了した時に債務が確定する。なぜ債務の確定を要するかについては、債務の確定がないと費用の発生が確実でなく、見込みで費用を減算すると確実な所得を把握できない点と、費用は収入に対して原価と異なり間接的な支出であり、収入発生時点に直接対応させられないため、費用発生時の年の収入から減算する。その年分を確定するために費用の発生時点を明確にするため法的な債務の確定を基準としている。その意味では、年分の区別を明確にするためともいえる。
 なお、権利確定主義について、通説は権利確定主義で説明できない所得、たとえば窃盗による所得、無効な契約による所得等については、現実にそれを所得として支配しているか否かを基準とすべきとしている。これらの収入は権利は確定しておらず収入した金額は返還義務がある。このように権利確定主義で説明できない所得の把握の基準を管理支配基準という。すなわち通説は、権利確定主義が原則で管理支配基準が例外と解している。
 しかし、久留米大学ではそのように解していない。管理支配している利得が収入金額となるのが原則であり、権利確定主義は管理の形態が法律上の権利で保護されていることに過ぎない。すなわち収入金額は管理支配できる金額であり、その典型的な管理支配の形態が権利確定である。つまり管理支配基準が原則であり、権利確定はその主要な部分と解すべきである。この見解は、平成25年に本学大学院を修了した学生の修士論文により明らかにされたものである。

10月15日 講義概要
 10種類に区分した各種所得の計算方法について説明した。給与所得と退職所得は給与所得控除、退職所得控除を減算して計算するが、その他は総収入金額から必要経費を控除して所得を算出するのが基本である。所得とは収入した経済的利益からその収入を得るために支出した費用を減算した金額であり、各種所得の計算の方法はそれに沿うものである。給与所得と退職所得は必要経費の概算を含むが負担軽減のための特別の計算方法と考えるべきである。譲渡所得、山林所得、一時所得の特別控除も所得計算の例外としての負担軽減措置である。
 したがって、所得計算の基本形は雑所得の計算である総収入金額から必要経費を控除するものといえる。他の計算方法は、これに一定の調整を加えたものである。そうであると、次に総収入金額とは何か、必要経費とは何かが問題となる。

10月8日 講義概要
 最初に非課税所得について説明した。その後、所得を10種類に区分する理由が、@所得の範囲が必ずしも明確でないことから各種所得を定義することで主要な所得を明示して所得の範囲を明らかにすること、またA資産性所得と勤労性所得に税金負担能力の差があることを前提に、一定の所得を低くする計算方法を採る必要があること、B所得源泉性のない臨時的な所得についてその負担を軽減するために1/2課税の制度を導入する必要があること等にある。したがって、所得の区分を間違えると計算方法の相違、二分の一課税の適用の有無等で税額に大きい差が出ることになる。
 所得の種類による各種所得の大きさを図示するについて、昨年度の図と異なり所得の範囲をあいまいに表現する図としたのが今年度の工夫であり、この図の認識は本年度大学院を修了した院生の修士論文作成過程で明確となった考え方に依っている。すなわち、全て所得は雑所得であり、雑所得から特別の計算のために区分された所得が雑所得以外の所得であるとの認識である。包括的所得概念と日本の所得税法の雑所得の規定から当然のことであるが、多くの識者はそのように認識していない。

