小浜市の気になる木
 
小浜市にある天然記念物以外の気になる木のご紹介。まずはすぐ近くにある小浜公園の木から。

  
 小浜公園
 
この公園は小浜市民の花見の場なので、園内には桜の木が圧倒的に多い。品種はほとんどがソメイヨシノ(染井吉野)である。なおサクラはバラ科の落葉樹。
 
公園中央に三本ある大きな木はクスノキ科の常緑樹クスノキ(楠)。クスノキは主に太平洋側に生える木なのでこれは植栽されたものであろう。この木の特徴は葉をちぎると樟脳の香りがすること。昔はこの木から樟脳を作っていた。クスノキは高さ三〇メートルになる日本の代表的な巨樹であるが、ここの木はあまり成長が良くない。気候が合わないせいだと思う。
 
梅田雲浜(うめだ・うんぴん)碑の前にある二本の大木はクスノキ科の常緑樹タブノキ(椨)。この木の特徴は葉裏の色、粉白色を帯びたきれいな緑色をしている。この公園の裏山にはタブノキとスダジイが多い。
 
佐久間艇長像へのぼる階段の下に橋が架かっている。その橋の手前の右側にラカンマキ(羅漢槙)が一本ある。ラカンマキはマキ科の常緑樹イヌマキ(犬槙)の変種、ふつうのイヌマキより葉が小さい。この木にはこけしのような奇妙な形の実がなり、これを焼酎に漬けるとおいしいお酒ができる。ただし実のなる年とならない年がある。なおイヌマキは雌雄異株の木なので実のつく木とつかない木がある。
 
橋の左側で川の上に枝を広げている大木はブナ科の常緑樹ウラジロガシ(裏白樫)、これは天然記念物にしてもいいような古木である。私はこの木をスダジイと思いこんでいたが、落ちていたドングリが違うので調べてみたらウラジロガシだった。日本には二二種のドングリの木があり、ウラジロガシはその一つ。なおこの木のすぐ横に生えているのは、同じ種類の木に見えるが、ブナ科の常緑樹スダジイ。
 
そこから階段を少し登った左側に一本あるコルク質の樹皮をもつ木はブナ科の落葉樹アベマキ(阿部槙)、この山にアベマキはこの一本しかないが嶺北の山にははたくさんある。これもドングリの木。
 
階段上部の右側にツツジ科の常緑樹シャシャンボという木がある。これはブルーベリーの仲間で実は食べられる。シャシャンボという名はその小さな実に由来するという。たくさん実った小さな実を小小ん坊(ささんぼう)と呼び、それがシャシャンボになったというのである。ここにある木はシャシャンボでは最大級の大きさ。特徴のない木なのでこの木は調べるのに苦労した。確認の決め手は葉裏の主脈にある小さな数個の突起。
 
階段上の左側にハリエンジュ(針槐。別名ニセアカシア)が二本ある。この米国原産のマメ科の落葉樹は、名前の通りの葉の根元に針のような二本のトゲをもっている(トゲのない品種もある)。六〇年以上も前のこと、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」という歌がはやったことがあった。この歌のアカシアというのはこのハリエンジュのことで、アカシアといえばこの木を指すことが多いが、樹木名としてはまちがいである。アカシアの雨はこの木の落花のことを意味するともいわれ、この木がここに植えられたのはこの歌の影響があるのかもしれない。春に真っ白な花を咲かせるが高い木の上なので気がつく人は少ないと思う。

  
 台場浜公園
 
小浜漁港の手前にあるこの公園は、狭いわりに木の種類の多い公園、台場浜(だいばはま)という名前はここに砲台があったことの名残とある。幕末の頃ロシア船に対する備えとして、ここに七門の大砲を備えた砲台があったというのである。つまり砲台場跡の浜に作られた公園という意味の公園名であるから、この公園が作られた時ここは海に面していたのだろう。
 
また世阿弥(ぜあみ)船出之地という石碑も園内に立っている。能の大成者、世阿弥が佐渡に流された時ここから船出した、それを記念して碑を建てる、などの説明がある。
 
公園の正面入口から入ってすぐのところにある大木は、センダン科の落葉樹センダン(栴檀)、この木は四国、九州、沖縄などに自生する木とあるからこれは植栽されたものであろう。二回奇数羽状複葉の葉をもつ木なのでこの木は見わけやすい。葉が落ちた後にも枝に実が残り、中のタネの断面は星形をしている。最大で高さ二〇メートルになるという木であるから、この木はまだまだ大きくなるだろう。
 
センダンというと「栴檀は双葉より芳し」という言葉が思い浮かぶが、この言葉の栴檀は白檀のこと、この木のことではない。なおエンゼルラインの料金所跡の左側にもセンダンの木が数本ある。
 
この公園の左側の周囲は築山になっていて、その中にブナ科の常緑樹マテバシイ(馬刀葉椎。全手葉椎)が三本ほどある。この木はサツマジイ(薩摩椎)とも呼ばれるように九州や沖縄に自生する木であるが、公園によく植えられるとあるからここにあってもおかしくはない。ただし小浜ではここでしか見たことがない。公園によく植えられる理由は成長が早いこと、虫のつかないこと。実は食べられる。椎の木にはスダジイ、ツブラジイ、マテバシイの三種があり、ほかの二種は私の寺の裏山にも自生している。
 
やはり築山の中に十本ほどモチノキ科の常緑樹クロガネモチがある。これも小浜ではここでしか見ない木。秋に真っ赤な実を付けるが、雌雄異株の木なので実のつく木とつかない木があり、ここにはその両方が植わっている。この木は高さ二〇メートルになる。
 
