もみじの歌
紅葉(もみじ)は、明治四四年(一九一一年)に発表された、高野辰之(たかのたつゆき)作詞、岡野貞一(おかのていいち)作曲の童謡。高野辰之は群馬と長野の県境にある碓氷(うすい)峠から眺めた紅葉の、心に迫る美しさに感動してこの歌詞を書いたという。日本の歌百選に選ばれた曲の一つ。
なおこの二人が作詞作曲した童謡には、故郷(ふるさと)、春の小川、朧月夜(おぼろづきよ)、春が来た、などもある。
紅葉(もみじ)
秋の夕日に照る山もみじ
濃いも薄いも数ある中に
松をいろどる楓(かえで)や蔦(つた)は
山のふもとの裾模樣(すそもよう)
溪(たに)の流(ながれ)に散り浮くもみじ
波にゆられて、はなれて寄って
赤や黄色の色さまざまに
水の上にも織る錦(にしき)
もみじという言葉は、秋に植物の葉が赤や黄色に変わることを意味する「もみつ」という動詞の名詞形であり、もみじするといういい方もある。また紅葉あるいは黄葉する木の総称としても使われ、カエデの木が特に見事にもみじすることからカエデの別称ともなっている。
春の花と、秋のもみじ、どちらも心ひかれるものであるが、どちらか一つと言われたら私は秋のもみじを採りたい。山の上から眺めるもみじした山々の景色ほど心に染みる景色はなく、あまりの美しさに涙が出てくるというのも誇張ではない。もみじ狩りという行事があったのもむべなるかなで、そうしたとき昔の人は手折った枝を髪に挿したという。また草もみじという言葉があるように、鮮やかにもみじする草もある。
カエデという名前は、葉の形がカエルの手に似ていることから付いた名とされ、蛙手(かへるて)がカエデになったといわれるが、蛙手に似ていないカエデもある。カエデの仲間の名前にはイタヤカエデやハウチワカエデのようにカエデが付く種名が多いが、オオモミジやヤマモミジのようにモミジが付く種もある。なお歌詞に出てくる山もみじは、山全体のもみじを指す言葉として使われている。
カエデに楓(ふう)の字をあてるのは古くからの誤用で、楓の字は本来はフウ科(以前はマンサク科)フウ属のフウ(楓)の木を指す漢字である。フウは中国原産の落葉高木、赤や黄色の紅葉がみごとなことから、北中米原産のモミジバフウとともに街路樹としてよく植えられ、モミジバフウの並木は小浜市内にも甲ヶ崎(こがさき)の国道沿いにある。
カエデを代表する種はイロハカエデ(イロハモミジ)であろう。公園などに植えられるカエデのほとんどはこの種である。イロハカエデはムクロジ科カエデ属の落葉樹、樹高が最大で十五メートルになる、蛙の手に似たかわいらしい葉をもつ、赤が基本の黄色や橙色にも発色する、きわめて紅葉の見事な木である。
歌詞に登場するもう一つのもみじする植物のツタは、ブドウ科ツタ属のつる性木本の落葉樹、つるの長さは最大で十五メートルになり、巻きひげの先に付いた吸盤で岩や木に吸い付いてのぼり、赤、橙、紫の入り混じった鮮やかな紅葉を見せてくれる。ツタは落葉樹なのでナツヅタの別名があり、別にフユヅタという常緑性のつる植物もある。
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