10月1日 講義概要
 前回のリアクトペーパーに、日本の税制は大企業優遇税制ではないか、その証拠に大企業の日本の法人税の納付額は所得に対して6%、10%等法人税率35%をはるかに下回っているとの疑問が書かれていた。そのような記事を読み疑問を持つのは大変いいことだ。ただ、その税率が低いのは外国税額控除によるものと思われる。税率が低いのは世界的に事業展開している企業であり、外国で発生した所得には外国の法人税が課され、それは日本の法人税から控除される。外国の所得もその法人の所得であり、日本で納付するのはその所得のうち日本で発生した所得に対する法人税である。従って全世界所得分の日本で納付した法人税額の割合は低くなるのが当然である。租税特別措置法で大企業が優遇される制度もあるが中小企業を優遇する措置もある。したがって、日本の税制が大企業優遇税制と決めつけるのは誤りであると思われる。そのような説明をしない記事は、当初から制度を非難する目的を持っているように思われる。
 その後、納税義務者について居住者、非居住者とその課税所得について説明し、本講義では居住者に対する所得税を講義する旨伝える。
 続いて、所得税計算の仕組みを説明した。すなわち、
所得を10種類に分類し、各種の所得ごとに所得金額を算定する。そのうち、山林所得、退職所得は山林所得金額、退職所得金額として課税標準となりそれぞれに税率が課され、その他の8種類の所得は全て合計され総所得金額となる。所得税の課税標準は総所得金額、退職所得金額、山林所得金額の3つである。総所得金額に合計する際、長期譲渡所得と一時所得はその1/2を合計する。課税標準から基礎控除等の所得控除を減算したものが、課税総所得金額、課税退職所得金額、課税山林所得金額であり、これらに累進税率を乗じて算出した税額の合計額が算出税額である。算出した税額から外国税額控除等の税額控除を減算し、さらに源泉徴収された税額、予定納税により納付済みの税額を減算した金額が納付すべき税額となる。
 所得を10種類に区分して所得を計算し、それを合計する仕組みは所得税計算の基本であり、以後の講義はこの細目を説明してゆく。

9月24日 所得税の概要
 前期税法総論の復習。課税要件を法定する。課税要件を充足することにより租税債務は成立する。しかし、所得税等では成立の段階では税額(金額)は未確定。その金額を決めるのが納税申告。納税申告は納税者の意思表示。前期試験の申告納税制度に関する問もこの理解を問うもの。
 所得税の税収、納税者数等重要な税であることの説明。担税力を最も端的に示す所得を課税物件としていること、個人に対する課税であるので個人の事情を税額に反映できること、累進税率により垂直的公平を実現できることの点で最も優れた税といえる。
 反面、所得の把握の困難による水平的公平で弱点がある。所得の意義自体に明確でない点がある。
 包括的所得概念と制限的所得概念。制限的所得概念は経済学の概念を基礎とするもので、生産要素に基づく市場により形成された付加価値を所得と認識するものであり、所得源泉説といわれる。したがって、付加価値を生んでいない相続、贈与による所得は課税の対象とすべきではないとする。これに課税すると、資本に課税することとなり経済成長を阻害するとの考え方といえる。現在は包括的所得概念に立って所得税法は定められているが、一時所得は半分が非課税であり制限的所得概念の考え方が一部残っている。大量に馬券を買って払戻金を得た場合であっても、馬券の払戻金は付加価値に含まれておらず、所得源泉性のない所得といえる。それを前提に現行法の解釈を行なうべきである。
 次回は、納税義務者と所得税の計算の仕組みを講義する予定。



税法T(前期)講義概要

7月23日 定期試験
 納税義務の成立と税額の確定に関する問題と消費税の課税の仕組みに関する問題から1つを選んで解答させる出題をした。

7月16日 講義概要
 
申告納税制度は納税申告により税額が確定するのであるが、その税額が正しいかどうかを事前に審査する制度は設けられていない。したがって、一度申告した税額が正しくない時は、税額が過少であったとき等には納税者が修正申告をすることができ、税額が過大であったとき等は納税者が税務署長に更正の請求をすることができる。
 また、申告納税制度を円滑に実施するためには、申告の内容が正当であるかを確認する事後の調査が必要である。税務署長は申告税額が正当か否か、また無申告が正当か否かを調査する権限を有しており、この調査に基づき申告税額を更正し、又は無申告の場合に税額を決定することができる。この調査を実施するために、税務署の当該職員には質問検査権が与えられている。この質問検査について忌避し、不答弁等の場合は罰則が適用されるが、現実に罰則を適用する例はないといえる。調査の拒否は現実にはあるが、その場合は推計課税が許されており、推計課税により課税されるのは通常である。
 申告納税制度下で適正な課税を実現するためには、一定の事後調査が必要であるが、現実にはその調査の割合は低い。民主党政権下で税務調査の手続に関する国税通則法の改正が行なわれたが、事前通知の法定化等の納税者の権利擁護の措置が取られたが、そのため調査に時間を要することとなり、事後調査の割合も低下している。今後、現行制度下での税務行政の在り方に何らかの対応が必要と思われる。
 ちなみに平成24年度の調査の状況は次の通り。、所得税の事業所得者の4.3%に実地調査が行われ、対象の80%に誤りがあり、1件当たりの脱ろ税額は86万円であった。法人税は、申告法人の3.4%に調査が行われ、その73%に誤りがあり、1件当たり1071万円の脱ろ税額があった。消費税は、個人の2.9%、法人の4.4%に調査が行われた。


