青井山の植物案内

自坊の裏山に生えている植物のご案内。この山は私がいつも散歩している山なので、時間に余裕ができたとき、この山にどんな植物が生えているか調べてみようと思い立った。木や花を見るのは昔から好きであった。そしてこれまでに調べたことを整理する必要から、ひとまずまとめてみたのがこの植物案内。
 
図鑑に載っている植物の写真は開花時のものが多い。そのため植物名を調べるいちばんの適期は花の咲いているときということになる。そしてその次は実のついているとき、反対に難しいのは落葉樹を冬に調べるときである。そういう事情なのでざっと調べるだけでも一年以上かかってしまった。ただし名前の分からない植物がまだあるし、見逃している植物や名前をまちがえている植物もあるはずだが、完ぺきを期せば永久に終わらない、そう考えてのこれは中間報告的なものである。
 
植物の名前を調べるのは手間と時間のかかる仕事であるが、それだけに分からなかった植物の名前が分かったときや、名前だけ知っていた植物を思いがけず見つけたときの喜びは大きかった。それに植物の名前をたくさん知っていると山に対する親近感がまったく違ってくる。
 
なお、この山あるいはこの山の植物に興味のある人はご連絡ください。喜んでご案内いたします。

  
植物番付
 
この山でいちばん目に付く木はスダジイ(スダ椎)である。椎の木にはスダジイ、ツブラジイ、マテバシイの三種があり、この辺りでシイノキといえばほとんどがスダジイである。純林に近い林があるし、古木や巨木もたくさんあるから、スダジイがこの山の東の横綱であるのはまちがいないが、ツブラジイの大木も数本ある。
 
つぎによく目につくのはタブノキ、これが西の横綱といったところ。なお若狭地方にある巨木や古木の半分はスダジイかタブノキである。両方とも成長の早い役に立たない木、ということで巨木になれるのだろう。
 
大関級の木は、コナラ、栗、カラスザンショウ、ホオノキ、ヤシャブシ、オオバヤシャブシ、といったところ。
 
関脇は、ヤマモモ、ヤマボウシ、ソヨゴ、クマノミズキ、ハゼノキ、アズキナシ、桐、ソメイヨシノ。
 
小結は、リョウブ、ヒサカキ、クロモジ、三つ葉ツツジ、ウツギ、谷ウツギ、アカメガシワ、などの中低木。
 
次は食べられる木の実のご紹介。この山でとれる木の実の代表はヤマモモとヤマボウシ。ただしたいていは手の届かないところになっている。なおヤマモモは雌雄異株の木なので実のつく木とつかない木があり、実のつく木は少ない。三つ葉アケビもたくさんあるが、これは猿に先に食べられてしまうし手が届かないしでまず手に入らない。スダジイのどんぐり(椎の実)も食べられる。木イチゴ類、ナナカマド、ガマズミ、の実も食べたり果実酒にしたりできる。
 
新芽が食べられるのは、リョウブ、タラノキ、コシアブラ、タカノツメ、ニワトコ、など。ただしリョウブ以外は数が少ない。尾根の上にはワラビも生えている。発がん性があると分かってからワラビを食べる人は減ったが、色といい味といいこれは山菜の王者だと思う。枝でヨウジを作るクロモジの木、葉を食品を包むことに使ったホオノキやサルトリイバラもある。
 
触りたくない木もある。ヤマウルシ、ツタウルシ、ハゼノキ、ヌルデ、はウルシ科の木なので、樹液に触るとかぶれる。この中でとくに多いのがヌルデ、林道ぞいにたくさん生えている。

  
これまでに確認した青井山の植物
  
  針葉樹
杉。ヒノキ。アカ松。クロ松。モミ。イヌマキ。ラカンマキ(イヌマキの変種)。ビャクシン。ネズミサシ。コノテガシワ。キャラボク。ヒマラヤ杉。カイズカイブキ。イヌガヤ。

