萩の木の歌
 
萩の木が出てくる唱歌「故郷(こきょう)の空」は、スコットランド民謡の曲に、大和田建樹(おおわだたけき)が歌詞をつけて、一八八八年(明治二一年)に発表された歌。遊学あるいは就職のために故郷を遠く離れた人が、暮れゆく秋空を眺めながら、故郷の夕空や、残してきた家族や、故郷での生活を懐かしむという歌。大和田建樹は膨大な量の歌詞を書き残しており、代表作は長大なる「鉄道唱歌」の歌詞。
 
なお、なかにし礼の作詞でドリフターズが歌っていた、「誰かさんと誰かさんが麦畑」も同じ曲の歌であるが、なんとこの歌詞の方が元歌の内容に近いのだという。

  故郷の空

夕空晴れて、秋風吹き
月影落ちて、鈴虫鳴く
思えば遠し、故郷の空
ああ、わが父母、いかにおわす

澄みゆく水に、秋萩(あきはぎ)垂れ
玉なす露は、芒(すすき)に満つ
思えば似たり、故郷の野辺(のべ)
ああ、わが兄弟(はらから)、たれと遊ぶ

萩は古来から日本人に好まれてきた植物、秋の七草の一つに数えられている。ただしいくつかある種の中に秋萩という種は存在しないので、ここでは野生種の代表であり、私の寺の裏山にも生えている、ヤマハギ(山萩)のこととして話を進める。
 
ヤマハギは北海道から九州にかけて自生する、マメ科ハギ属の落葉低木であるが、冬に地上部が枯れる草本のような個体もある。樹高は最大でも二メートルほどで、三出複葉の葉をもち、初秋に小さな花をたくさん付け、ハラハラとこぼれるように落花する。
 
なお庭に植えられているハギの多くはミヤギノハギ(宮城野萩)、この萩は枝がよく垂れ下がるので、歌われている秋萩はこれかもしれない。
 
山頭火(さんとうか)の句に「はぎがすゝきがけふのみち」というものがある。昭和八年(一九三三年)九月二二日、広島県尾道を行乞(ぎょうこつ)したときの句とあるが、山頭火が見たのはどの萩だったのだろうか。

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