7月9日 講義概要
 
納税義務が金額未確定で成立したことから、その金額を確定させる手続が必要とされている。 国税通則法は、その手続について申告納税方式と賦課課税方式を定めており、国税は申告納税方式に依っている。申告納税方式は納税者の納税申告という行為を税額確定の法律要件とするものであり、賦課課税方式は税務署長の賦課決定という行為をz税額確定の法律要件とするものである。未確定の金額を確定するには、納税者または税務署長という人の行為を要するのである。納税申告は、私人のする公法行為と一般に解されている。しかし、税額確定の法律要件である納税申告は、法律行為であるか準法律行為であるかが議論されている。すなわち、納税申告は意思表示を内容とする行為であるか、意思表示ではなく確認等の観念の表示であるかが問題である。多くの論者は、税額は法律により決定されているのであり、納税者はその税額を確認するにすぎず、意思表示ではないとする。しかし、実務においては税額を確定するためには課税標準の確定が必要であり、課税標準である所得を例にとれば所得が法律により自動的に決定されるということは考えられない。所得の決定には、企業会計上の種々の判断が必要とされ、また、各種の特例の適用の可否等の判断も必要とされる。このような納税者の種々の判断の結果により所得が決定され、それに税率が乗じられて税額が確定するのである。したがって、納税申告は意思表示を内容とする法律行為であり、この意思表示については原則として民法の適用があると考える。したがって、納税申告の意思表示に要素の錯誤があれば、無効と解すべきである。
 昭和39年最高裁判決は、納税申告の錯誤による誤謬は更正の請求の手続によるべきとして、特別の事情がある場合にのみ無効の主張が許されると判示したが、更正の請求は有効な納税申告を是正する手続であり、無効であれば更正の手続に依るべきではなく、直接裁判所に請求すべきである。その点で、この判決に疑問はあるが、特別の事情がある場合に無効の主張ができる根拠は民法95条であると考えられ、最高裁も納税申告を意思表示と解するものといえる。

 

7月2日 講義概要 
 
納税義務の成立と税額の確定の法律関係について説明した。この理論は多くの教科書が説明していないところであり、独自の見解である。すなわち、納税義務は法律の定める課税要件を充足すれば成立するが、税額が自動的に算定できる一定の税を除き、成立時点では税額が確定しない。法律の定める課税要件は、納税義務者、課税物件、税率および税率が乗じられる課税標準である。国税通則法が納税義務が成立すると定める時点、所得税では暦年終了の時には課税標準が明確でなく、税額は算出できない。したがって、成立した納税義務は金額未確定の金銭債務であり、この金額を定めるには一定の人の行為を必要とする。
 金額未確定の租税債務について、通説はこれを抽象的納税義務または抽象的租税債務と呼ぶが、その本質が何であるかは不明確である。ちなみに、私法上抽象的債務という概念は存在しない。したがって、通説の見解は不適切であり、成立した納税義務は法律上の具体的債務であり、ただ金額が未確定である債務である。金額未確定債務の概念は、私法上も損害額確定前の損害賠償債務のように使用される概念である。
 教科書45頁に参考として租税法律関係の性質について記載している。しかし、この内容についてはその後見解を改めた。従来租税法律関係は、権力関係上の債権債務関係であると考えてきたが、その理由は、租税債務が法律により一方的に成立することにあった。これは一方的に国を債権者とする法律関係は、国の優越を前提とした法律関係であると理解していたからである。しかし、一定の事実があった場合に債権債務関係が成立する関係は、私法上においても認められるものであり、また法律に従うこと自体を支配服従と捉えることは誤りであると考え、租税法律関係は公法上の債権債務関係であると理解すべきと考えるにいたった。公法上の意味は、国を一方の当事者としていることを意味し、昔の公法関係を権力関係と管理関係に区分する理論でいえば、管理関係に属する関係で、基本的に私法上の債権債務関係に準じるものと考える。この部分は、昨年の講義の内容と異なるものである。

