運命を変える
心構えがかわれば、態度がかわる。
態度がかわれば、行動がかわる。
行動がかわれば、習慣がかわる。
習慣がかわれば、人格がかわる。
人格がかわれば、運命がかわる。
運命がかわれば、人生がかわる。
これはセールスに関する本の中で見つけた言葉である。人間関係が円滑でなければセールスはできない。だから有能なセールスマンは人間関係の専門家である。そこで今回はセールスの専門家が書いた本から、人間関係と運命を良くするための心構えを学んでみようと思う。ときにはこういう畑ちがいの本を読むのもいいものである。ということで、以下はセールスマン速成講座。
セールスマンはものを売る前にまず自分を売らなければならない。自分を売るための第一条件は信頼されること、第二条件は好感を持たれること。
信頼されるために最低限必要な心構えは、うそをつかないことと、約束と時間を守ること。そのほかにも規則正しい生活をして心身ともに健康であること。言葉はハキハキ行動はテキパキ頼もしいこと。メモをきちんと取ること。仕事に精通し資料を整備していること。自分の給料はお得意さまからもらっているという感謝の心があること。相手が何を求めているかを察知する気働きがあること、などが必要。
好感を持たれるためには、身だしなみを調えて第一印象を良くすること。自分の話は手みじかにして必要以上に話さないこと。真剣に話をきき話の腰を折らないこと。相手の立場を理解し相手の利益を中心に話をすすめること。知らないことは知らないと言うこと。人の陰口や相手の嫌がることにふれないこと。理屈をこねたり議論をしたりしないこと。言い訳するよりもお詫びをすること。ネアカで熱心な態度をとること。周囲に気をくばること。
また自社の人に信頼されることも大切。だから、遅刻、早退、欠勤がなく安心して見ておれること。自分の給料は自分でかせぐという心構えがあること。目標を達成しようという強い意識を持っていること。積極的で前むきな発言が多く意識の高さが表れていること。自分の実績は上司、先輩、同僚、他部門のおかげという謙虚さがあること、などが大事。
セールスマンは何がなんでも売るという強い信号を発信しなければならない。声、言葉、表情、視線、動作、気力、などを総動員して信号を出すのであり、しつこいと言われるぐらいの積極さと熱心さで丁度よい。「買ってください」「お金を払ってください」と言えないのはセールスマン失格であり、そんなことでは「この人なに考えてるの。これで給料もらえるなんていい会社だ」と思われてしまう。
望むことなくしては何事も起こらない。だから夢と希望を実現する第一歩は、夢と希望を持つこと。第二歩は成せば成るの信念を持つこと。「なせば成る、なさねば成らぬ、何事も、成らぬは人の成さぬなりけり」。これは破産状態にあった米沢藩を復興した江戸時代有数の名君、上杉鷹山(ようざん)公の言葉。
成功する言葉、失敗する言葉
言葉には肯定的なものと否定的なものがあり、肯定的な言葉を使う人はニコニコとした肯定的な人間になるが、否定的な言葉を使う人は否定的な暗い人間になり、その場の雰囲気も否定的なものにする。だから自分も周囲も明るくするため以下のことを心がける。
カゼをひこうが少々頭が痛かろうが、「とっても元気です。気分は最高です」
「天気が悪くてイヤですね」よりも、「雨もそろそろあがりそうです」
「今月も成績が悪くて」よりも「おかげさまで今月も順調に推移しております」
「不景気で困ります」よりも「景気も回復に向かいそうです」
「きょうはダメでしょうか」よりも「今日はぜひお決め下さいませ」
「買ってもらえないでしょうか」よりも「お買いいただけますでしょうか」
つまり「買ってもらえない。ダメ。イヤ。悪い。困る」といった否定的な言葉を使わないようにするのである。お天気の悪口を言っても仕方がないし、否定的な言葉を使ってわざわざ相手の心を閉ざす必要もない。他にも商談を失敗にみちびく言葉としては、「心配です。難しい。損をする。失敗する。悪くなる。出費になる。売る。買う。契約する。決定する。サインする。義務がある。責任がある。お支払い」などがある。
また成功にみちびく言葉としては、「あなた(相手の名前をできるだけ呼ぶようにする)。積極的に取り組まれたほうが良いと存じます。前向きにご検討くださいませ。安心です。安全です。容易です。健全です。真実です。正しいです。信頼できます。理解いただけます。証明できます。
新しいです。誇りにできます。価値があります。幸福になります。喜んでいただけます。生き生きとしています。愛があります。明るい未来につながります。恩恵があります。節約につながります。良い結果につながります。お金につながります。保証されます。どちらになさいますか」などがある。
