からたちの花の歌
 
「からたちの花」は北原白秋(きたはらはくしゅう)作詞、山田耕筰(やまだこうさく)作曲の唱歌。この歌詞は童話と童謡の児童文芸誌「赤い鳥」で一九二四年に発表されたとあるから、今からちょうど百年前に書かれた詩である。

  からたちの花

からたちの花が咲いたよ
白い白い花が咲いたよ

からたちのとげはいたいよ
青い青い針のとげだよ

からたちは畑(はた)の垣根よ
いつもいつもとほる道だよ

からたちも秋はみのるよ
まろいまろい金のたまだよ

からたちのそばで泣いたよ
みんなみんなやさしかつたよ

からたちの花が咲いたよ
白い白い花が咲いたよ

カラタチ(枸橘。枳殻。枳。唐橘)は、葉が出るまえに咲く五弁の白花が、春の訪れを告げてくれる木。またピンポン玉のような金色の実が、秋の訪れを告げてくれる木。ミカン科ミカン属に属し、ミカン属の木はほとんどが常緑樹であるがこの木は落葉樹、高さは最大でも三メートルほど、葉は小型の三出複葉で、葉柄(ようへい)に小さな翼(よく)がある。古い時代に中国から伝わった植物とされ、種名は唐橘(からたちばな)の略とされる。
 
この木は大きく鋭いトゲが多数あることから、人や獣の侵入を防ぐための生け垣によく利用されたが、今ではまったく見かけなくなった。果実は苦みと酸味が強くて生食には向かず、利用法は香りを生かした果実酒か、お風呂に浮かべて香りを楽しむことくらいであるが、昔は薬用植物として扱われていた。また病気や寒さに強くやせた土地でもよく育つことから、今も温州(うんしゅう)ミカンの台木(だいぎ。接ぎ木するときの根元の木)として使われている。
 
なおカラタチの木が登場する歌というと、どうしても島倉千代子の「からたち日記」を思い出してしまう。この歌は子供のころの私が初めて覚えた歌の一つ。質素で淋しげな花をつける、実が酸っぱくて食べられない、大きなトゲで人を拒絶する、世をすねた日陰者のようなカラタチの木を歌い込むことで、世の中の薄情さや別れの悲しさを表現した歌のようである。

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