国税通則法は、その手続について申告納税方式と賦課課税方式を定めており、国税は申告納税方式に依っている。申告納税方式は納税者の納税申告という行為を税額確定の法律要件とするものであり、賦課課税方式は税務署長の賦課決定という行為をz税額確定の法律要件とするものである。未確定の金額を確定するには、納税者または税務署長という人の行為を要するのである。
 また、租税法律関係の性質について、昨年の説明と異なる説明となるが、これは最近の研究の結果を踏まえたものである。


6月25日 講義概要
 
税法総論のうち租税法律主義を説明した。租税を課すには国民の代表者で構成する議会で議決した法律に因ることを必要とする考え方が租税法律主義である。日本国憲法では84条にその旨の規定がある。法と法律は同じ意味で使う場合もあるが、ここでいう法律は、日本では国会で議決して定める法律を意味する。法は強制力を有する規範であるが、それは法律だけではなく行政命令と呼ばれる、内閣が制定する政令、各省大臣が制定する省令があり、成文でない法に慣習法、判例法も法である。これらの法には、国民だけでなく裁判官も国も従わなければならない。これらの方の中で、税金は法律により決めるべきというのが租税法律主義である。
 租税法律主義の内容としては、課税要件の法定、課税要件の明確、合法性の原則、手続的保障の原則が主張され、多くの論者は、遡及立法の禁止も含まれていると説く。遡及立法の禁止は、租税法律主義の目的が法的安定性と予測可能性にあるとし、予測可能性を害する遡及立法は禁止されているとする。しかし、租税法律主義の目的は行政権の恣意から財産権を保護することにあり、遡及立法を禁止しているとは解せられない。
 平成23年の最高裁の判決は、憲法84条は法的安定性を保障しているとするが、予測可能性を保障するとは述べていない。そして、遡及して適用する法律改正を合憲としている。したがって、最高裁の見解は、憲法84条が租税に関する法律について遡及立法を禁止する趣旨を含んでいないと解している。


6月18日 講義概要
 
前回で消費税の説明は終了したが、今回はリアクトペーパーの質問に答える形で消費税の総括を行なう。まず、なぜ非課税取引について仕入税額控除が認められないのかとの質問があった。これは消費税の構造に関わる疑問であり、解答は困難である。例えば非課税取引である教科書の販売を考えると、原価である印刷費には消費税が課されているので仕入税額控除が認められない結果、教科書代金には印刷費の消費税が含まれていることになる。教育政策のために教科書の譲渡等に消費税を含ませないためには仕入税額控除を認める必要がある。現在の非課税取引は、そこまでの完全な消費税の負担を0にするものではない。しかし、0の方が良いとする考えもあり得るが、現在の消費税の制度では、一部の負担免除を採用しているといえる。
 全体的な質問で、5%を8%に増税したことで、何が良くなったのかとの質問が多かった。これは、財政のところで説明したことであるが、それにより財政状況が改善し、将来の負担が軽減されるというのが答えである。現状のままでは、政府の予測でも2060年には政府債務残高は6800兆円を超えるとの予測であり、これは経済の破たんを意味する。また、住友総研の研究では、2025年に破たんするとの予測である。それはもっと早く来る可能性もある。8%の増税しなかった場合、日本の財政に対する国際的な信頼が崩れ、日本国債が暴落し、日本経済が破たんして皆さんが卒業する時何処にも就職できないことになったかもしれない。
 多くの意見にあったが、自分個人の利益、便利不便等でなく、社会全体としてどうなるか、社会全体としてどうあるべきかを考える必要がある。
 大学での勉学は、社会がいかにあるべきかを勉強することである。法学部は政治、法律の面から、経済学部は経済の面から、商学部は商業、流通の面から、文学部は人間の面から社会を研究するものである。大学での学問は目先の技術的技能を身につけるのではなく、広く社会を勉学するものであるので、そのような考え方を身につけるように。
 前回の食料品に軽減税率を適用する場合に、その範囲をどのように考えるかについての与党案についてアンケートを採ったが、やはり広く軽減を認める案から賛成が多かった。この結果については、自民党に提供している。