  常緑樹
スダジイ。ツブラジイ。タブノキ。ホソバタブ。シロダモ。ヤブニッケイ。クスノキ。カゴノキ。シラカシ。ウラジロガシ。ヤマ桃。モチノキ。クロガネモチ。鼠モチ。ソヨゴ。ヤブ椿。サザンカ。サカキ。ヒサカキ。アセビ。ヒラドツツジ。サツキ。シャシャンボ。キョウチクトウ。アオキ。トベラ。大葉グミ。ナワシログミ。ツルグミ。シャリンバイ。マメツゲ。キンメツゲ。ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)。ヒメエニシダ。万両。ヤツデ。カクレミノ。ヒイラギ。

  落葉の中高木
コナラ。栗。ミズナラ。アベマキ。ケヤキ。エノキ。クマノミズキ。ソメイヨシノ。ヤマ桜。オオヤマ桜。オオシマ桜。エドヒガン桜。サト桜。ウワミズ桜。カスミ桜。近畿マメ桜。アズキナシ。ネムノキ。ホオノキ。ハゼノキ。山ハゼ。カラスザンショウ。犬シデ。赤シデ。桐。山ボウシ。ハリエンジュ(アカシア)。南京ハゼ。ヤシャブシ。大葉ヤシャブシ。イロハモミジ。ウリカエデ。ウリハダカエデ。モミジバフウ。ハナノキ。ハリギリ。青ハダ。柿ノ木。ウラジロノキ。コシアブラ。タカノツメ。ナナカマド。ハクモクレン。コブシ。タムシバ。エゴノキ。リョウブ。ムクノキ。花ミズキ。フウリン梅モドキ。ゴンズイ。オニグルミ。

  落葉の中低木
ガマズミ。コバノガマズミ。ミヤマガマズミ。ヤブデマリ。姫コウゾ。ガンピ。タラノキ。ウツギ。谷ウツギ。ノリウツギ。ドウダンツツジ。山ツツジ。ホツツジ。コバノミツバツツジ。ウスギヨウラク。ネジキ。ナツハゼ。アジサイ。ガクアジサイ。コアジサイ。ヤマ萩。マルバ萩。イタチ萩。トウコマツナギ。紫シキブ。ヤブ紫。コムラサキ。クロモジ。エビガラ苺。ニガ苺。モミジ苺。クサ苺。クマ苺。ヘビ苺。冬苺。バラ苺。ノイバラ。ニガキ。コウヤボウキ。マルバアオダモ。赤目ガシワ。ツクバネウツギ。コツクバネウツギ。キブシ。ニワトコ。マユミ。クサギ。ヌルデ。山ウルシ。秋グミ。ツルグミ。コマツナギ。ヤマコウバシ。ウグイスガグラ。ニシキギ。イワガサ。イソノキ。ホツツジ。

  つる性の植物
アケビ。三ツ葉アケビ。ムベ。藤。ヤマ藤。クズ。ツタ。キヅタ。スイカズラ。ツタウルシ。岩ガラミ。テイカカ
ズラ。イタビカズラ。ヘクソカズラ。ビナンカズラ。山の芋。ウチワドコロ。オニドコロ。ガガイモ。アオツヅラフジ。トキリマメ。ノササゲ。野ブドウ。サルトリイバラ。ヒヨドリジョウゴ。センニンソウ。コヒルガオ。三角ヅル。アマヅル。

  草本
ホタル袋。ササ百合。ネジバナ。タチツボスミレ。スミレ。ノジスミレ。ヨメナ。シロヨメナ。ノジギク。ノボロギク。ヨモギ。ニガナ。ヤブマメ。イヌトウバナ。ハッカ。ツリフネソウ。ヌスビトハギ。ハマウド。イタドリ。ススキ。ウラシマソウ。タツナミソウ。ミゾソバ。オニヤブマオ。メヤブマオ。カラムシ。メドハギ。イノコヅチ。アメリカセンダングサ。ヌカキビ。アキチョウジ。シマスズメノヒエ。チョウジタデ。水引草。浜ヒルガオ。イヌホウズキ。(草本はあまり調べていない)

