桑の木の歌
 
桑の木の実が登場する童謡「赤とんぼ」は、大正十年に三木露風(みきろふう)が兵庫県たつの市のふる里で過ごした幼年時代を偲んで書いた詩に、昭和二年に山田耕筰(やまだこうさく)が曲をつけてできた歌。「日本の歌百選」に選ばれた歌のひとつ。
 
なお「負われて見た」は「背負われて見た」の意味。また「姐(ねえ)や」は肉親の姉ではなく子守奉公をしていた娘のことだという。

  赤とんぼ

夕焼、小焼の、あかとんぼ、
負われて見たのは、いつの日か

山の畑の、桑の実を
小籠(こかご)に、つんだは、まぼろしか

十五で、姐やは、嫁にゆき
お里の、たよりも、たえはてた

夕やけ、小やけの、赤とんぼ
とまっているよ、竿の先

桑の木は養蚕用に大量に栽培されていた植物であるが、今ではまったくと言っていいほど見かけなくなった。栽培されていたクワにはマグワとヤマグワがあり、ともにクワ科クワ属の落葉樹、高さはマグワが十メートル、ヤマグワが十五メートルになり、マグワは中国原産の木なのでトウグワ(唐桑)とも呼ばれる。ちなみに釈尊がその木の下で悟りを開いたインド菩提樹はクワ科の植物である。
 
クワの木の特徴は若木の葉が、虫に食われたように大きく切れこむこと、この切れこむ葉を初めて見たときにはその形の異様さに一瞬、頭が混乱した。マグワとヤマグワは葉では見分けくいが、実が付いているとすぐに分かる。実に雌しべの一部が残ってできた突起が付いているのがヤマグワ、突起がなく黒くつややかに輝いているのがマグワである。
 
実は食べたり果実酒にでき、マグワの実の方がおいしそうに見えるが、ヤマグワの方が甘くておいしいという。ただしどちらにしても食べると口の中が黒くなる。葉は桑の葉茶にしたり、若葉を天ぷらにできる。小浜市では川崎の台場浜公園にマグワの木があるが、実がついているのを見たことがない。雌雄異株(しゆういしゅ)の植物なので、オスではないかと思う。


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