6月11日 講義概要
 
仕入税額控除と前段階税額の証明方法について、EUのインボイス方式と比較して説明した。前段階の税額を控除して消費税額を減額し、場合によっては還付するためには、前段階の事業者が仕入に加算した税額を算出し納付したことが確実でなければならない。その確実性を証明するためにEUは、仕入先の事業者が発行したインボイス(仕送状)を保存して証明することを制度化している。インボイスには発行者のVAT(消費税)番号、消費税額、本体価額、合計価額を記載する必要がある。この方式をインボイス方式という。わが国に消費税を導入する際にインボイス方式は採用されなかった。インボイス発行の慣行がないというのがその理由であったが、現実にはインボイスの発行で課税当局に取引の全容が把握されるとの懸念、非課税事業者が取引から排除される虞等に因るものが現実の困難であったと思われる。
 わが国は、証明方式として帳簿方式を採用した。これは、取引相手からの請求書等及び取引を明確にする帳簿を保存する方法である。業者の消費税番号は存在せず、税額の記載も義務づけられていない。
 帳簿方式も、この帳簿等の保存がなければその仕入税額は仕入税額控除されないこととされている。すなわち、現実に仕入れが行なわれていることが証明されても、帳簿等の保存がなければ仕入税額控除ができないのである。これは、消費税法の最も問題の規定である。現実に、調査を拒否して帳簿等の確認ができない場合は、売上は推計で算出して消費税額を算定するが、仕入税額控除は行なわずに課税することが行われている。裁判時点で帳簿があったと主張してきた場合に、税額控除を認めるか否かが問題となったが、最高裁は調査時に提示しなかった場合は、帳簿の保存がなかったものとして仕入税額控除できないと判決した。
 仕入税額控除は、課税売上に係る仕入について認められるので、課税売上と非課税売上がある場合は、仕入れを割り振らなければならない。この算定が小規模事業者には難しいとして、簡易課税制度が設けられている。消費税額の一定額を業種により決められた割合で、仕入税額とするものである。
 食料品に軽減税率を設ける場合に、食料品をどのような範囲で軽減対象とするかについて、自民党・公明党の与党案が公表された。全ての食料品から精米のみとする8段階の範囲である。また、インボイス方式と帳簿方式の折衷案を含む4種類の方式も示された。
 リアクトペーパーでは、そのどの方式が良いかを尋ねた。


6月4日 講義概要
 
立退き料の問について、東京地裁の判決を紹介する。譲渡とは同一性を維持しつつ他に移転することをいい、立退はそれに該当せず、本件においても借家権の移転とはいえないとして、課税資産の譲渡等に該当しないとした。立退料は資産の譲渡等の対価ではないとする国税庁の通達もあるが、個人の住居の立退きの場合は正当と考えるが、事業所の立退きの場合に同様に考えるべきかは疑問がある。また、立ち退くという役務の対価と捉えるべきではないかとの有力な見解もある。これについては、消費税の性格から因り研究する価値があると考える。先生の見解は、現在のところ、判例に反対である。
 消費税の課税標準は、資産の譲渡等の対価であり、対価には消費税及び地方消費税を含まない。すなわち、売値の108分の100が課税標準である。消費税の課税標準は個々の取引についてのものであり、個々の取引により消費税は成立する。しかし、消費税の申告に当たっては、課税標準の合計額である課税標準額についての消費税額を算出することとされている。すなわち、消費税額は個々の取引で成立した消費税額を合計したものではない。全売上から不可税取引、非課税取引を除いた売上の108分の100が課税標準額であり、それに税率を乗じたものが消費税額である。
 消費税額から仕入税額が控除されるが、仕入税額は課税仕入れの108分の100に100分の8を乗じたもの、すなわち課税仕入れの108分の8である。これは、消費税法30条で決められている。すなわち、仕入税額も個々の取引の仕入税額は問題とされていない。
 消費税の税額計算は、全売上と全仕入れによるもので、個々の取引は直接関係しないのである。それなのに、課税標準を個々の取引としているかは、これが間接税であり、個々の取引で消費者に転嫁されるべき税であることを明確にするためである。
 設例における課税標準額に対する消費税額を算出する問を解答させた。