これらの言葉を眺めていると、人間がどういう言葉を好んだり嫌ったりするか分かる。もちろん敬語が使えないようではセールスマン失格。ユーモアのセンスも大切。うまい言葉が見つからず失敗した時は、反省を兼ねてうまい言葉と言い回しをじっくり探してみよう。
私たちは気が付かないうちに、毎日二・三百回もマイナス用語を心の中で使っているという。「またダメかもしれない。また怒られるかもしれない。留守かもしれない。目標に達しないかもしれない。自分だけが不利な扱いを受けているのではないか。みんなにバカにされているのではないか」。こうした思いは自分を消極的にするだけでなく、相手にも伝わってしまう。何事にもいい面と悪い面があるのだから、すべてよしと良い面を見ることが大切。
だから笑顔は何よりも好ましい態度。笑う角には福きたる。いつも笑顔を忘れず、福の神のようにニコニコと周囲を明るくする。商売は笑売、商人は笑人、商談は笑談、移動性高気圧のように周囲を日本晴れにして歩こう。肯定的な雰囲気を作るには、頭やからだ全体をタテにふって「イエス」の動作をおこなうとよい。それとなく場の雰囲気を肯定的にする催眠術のような効果がある。
低褒感微(ていほうかんび)は販売の極意。低は低い謙虚な姿勢。褒(ほう)はほめ言葉、四つは用意しておく。感は感謝の気持ちと言葉、三回は「ありがとうございます」を言う。微は微笑、すべての人は明るい笑顔を待ち望んでおり、この世の不幸を一身に背負ったような暗い表情に心を動かされる人はいない。
基本動作
正確で好ましい、姿勢、おじぎや挨拶、名刺の扱い方、座り方、対談距離、視線の置き方、などはセールスの基本動作。どこへ出しても通用する基本を身に付けているかどうか。セールスの世界は基本なしで通用する甘い世界ではない。
最低限、必要なことも身につけていないセールスマンは、何事に対してもいい加減である。真剣に経営や仕事に取りくんでいる人たちは、そうしたいい加減さを許さない。気を付けの姿勢や、おじぎもまともにできないセールスマンから商品を買う人はいない。型どおりにおこなえば意外と「あのセールスマンは礼儀作法がいい」と評価される。それはやるべきことを努力しておこなったことに対する評価である。
視線はまっすぐに置き、ときどき相手の目を見る。空返事をしたり、相づちのタイミングがずれていたり、メモを取らないようなことでは、相手の自尊心を傷つける。ため息をついたり、貧乏ゆすりをしたり、お客の前でタバコを吸ったりするのは自殺行為。卑屈な態度、落ち着かない態度、なれなれしい態度、気どった態度、いばった態度、相手を無視した態度、などにならないように気を付ける。
なめられてしまっては売れる物も売れなくなる。だから堂々として威厳があり、しかも、にこやかにして軽妙、という態度と話し方を身につける。また口臭に気をつけ朝晩かならず歯をみがく。よいセールスマンにはよい客がつき、悪いセールスマンには悪い客がつく。これを忘れてはならない。
以上のようなことに気を付けて自己啓発を行えば、運命の女神のほほえみを浴びて、輝くような人生が開けてくる。人間の性格は基本的には変わらないものだが、基本的には変わらなくとも、良い面を伸ばし悪い面を目立たなくすれば、その人なりの良さが出てくる。はじめは真似やふりをすればいい。堂々として威厳のあるふり、不動の信念のあるふり、感謝しているふり、小さなことに腹を立てていないふり。そうしたふりをしていればそれがやがて身についてくる。つまり「習い、性となる」。
余談であるが、テレビを見ていていつも情けなく思うのは日本人の基本動作である。欧米の政治家は歩き方も姿勢も話し方もスキがなく、堂々としていてかっこいい。それに対し日本の政治家はみな貧相で軽く見える。これは体格や顔つきの問題ではない。取材されたときの一般の人の受け答えも同じであり、総じて日本人は姿勢が悪くオドオドしていて、最後まではっきりと発言できる人すら少ない
最後に釈尊のお言葉を二つ。
「ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によって作り出される。もし清らかな心で話したり行ったりするならば、福楽はその人につき従う。影がからだを離れないように」
「ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によって作り出される。もし汚れた心で話したり行ったりするならば、苦しみはその人につき従う。車をひく牛の足跡に、車輪がついていくように」(法句経。中村元訳。岩波文庫)
参考文献「セールス・トーク入門」笠巻勝利 1990年 日本経済新聞
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