日本語を大切に
NHKのテレビ番組に「視点・論点」という短い番組がある。毎回さまざまな分野の人が一人で出演し、一人で十分間、意見を述べるという地味な番組である。その番組に先日、長く日本に住んでいるというドイツ人女性が登場し、日本語を大切にしましょうと呼びかけていた。
たとえば小泉内閣が国民の意見を広く聞きたいと、日本各地で討論会を開いている。それは結構なことだが、どうしてタウンミーティングと名付けるのか。日本政府の活動なら、日本語で名前を付けるべきではないかというのである。日本語の乱れがあまりにひどいのを見かねて、外国人が「もっと自国語を大切にしましょう」と忠告してくれたのであり、日本人の中にはこうした提言をする人すらいない、と言いたかったようである。
こんなことを書くと怒られるが、私の母は英語を話すどころか、ABCもロクに読めない。「そんな敵国語は学校で習わなかった」と言うのである。国の政策のために英語を学ぶ機会さえ与えられなかった人がたくさんいる国で、タウンミーティングとかJRとかNTTなどの名前を付けるのは、国民に対する裏切り行為だと思う。
NTTの電話帳は、「タウンページ」と「ハローページ」に分かれているが、なぜ職業別がタウンページで、五十音別がハローページなのか。職業別と五十音別で何か不足があるのか。自分たちが勝手に作った意味不明のカタカナ語を、むりやり利用者に押しつけることがあらゆる分野で行われているが、そんなことが許されるのだろうか。
パソコンの解説書やヘルプなどには、仲間うちでしか通用しないカタカナ語が多用されているため、読んでいると頭の中がどうしようもなく混乱してくる。そのためまずカタカナ語をまともな日本語に翻訳しないと、解説書が読めないのである。
たとえば私が使っている文書作成ソフトには、「フォントエフェクトツール」という機能が入っている。この言葉を見て意味の分かる人は多くはないと思うが、「飾り文字作成」とか「文字装飾」とすれば一目で分かる。同様に「オブジェクト枠」を「飾り文字枠」、「レイアウト枠」を「囲み記事枠」などと書けば初心者でも分かる。解説書は初心者のためにあるのだから、初心者に分かるように書くのが基本中の基本のはずである。
こうした意味不明のカタカナ語による損失は甚大であり、分かり易い用語を使えばパソコンの利用者ももっと増えると思う。パソコンとかインターネット、ソフト、ハードなどの言葉も、適切で美しい日本語に翻訳できないものかと思う。
ヨーロッパを旅行したとき、フランス人女性の話す英語の美しさに驚かされたことがあった。そのため少し話をしただけなのにそのときのことは強く印象に残っている。フランス人は自国語を大切にする人々だといわれており、公文書に外国語を使ってはならないという法律があるとか、子供が正確で美しいフランス語を習得するように親が熱心に指導するとか、聞いたことがある。自国語を大切にする人は英語も美しく話すのだとそのとき思ったのであった。
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