5月28日 講義概要
 
前回の問の結果を報告する。消費税の増税を良しとする回答が半数を上回った。これは、先生にとって予想外のことであった。ほとんどが高額所得者が多くを負担する累進税率の所得税の増税を支持すると考えていたが、これに対しては勤労違約を害する、高額所得者が国外に移る等のデメリットを指摘するものが多かった。社会が豊かとなり、先生の学生時代に一般的であった金持ちを批判するような社会主義的感覚が失われてきたのであろう。
 消費税について、免税事業者がなぜ課税事業者を選択するのか、その理由を説明した。消費税の課税対象である「課税資産の譲渡等」とは何かを説明し、立退き料が資産の譲渡等の対価か否かをリアクトペーパーの問とした。


5月21日 講義概要
 
前回の問、将来の増税は消費税が良いか、所得税が良いかの問に対する回答を報告した。予想は、所得税の増税が良いとするものが圧倒的に多数であろうと考えたが、これに反し、消費税の増税を良しとするものが52.2%と半数を超えた。
 所得税が良いとする者も、単にお金持ちが負担すべきという意見のほか、消費税が消費を冷やし経済発展にマイナスだからという意見が多かった。いずれも税収全体のこと、経済全体のこと、世代間の負担のあり方のこと等、よく考えた意見が多かった。学生が自分個人の利益のみでなく社会全体のことに目を向けていることに感銘を受けた。
 消費税の導入がサラリーマンへの負担の偏りを修正する意味で、税逃れができず、広く浅く負担を求める消費税が導入された経緯を話す。どのような勢力が反対したか、当時熊本国税局の総務部長をしていた先生の経験、熊本が消費税反対が強いと思われ竹下総理も心配していたことを話した。
 消費税導入時の政府の消費者が消費税を払うとの説明ぶりが、価格の外税表示とも相まって消費者に消費者が納税義務者との意識を植え付けた。しかし、納税義務者は事業者であり、消費者は消費税を転嫁され価額の上昇した代価を払うのが消費税の仕組みである。消費税の仕組みにおいて、仕入税額控除が行なわれることが消費税の特徴であり、EUの付加価値税もこの仕組みを採っている。
 規準期間1000万円以下の売上の事業者は免税事業者となり消費税の納付義務を免除されている。しかし、課税事業者を選択することができる。
 消費税の欠点は、所得に対する逆進性である。逆進性の解消策としては複数税率の採用がある。財務省及び実務家は複雑になるとして反対が強いが、先生は以前から複数税率を導入すべきと考えている。
 今回のリアクトペーパーの問は、消費税の価額表示に関してである。
 価額の表示について、外税表示のように消費税額が明確になる価額表示が良いか、酒税やたばこ税のように税を意識しないような表示が良いかを問う。


5月14日 講義概要
 
最初に印紙税の金銭受取書の非課税限度が4月1日から5万円未満に引き上げられてことを説明し、税法改正の作業について話す。その後、5月8日の大阪高裁判決の馬券の払戻金脱税事件の説明をする。その後、今回から3回にわたり消費税の説明をすることを話し、消費税の導入の理由、導入時に先生は熊本国税局の総務部長であったが、熊本財界での反対表明とこれを竹下首相が気にかけていたことを話した。消費税には低所得者層も反対し、自民党支持層の中小企業者も反対し、熊本の商工会議所も反対決議をしていた。しかし、導入に当たり熊本で不都合なことは一切起きていない。反対ではあるが、法律で決まった以上法律に従って納付するとの態度であった。消費税の基本的な仕組みを説明すると同時に、この説明は事業者が税負担をしなくて済むことを説得するための説明でもあった。そして、導入時には消費税は消費者が納める消費者に課税される税であるとの説明が行われ、多くの人々が自分が納税者と考えていた。また、価格の表示が税抜きの価額を示す外税方式であったから、いかにも消費者が税を払っている気持ちになった。外税表示は平成16年に総額表示に税法改正が行われたが、今年の消費税の3%引き上げに伴い、外税表示に近い表示が認められることない残念である。
 消費税の仕組みは税額控除が認められるところが優れたところである。これにより、メーカー。卸、小売り等の何段階の取引が行われても、消費者は本来の価額の8%を負担すること済むことになる。
 今後増税が行われるとすれば、消費税の増税が良いか、所得税の増税が良いかを問う。


