風邪の話
七月の猛暑の中、カゼを引いてしまった。
夜中に目が覚めたとき、かすかに喉の奥に異常を感じた。喉の奥に何かが張り付いているようなイガイガ感があり、ほかには何も問題はなかったが、そのイガイガ感でこれはまちがいなくカゼを引いたと確信した。私の場合、カゼ引きはいつも喉から始まる。
今年は四月の旅行中にもカゼを引いたので、これで二度目である。プールで毎日泳いでいればカゼを引かないなどと高言していたのに、これは一体どうしたことかと言っても引いたものは仕方がない。冷房による寝冷えが原因かもしれない。
そこで寝床の中でどうしようかと思案した結果、まったくの引き始めからしっかりと一分の隙もなく養生したら、どうなるのか試してみようと思いついた。
ということで、いつも朝五時ごろに起きているのを起きずにそのまま寝過ごし、朝食と昼食を兼ねた食事を軽くとり、夕食は食欲がなかったのでとらずで、一日中、寝て暮らした。医者にも行かず、薬も飲まずである。
午後から夜中にかけてが峠だったようで、熱も少し出たので冷蔵庫に入っていた頭を冷やす冷却剤が役に立った。熱のあるとき頭を冷やさずに寝ているのはつらいものである。また頭を冷やしてくれる人がいないのも淋しいものであるがこれは仕方がない。寝てばかりで腰が痛くなってきたのに、一日中、寝ていることができたのは、体がカゼと戦っていたからであろう。
精神状態は良くなかった。たかがカゼといえど病気は病気、心の中が濁ったような状態になっていて、とてもすっきりさっぱりとはいかない。どんなに大悟徹底した人でも、病気のとき心が濁るのは避けられないと思う。
二日目
朝、目が覚めたときには症状はかなり落ち着いていた。ただし体温は計らなかったが、まだ少し熱っぽかった。腰が痛くて寝てばかりもおられず、この日は寝たり起きたりをくり返した。
三日目
さらにすっきりとしてきたが、ときに咳き込むこともあり、まだ回復とはいえない状態。
カゼは引き始めからどんなに養生を心がけても、一度かかるとある程度まで引きこまないと治らないものらしく、今回は完全に寝込んだのは一日だけだったが、やはり三日間の休養は必要だったようである。とはいえ大事なのはやはり初期対策、こじらせていたらとてもこの程度では済まなかったと思う。
四日目
すっきりと目が覚めたので朝の読経を開始したが、声が続かなかった。喉のあたりにカゼの本拠地が残っている。朝の外掃除も始めたがこれくらい体を動かすのは問題なし。午後は食料の買い出しで外出した。少し汗をかくのも問題なし。買い物中に一度、強く咳き込んだがすぐに収まった。買い物のあと、剃髪をして、シャワーを浴びて、敷布と枕カバーを替えて、身の回りをさっぱりとさせた。
四日目でここまでたどり着いたが、私の場合はここからが問題である。一度カゼを引くとセキが長引くのである。
五日目
全体としてはかなり良くなったが、読経のとき声がまだまともには出てくれず、代わりにセキとタンが出る。セキの原因はタンがからむこと。喉の損傷がまだ回復していない。プールで病後の初泳ぎをして早めに帰る。カゼへの悪影響はなく、体も気分もすっきりとした。寝ているときはカゼが治ったらすばらしい生活が待っていると思ったりするが、いつの間にかそんなことは忘れてしまう。
六日目
まだ声がかすれているので、ささやき声で読経する。
七日目
読経の声がかすれなくなってきたが、まだ本来の声ではない。
八日目
ほぼ正常に戻る。ときどきセキが出る程度。
九日目
ほぼ全快。ただし声が少しかすれることがある。
今回はカゼだと気がついたときから徹底的に養生してみた。これだけ先手をとって養生すれば、カゼもそれ以上攻め込んではこられないだろうと思ったのだが、結果はそうはならなかった。カゼは一度引してしまうとある程度引きこまないと治らないということと、全快には十日ばかりかかるということが、今回の実験の結論であった。
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