桜の木の歌
 
「さくら、さくら」は歌詞も曲も作者不明の歌。琴の手ほどきのために作られた曲に、歌詞をつけてできた歌とされ、ネットで調べたら三種の歌詞が見つかった。それらは江戸時代の歌詞、明治時代の歌詞、昭和の歌詞となっていて、昭和の歌詞以外は製作年も不明であるが、その順に作られたのは間違いないと思う。
 
この中でもっとも広く歌われているのは、昭和十六年に作られた昭和の歌詞、またこれを一番とし、明治の歌詞を二番とすることもある。なお題が「さくら」になっていることもあり、江戸時代の歌詞には「咲いた桜」という別の題も付いている。
 
「さくら、さくら」は日本を象徴する歌、あるいは日本を象徴する曲として、国家的な行事の場で歌われたり演奏されたりすることも多く、「日本の歌百選」に選ばれている。以下に昭和、明治、江戸の順にご紹介する。

  さくらさくら

さくら、さくら
野山も里も、見わたす限り
かすみか雲か、朝日ににおう
さくら、さくら、花ざかり

さくら、さくら
やよいの空は、見わたす限り
かすみか雲か、匂いぞ出ずる
いざや、いざや、見にゆかん

咲いた桜、花見て戻る
吉野は桜、龍田(たつた)は紅葉(もみじ)、唐崎(からさき)の松
常磐(ときわ)、常磐、深みどり

桜の花は日本でいちばん人気のある花であろう。桜が咲くと人がたくさん集まる。そのため人を集める撒き餌のような役をする人をサクラと呼んだりもする。
 
桜の木といえば、今ではソメイヨシノ(染井吉野)が全国制覇したような状況になっている。このエドヒガンとオオシマザクラとの雑種とされる栽培品種が、北は北海道南部から南は九州にいたるまで、公園樹や街路樹として大量に植えられているのである。
 
ソメイヨシノは樹高が最大十五メートルになる、「バラ科サクラ属」の落葉高木であるが、ふつうはこうした分類を書くときには「バラ科サクラ属サクラ」と書き、その下に栽培品種や変種が来るはずである。ところが桜の木にサクラという種は存在せず、サクラ属のあとにすぐ栽培品種のソメイヨシノが来る。このあたりの事情は調べても分からなかった。
 
サクラの木は品種を見わけるのが難しく、どこでも見かけるソメイヨシノでさえ慣れないと確認するのは難しい。その難しさを作った原因は、突然変異しやすく新種を作りやすいサクラの性質にある。現在サクラには十一の基本の品種があって、それらが自然交配してできた品種が百種以上あるとされ、それに人工交配してできた栽培品種を足すと六百種を超えるといわれる。この数はそう簡単に調べられる数ではなく、わずかの違いですべての品種を見わけることなど植物学者でも不可能であろう。なお基本の十一種にソメイヨシノは含まれていない。
 
私の寺の横に、小浜市民の花見の場になっている小浜公園がある。その公園内に植えられているのはソメイヨシノばかりであるが、裏山の遊歩道にはエドヒガン、オオシマザクラ、ヤマザクラ、八重のサトザクラ、マメザクラ、なども植えられていて、ヤマザクラとマメザクラは自生のものもある。

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