5月7日 講義概要
 
前回の講義で説明した酒税、揮発油税、たばこ税等について、興味を示した学生が多かったので、その他の石油ガス税等の税収の多くない税についても簡単に説明した。また、前回に政府資料の説明をしたことで話せなかった各税の特色について説明した。
 今後財政の健全化のために増税が必要であるが、どのような税により増税すべきか。税の負担は公平であるべきと考えられるが公平とは何か。現在は、税を負担する能力の大きい人が税の負担も大きくすることが公平と考えられている。税の負担すなわち担税力は何によって判断するか。それは所得、消費、資産であると考えられている。所得=消費+資産(貯蓄)であり、資産は将来の消費である。そのことから、所得が担税力を端的に示すと考えられるが、所得を把握するのが難しい点もあり、この3つの要素を担税力を示す指標と捉えている。すなわち所得に着目して所得税が、消費に着目して消費税が、資産に着目して相続税等の資産税が設けられている。
 所得税は累進税率を採用することにより垂直的公平(所得の大小間の公平)が確保され、消費税は比例税率であるが水平的公平が保たれる。所得税の最高税率は1800万円超40%であり、地方税と併せて50%となっているが、かつてはこの最高税率は地方税と併せて88%の高率であった。この最高税率は勤労意欲を下げる等の理由で国際的にも徐々に下げられてきたが、平成27年からは所得税の最高税率は4000万円超45%と消費税の増税とのバランスから引き上げられる。
 消費税は所得の大小と関係なく比例税率で課税され、税の負担者にとっては所得に対して逆進的(逆累進的)と考えられる。しかし、同じ消費をする人は必ず同じ消費税を負担することとなり、脱税ができない点で、水平的公平(同じ状態の人は同じ負担をする)が確保されている。今後の増税の方向は、この二つの税をどのように増税することが望ましいかについて、国民がどのように考えるかにかかっている。
 超過累進税率の計算を再度出題する。


4月30日 講義概要
 
4月28日開催の財政制度審議会財政制度分科会の資料に、一般政府の債務残高の見通しが提出された。このような見通しは従来公表されておらず、政府がこのような資料を開示したのは意義あると考える。この表ではモデル試算のベースラインでは、2060年には債務残高は8500兆円となり、急速に膨張(発散)する。かつての吉田・住友総研のモデルでは2025年に発散するとなっていたが、それが35年後ろに延びている。発散は経済の破綻を示し、現状ではいずれ破たんすることは、政府の資料の示すとおりである。
 しかし、現在の多額の債務を諸君は返済しなくていい。その理由は、明治10年から現在までの137年間に、税収は100万倍となっている。諸君の時代40年間に税収がどれだけ増えるかは不明であるが、10倍は増えるだろう。そうすれば現在の国債残高780兆円は、現在の78兆円と同じ価値となる。これは、経済成長とインフレによるものであるが、過去137年で100万倍となった理由も、経済成長とインフレであり、さらに政府機能の拡大である。
 諸君は借金を返さなくてよいが、借金を増やさないことが前提である。諸君の時代に借金を増やすなら、モデルのとおり経済は破綻するだろう。返済はしなくてよいが、借金を増やすことはしてはならない。 
 税制の現状 所得税、法人税、消費税で税収の4分の3を占めている。その他、酒税、相続税、たばこ税、揮発油税などがある。
 所得税については、超過累進税率が適用される。小問で超過累進税率の計算を出題した。


