磨かざれば光なし
新しく買ったパソコンだと、映画を観ることができるというので、映画のディスクを買ってきて試してみた。わずか直径二十センチほどの円盤に、三時間以上の映画が入っていることにまず驚いた。買ってきた中に四〇年ほど前の正月に観たマイ・フェア・レディという映画があった。
この映画は貧しく下品な花売り娘が、特訓をうけて貴婦人に変身するというシンデレラ物語である。本来のシンデレラの話にはもの足りない部分があった。どんなに美しい人であっても、ガラスの靴がピッタリであっても、一日にして王妃になることはできない。王妃になるには貴婦人としての教養を身につけなければならないのである。
映画の主人公イライザは、半年間の特訓でその教養を身に付けていく。とくに言葉づかいと発音は、貴婦人の証明書のようなものなので、言語学者から徹底した指導をうける。言葉や礼儀作法が貴婦人になれば、心もおのずと貴婦人になる。これがシンデレラになるための方法である。映画の中で言語学者が「格調たかい言葉は国民の最大の財産である」と言っていたが、人の心を打つ演説も会話も、格調たかい言葉があればこそである。
イモムシが蝶に変身するように、うす汚れた花売り娘が貴婦人へと脱皮していく過程を、オードリー・ヘップバーンが生き生きと演じており、映画の魅力は登場人物の魅力だということがよく分かった。落ちこんでいるときこの映画を観れば、元気が出てくること請けあいである。
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