なつめの木の歌
なつめ(棗)の花が登場する童謡「あの子はたあれ」は、細川雄太郎(ほそかわゆうたろう)作詞、海沼実(かいぬまみのる)作曲で、一九三九年(昭和十四年)に楽譜が発表され、一九四一年(昭和十六年)にレコードが発売された歌。お寺の小僧さんが登場する珍しい歌である。
海沼実は、「里の秋」、「みかんの花咲く丘」、「夢のお馬車」、など多くの童謡を世に送り出した童謡作曲家。細川雄太郎は滋賀県日野町生まれの人、彼が童謡雑誌に投稿した歌詞が海沼実の目にとまり曲がつけられてこの歌ができたという。なお昭和十年代は戦時中でありながらも多くの童謡や唱歌の名歌が誕生した時期であった。
あの子はたあれ
あの子はたあれ、たれでしょね
なんなんなつめの、花の下
お人形さんと、遊んでる
かわいい美代ちゃんじゃ、ないでしょか
あの子はたあれ、たれでしょね
こんこんこやぶの、細道を
竹馬ごっこで、遊んでる
隣の健ちゃんじゃ、ないでしょか
あの子はたあれ、たれでしょね
とんとん峠の、坂道を
一人でてくてく、歩いてる
お寺の小僧さんじゃ、ないでしょか
あの子はたあれ、たれでしょね
お窓にうつった、影法師
お外はいつか、日が暮れて
お空にお月さんの、笑い顔
ナツメ(棗)は中国原産のクロウメモドキ科ナツメ属の落葉小高木、落葉樹なのに常緑樹のような強い光沢の葉をもつ植物である。また枝の基部にするどい棘(とげ)があり(ないものもある)、棗の字が棘の字に似ているのはそのためだという。
実は長さが二~三センチで、九月ごろに熟して赤黒くなり、そのまま放置すると落葉後も枝に残って乾燥し、しわがよってナツメヤシの実に似てくる。そのためナツメの木には「中国のナツメヤシの木」という英語名もある。
熟したナツメの実は生食することができ、干した実はドライフルーツになり、漢方薬としても多用される。ナツメの実は仙人の食べ物とも言われ、一日三つぶ食べると老い知らずとか、楊貴妃も毎日食べていたとかの言い伝えもある。
和名のナツメは、夏に芽が出ることに由来する夏芽から来ているが、真夏にならないと芽が出ないということではなく、五月ごろに芽を出し、六月ごろに葉の付け根に数個の淡黄色の小さな花を開く。つまり他の木よりも芽吹きが少し遅いのであり、そしてこの歌の季節はナツメの花が咲く六月ごろということである。残念なことに小浜市でナツメの木を見たことはない。
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