4月23日 講義概要 
 
多くの受講生が、何故消費税を増税する必要があったかを知りたいと思っている。それと関係する財政の現状を説明する。財政の意味は、国が国民のために行う諸施策を実行するためのお金の支出と収入のことであり、政府の経済活動である。国の行う施策、すなわち国家のその年の事業計画は国の予算として表され、それが国会で承認されて法的に実施計画となる。国の事業計画の主体は、国の一般会計の歳入、歳出の予算として定められる。平成26年度の一般会計予算の歳出は95.8兆円であり、使途の最大は社会保障関係費30兆円である、次いで国債費で23兆円、地方交付税交付金16兆円、公共事業5.9兆円、文教関係5.4兆円、防衛4.9兆円等である。
 支出95.8兆円に対して税収は50兆円、その他収入を加えて54.6兆円しかない。差額は借入金(公債金)である。この借入金の累積残高は26年度末で780兆円となる。税収と歳出の関係は平成の始めより開き、差額が借金となってきた。
 現在政府の目標は、国債費を除いた事業費を実収入で賄うことである。すなわちプライマリーバランス(主要均衡)を赤字にしないことである。今年度予算では、95.8兆円の内、借入金の返済と利息である国債費を除いた72.6兆円も実収入で賄えず、18兆円の赤字となっている。18兆円を消費税の増税で賄うためには消費税を7.2%増税する必要がある。つまり、15.2%とすることである。政府はプライマリーバランスを平成32年度に黒字化することを目標としている。
 780兆円の借金を若い世代に了解も無く負担させることは、無責任な財政運営である。もっと早く増税をすべきであった。しかし、現実には増税はできなかった。なぜそうなのか。慶応大学の財政学の井手英策先生は、日本は税負担が低いにかかわらず痛税感が高い。それは政府に対する不信感があることであり、社会に対する中間層の不信感が強いことによる。それは、日本人の生来の感情ではなく、従来の政策にあったとして、新たな財政指針を示し、ターゲッティズムからユニバーシティズムと説かれる。実現可能性に疑問もあるが、不信感が政策により生じたとの指摘は貴重と思われる。ちなみに井手先生は久留米市の生まれである。
 なお、日本人の日本政府に対する信頼、日本社会に対する信頼は先進国中最下位であるが、英国BBC放送の世界各国での調査では、世界に貢献している国として日本はドイツ、カナダ、EUについで4位である。現在4位であるが、かつては長く1位であった。治安状況、人権状況、非戦争で日本の社会の価値は高いと考える。また、世界で評価が高い理由は、イスラム圏から好感をもたれていること、第二次大戦の結果多くの植民地が独立したが、それは日本軍による東南アジアからのアメリカ、イギリス、フランス、オランダ軍の駆逐が貢献したことが大きい原因となっていることが反映しているのかもしれない。
 来週は、780兆円の借金を皆さんは返済しないでいいというお話をしたい。


4月16日 講義概要 

講師の経歴紹介、 関西の私立大学を卒業、大学院を修了して国税庁に勤務。国家公務員試験上級甲種の法律職に合格したが、地方私学からも現在の公務員試験総合職に合格する可能性があるので、挑戦するように。
 講義の進め方は、パワーポイントを使用して行い、パワーポイントのスライドを配布する。質問重視、出席重視で行う。最終の7月23日に定期の筆記試験を行なう。記述式で行う予定。質問を重視するので、授業中に質問して試験を受けたものは評価する。出席状況の成績に反映させる。
 久留米大学の歴史 昭和3年(1928年)九州医学専門学校として創立、ブリジストンの創業家の石橋家の支援により久留米に創設。建学精神は地域の医療を担う医師の要請であり、その後の商学部も地域の経済を支える人材の養成にあった。久留米大学の建学の精神は、地域貢献である。今、この地域は久留米地区に限らない。世界中にその意味の地域はある。
 次回の財政の現状の講義に関連して、税等に関するアンケートを実施した。この結果は、次回に説明する。
 校歌を聞かせる。作詞家の丸山豊の筑後の風景を述べた意味を説明した。
  


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