円相の話
「円かなること太虚(たいきょ。虚空)に同じ、欠くることなく、余ることなし」、という禅の言葉があります。その円かなる悟りの境地を、目に見える形にしたものが円相(えんそう)です。
禅僧が指し示すものは、悟りの境地以外にはありません。だから円相を描く目的も、悟りの境地を伝えること以外にはなく、塔婆に描いたり、葬儀のとき空中に描いたりするのもそのためです。
円相で悟りの境地を表現することは、中国唐代の南陽慧忠(なんようえちゅう)国師に始まるとされ、日本における現存最古の円相の墨跡は、養叟宗頤(ようそうそうい)禅師の「明歴ゝ」の賛のある円相とされます。この人は室町時代前期の人、とんちで有名な一休さん、の兄弟子です。
円相には九十六種の義があるとされ、それをまとめると六種になり、それをさらにまとめるとこうなります。円相は絶対の真理を表す象徴であり、主客対立以前の円かなる世界を指し示すものであり、仏法のすべての教えと三昧を含むものであり、見るだけで悟りの境地を味わうことのできるものである。
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