モクセイ科の常緑樹ネズミモチも築山に一本ある。この木は鼠のフンに似た黒っぽい実を付けることからこの名がある。
 
公園のいちばん奥の右側にバラ科の常緑樹カザンデマリ(花山手鞠)が、勝手に生えているという感じで二本生えている。これはヒマラヤトキワサンザシとも呼ばれるヒマラヤ原産の木、これも小浜ではここで初めて見た。公園右側の中ほどにブナ科の常緑樹アラカシ(荒樫)も二本ある。
 
他には、ケヤキ、クスノキ、タブノキ、エゴノキ、イヌマキ、サツキ、スダジイ、クロマツ、タイサンボク、ソメイヨシノ、サルスベリ、タニウツギ、サザンカ、ヤマモモ、アセビ、キャラボク、トベラ、ヒラドツツジ、など。

  
小浜病院前の公園
 
この公園は、中央に巨大な梅田雲浜像が立つ、小浜線を走っていたC58蒸気機関車が展示されている公園であるが、公園名の表示のない名無しの公園である。ここには気になる木や珍しい木はないが、目につく木をいくつかご紹介する。
 
数本ある常緑の大きな針葉樹はマツ科のヒマラヤ杉、この木の原産地はヒマラヤ付近、珍しい木ではないが小浜市内ではほかでは見かけない。とんがり帽子型のすっきりとした樹形になるはずの木であるが、ここの木はみな樹形がよくない。大きくならないように剪定されているからだろう。
 
園内にたくさん植えられているカエデは、落葉しているので断定はできないが、ムクロジ科の落葉樹イロハカエデであろう。公園に植栽されるカエデの九〇パーセントはこの種といわれる。やはりどこの公園でも見かけるツツジの植え込みはツツジ科の半常緑樹ヒラドツツジ、長崎県平戸市でたくさん栽培されたのでこの名があるとか。雲浜像の横に生えている大きな常緑樹はクスノキ(楠)。蒸気機関車の横に生えているモクモクした樹形の常緑樹はヒノキ科のカイヅカイブキ(貝塚伊吹)。

   
薬師堂のウツギ
 
児童公園の西側、小浜病院の反対側を探すと小さな薬師堂がある。このお堂の横にご神木になっているというウツギの老木が一本ある。薬師堂にご神木というのも奇妙な取り合わせではある。説明書きによると、大正十三年に薬師堂が作られ、現在のものは昭和六一年に作り替えられたものとあり、寄付者のなかに知っている人の名前がいくつかあったが、この木の樹齢などに関する説明はなかった。
 
ただしこの木はウツギ(空木)ではなくニシキウツギ(二色空木)である。この木は花の色が白から赤に変化し、赤と白の二色の花が入りまじって咲くのでこの名がある。ウツギはアジサイ科の落葉樹、ニシキウツギはスイカズラ科の落葉樹、ウツギは幹の芯が空洞になっていて、それが名前の由来であるが、ニシキウツギは空洞にならない。


後瀬山(のちせやま)の山上に建つ愛宕(あたご)神社の左側に、ヤマモモ科の常緑樹ヤマモモ(山桃)の巨木が一本ある。これだけ大きなヤマモモはほかでは見たことがなく、天然記念物にしてもいい木だと思う。ヤマモモは雌雄異株の木で実は食べられるがこの木は実を付けない。なぜか実を付けるヤマモモの木はきわめて少ない。またこの神社周辺にはブナ科の常緑樹スダジイの古木や大木が多い。

 
滋賀県との県境になっている林道上根来(かみねごり)線のおにゅう峠には、ブナ科の落葉樹ブナの木が多い。小浜でブナを車から眺められるのはここくらいである。なおこの林道は冬は通行止めになる。
 
この林道手前の下根来から上根来の集落のあたりの道ぞいには、クルミ科の落葉樹オニグルミの木が多い。この木は小さめのクルミの実を付け、実は食べられるし、味も売っているクルミと同じであるが、実が小さいだけに中身は少ない。塩がまの吉井医院前の海岸にもオニグルミの木が生えている。なお売っている大きなクルミはカシグルミ(菓子胡桃)の実。

 
広域基幹林道若狭幹線という長い名前の林道が阿納尻(あのじり)から三方五湖の方へ伸びている。この林道ぞいにクロウメモドキ科の落葉樹ヨクグラノキ(横倉木)が一本ある。この木は日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎博士が、生まれ故郷の高知市の横倉山で発見し、その山の固有種に違いないと思いヨクグラノキと名付けたという木である。ところがのちに日本各地で見つかるようになったのだが珍木であるのはまちがいない。この木の葉のつき方は互生であるが、しばしば、右、右、左、左、というように二枚ずつ互生するコクサギ型葉序になる。(註・・・よくよく調べたらこの木はヨクグラノキではなかった)
 
またこの林道ぞいにはアカガシ(赤樫)の木もある。これも珍しい木ではないが小浜ではここでしか確認していない。この林道も冬は通行止めになる。

 
エンゼルラインという観光道路が久須夜ヶ岳の山頂近くまで通じている。この山は小浜に二山ある一等三角点の山の一つ、林立する大小のアンテナに囲まれた中に三角点が設置されている。そのアンテナ群の少し下にトウダイグサ科の落葉樹シラキ(白木)が数本ある。この木は黄色と赤の入り混じった鮮やかな紅葉を見せてくれる。
 
エンゼルライン沿いにはトウダイグサ科の落葉樹アブラギリ(油桐)がやたらと多い。これらは桐油(とうゆ)をとるためにこのあたりで栽培されていた木の子孫であろう。また上根来のあたりにもアブラギリは多い。この木もきれいに黄葉する。なおこの道路も冬は通行止めになる。

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