読経の話
仏道修行に読経はつきものであり、少しずつでも無心に読経を続けていけば、やがて大きな効果が表れてくる。朝いちばんにおこなう読経は、眠気をはらい、体調をととのえ、一日の始まりを快適にしてくれる。
誰しも心身の健康のために、少なくとも一日に三〇分ぐらいは聖なる時間を持たなければならないと思う。その聖なる時間として三〇分間の坐禅をするのは容易ではないが、三〇分の読経なら無理なく続けられる。また仏壇は高価な買い物なので置いておくだけではもったいない。ということで、ぜひ仏壇の前で読経してほしい。
読経の前には、手や顔を洗い、口をすすぎ、服装を調える。こうすると心の準備もできてくる。背筋をしっかりと伸ばして読経すると、呼吸が深くなることで声に深みが出てくるし、心も調えやすくなる。お経の読み方は、臨済宗では節を付けずに水の流れる如くさらさらと読むのが基本である。経本は合掌するように手を合わせて両手で持つ。覚えているお経であっても経本を見ながら読経する方が心を集中しやすい。
以下に基本となるお経の読み方をご説明する。
本尊回向(ほんぞんえこう)
仏壇の前で読経するときには本尊回向と先祖回向をおこなう。回向というのは読経の功徳を他に「めぐらし向ける」ことを意味し、仏壇の本尊さまに回向するのが本尊回向、ご先祖様に回向するのが先祖回向である。本尊回向では般若心経と消災呪(しょうさいしゅ)を読む。
まず、ろうそくに点火して線香を供え、合掌礼拝し、鈴(りん)を三声(さんせい)鳴らす。それから、「まかはんにゃはらみたしんぎょうー」と経名をゆっくりと唱え、「チン」と鈴を一声鳴らし、「かんじーざいぼーさー」と読み始めながら鈴を打ち流しにする。打ち流しというのは、初めはゆっくりと打ち、少しずつ早くしていき、十分に早くなった所で打ち終わる、という鈴の打ち方である。打ち流しの長さは六〜七秒ぐらい、読経の途中にも適度な間隔で鈴を一声ずつ鳴らし、最後に三声入れて読み終わる。
つぎに消災呪を三回読む。出だしは経名ではなく「なむさまんだー。チン」と本文の初めの部分を読み、打ち流しにする。そして二回目の初めに鈴一声、三回目の初めに鈴二声、最後に三声入れて読み終え、次の回向文を読む。
「仰(あお)ぎ惟(おもん)みれば三宝(さんぼう)ことごとく証智(しょうち)を賜(たまわ)りたまえ。上来(じょうらい)つつしんで般若心経(はんにゃしんぎょう)、消災妙吉祥神呪(しょうさいみょうきちじょうじんじゅ)を諷誦(ふじゅ)す。
集むる所の功徳はご本尊、釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ。他の本尊様の場合はその仏名)、真如実際(しんにょにっさい)に回向し、無上の仏果菩提(ぶっかぼだい)を荘厳(しょうごん)す。
伏して願わくは、上(かみ)四恩(しおん)に報い、下(しも)三有(さんゆう)をたすけ、法界(ほっかい)の群生(ぐんじょう)と同じく種智(しゅち)を円(まど)かにせんことを。
十方三世一切(じっぽうさんぜいっさい)の諸仏諸尊菩薩摩訶薩(しょぶつしょそんぼさつまかさつ)、摩訶般若波羅蜜(まかはんにゃはらみつ)」
先祖回向(せんぞえこう)
先祖回向では観音経の偈(げ。詩の形式の文)の部分を読む。これは「世尊妙相具」で始まるのため世尊偈(せそんげ)と呼ばれており、「せそんみょうそうぐー。チン」で始める。それから鈴を打ち流しにし、読みながら適度に一声ずつ入れ、最後は三声で終わる。観音経を最初から読むときは「みょうほうれんげきょうー。チン」で始める。
次に大悲呪(だいひしゅ)を読む。「なむからなんのー、チン」で読み始め、鈴を打ち流しにし、読みながら適度に鈴を一声ずつ入れ、最後は三声で終え、つぎの回向文を読む。
「仰(あお)ぎ冀(こいねがわ)くば三宝(さんぼう)俯(ふ)して昭鑑(しょうかん)を垂(た)れたまえ。上来つつしんで観世音菩薩普門品偈(かんぜおんぼさつふもんぼんげ)大悲円満無礙神呪(だいひえんまんむげじんじゅ)を諷誦(ふじゅ)す。
集むる所の功徳は、(ここに回向する人の戒名を入れる)、○○家先祖代々各霊位(れいい)のために報地(ほうじ)を荘厳(しょうごん)せんことを。
十方三世一切(じっぽうさんぜいっさい)の諸仏諸尊菩薩摩訶薩(しょぶつしょそんぼさつまかさつ)摩訶般若波羅蜜(まかはんにゃはらみつ)」
和讃と四弘誓願
時間があれば菩提和讃(ぼだいわさん)、白隠禅師坐禅和讃、観音和讃、などの和讃を読む。和讃のときは合掌し、「はくいんぜんじざぜんわさん。チン」「ぼだいわさん。チン」「かんのんわさん。チン」で読みはじめ、鈴を打ち流しにせず、途中も鈴を入れず、最後は三声で終わる。
最後に菩薩の誓願である四弘誓願(しぐせいがん)を合掌したまま三回読む。「しゅじょうむへんせいがんどー、チン」で読み始め、鈴を打ち流しにせず、二回目の頭に一声、三回目の頭に二声、最後に三声入れて読み終わる。そして読経の終了として鈴を三声鳴らし、合掌礼拝して終える。
つまり全体の流れは、合掌礼拝→鈴三声→般若心経→消災呪→本尊回向→世尊偈→大悲呪→先祖回向→和讃→四弘誓願→鈴三声→合掌礼拝となる。
普回向(ふえこう)
最後に、これさえ覚えておけば何にでも使えるという普回向をご紹介したい。つぎの回向文でもって、読経の功徳を普(あまね)く一切に回向するのが普回向である。
「願わくは、この功徳をもって普(あまね)く一切におよぼし、我らと衆生と皆ともに仏道を成(じょう)ぜんことを。十方三世一切(じっぽうさんぜいっさい)の諸仏諸尊菩薩摩訶薩(しょぶつしょそんぼさつまかさつ)、摩訶般若波羅蜜(まかはんにゃはらみつ)」
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