賢い王妃の話
「神々との対話」というお経の中に次のような話が載っている。釈尊の時代のあるインドの王様が、最愛のお妃さまにこんな質問をした。「妃にとってこの世でいちばん大切な人はいったい誰かね」
この問いに対してお妃さま、「それはもちろん王様でございます」とは答えなかった。「王様、私にとってこの世でいちばん大切な人は自分自身でございます」と答え、さらに「王様には、ご自分よりも大切な人が誰かおられますか」と問いかけてきたのであった。
そのため王様も、「私にしても自分より大切な人はどこにもいない」と答えるしかなかったが、もう一つ何かすっきりしない点があったので、釈尊をたずねてこの話をした。すると釈尊は深くうなずき詩でもって答えた。
「すべての人は自分がいちばん大切である
世界中どこを探しても
自分よりも大切な人を見つけることはできない
だからこそ自分を大切にするように
他の人を大切にしなければならない
本当に自分を大切にできる人は
他の人も大切にできる人である」
釈尊は誰しも自分がいちばん大切だということを認めた上で、だからこそ他の人も大切にせよと説かれたのであった。
「自分と他人のあいだに境目はない。すべては自分の心の中のできごとである」と仏教は教えている。ということは、自分を大切にするためには、すべての人を大切にしなければならず、さらには米一粒、水一滴にいたるまで大切にしなければならないのである。ものを粗末にすることは自分の心を粗末にすることであり、他人に不親切な人は自分にも不親切な人なのである。
聖書に黄金律(おうごんりつ)という人間関係の法則が載っている。これを守っていれば人間関係が必ずうまくいくというその黄金の法則とは、「自分がしてほしいと望むことを、人にしてあげなさい」ということである。
フランスの国旗は青・白・赤の三色旗であり、この三色は「自由、平等、博愛」を表しているという。このなかの博愛という言葉は少し分かりにくいが、博には「ひろい」という意味があり、博くすべての人を愛するのが博愛の精神である。黄金律と博愛の精神を守っていれば、豊かで良好な人間関係が築けるはずである。
参考文献「神々との対話」169頁 中村元訳 岩波文庫1986年
もどる