  シダ類
いちばん目につくのはウラジロ。次はコシダ。この二つが支配的。あとはワラビ。ゼンマイ。イワガネゼンマイ。ヤマイタチシダ。シシガシラ。オニヤブソテツ。ナガバヤブソテツ。カニクサ。イノデ。ヒカゲノカズラ。ノキシノブ。イノモトソウ。オオバノイノモトソウ。オクマワラビ。フモトシダ。リョウメンシダ。ホラシノブ。など。

  竹の仲間
詳しい図鑑がなく、確認できたのは、モウソウチク。マダケ。スズタケ。ナリヒラダケぐらい。

  植栽された木(重複掲載)
場所は公園や遊歩道ぞい。よく目につくのは、ソメイヨシノ、サト桜(八重桜)、エドヒガン桜、イロハモミジ、椿、など。ほかには、ヒラドツツジ。サツキ。サザンカ。アジサイ。ガクアジサイ。キョウチクトウ。ハリエンジュ(アカシア)。クスノキ。シャリンバイ。マメツゲ。キンメツゲ。ハナノキ。ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)。黒松。ヒマラヤ杉。カイズカイブキ。ビャクシン。コノテガシワ。キャラボク。モミジバフウ。ラカンマキ(イヌマキの変種)、など。

  
裏山のご案内

裏山の名は青井山(あおいさん)という。山麓にある私の寺の山号も青井山であるし、この山があるのは小浜市青井であるから、この山名は古くからのものだと思う。ただし青井山の範囲ははっきりしない。この山は最高点の標高が一五二メートルという低山であるが、初心者が植物調べをするには手頃な山であったということがやっているうちに分かってきた。調査範囲は容易に近づけるところ、つまり道の両側五メートルかせいぜい十メートル以内である。
 
青井山の山上には、展望台、あずま屋二棟、遊歩道などがあり、以前はユースホステルも建っていた。これらが作られたのは五〇年か六〇年ほど前のことのようであるが、今ではユースホステルはなくなり、遊歩道を歩く人もほとんどいなくなり、裏山全体が私専用の散歩道になっている。贅沢な話である。
 
戦国時代にはこの山の上に青井山城という山城があったという。この城の詳細は伝わっていないが、その主郭があったのは現在、展望台が建っているあたりと考えてまずまちがいない。そこは城を作るのにぴったりの地形をしているからである。ただし残念なことに道路や施設などを作ったとき遺構の多くが破壊されてしまい、遺跡としての価値はほとんど残っていないという。
 
植物調査を始めたとき、まず山全体のゴミ拾いをした。山でゴミを見たくなかったからであり、いちど徹底的にゴミ拾いをしたら、それ以後ゴミを見ることは、車で入れる場所を除けばほとんどなくなった。ただし車のタイヤは拾って帰れなかった。
 
また最近、山麓の林道に車が捨てられていて、これには警察に連絡することしか対策を思いつかなかった。捨てられてすぐだったし、かなり大がかりに捜査をしていたので、犯人は分かったと思う。悲しいことに山や海をゴミ捨て場と考えている人がいるのである。

  
入山の際の注意点
 
最近は歩く人がほとんどなく道も荒れているので、入山するには多少の用心が必要である。
 
この山に熊はいるのかというと、絶対にいないとはいえないが熊はまずいないと思う。熊が来る山では木に熊の爪跡がたくさん残っているが、この山では爪跡をほとんど見ないからである。車の音がうるさく聞こえる、道路を横切らないと来られない低山であることが、熊の来ない理由だと思う。
 
鹿や猪は冬になると餌を求めて山麓まで下りて来るが、山の中で見たことはない。猿は山中でも群れを見ることがあるが、びくつかなければ向こうから避ける。なおこの山にウサギはいない。雪の上に一度も足跡を見たことのないのがそう断言する根拠。
 
蛇はアオダイショウもマムシもいるが、山の上の方にはまずいない。蛇の好物のカエルは、山麓の水のある所や湿った所にいるから、蛇もそういう所に多い。ただし絶対にいないとは限らないので、うかつに草むらに足や手を入れない方がいいと思う。
 
日本にいる毒ヘビは、マムシ、ヤマカガシ、ハブ、の三種。このうちハブは南の島にしかいないので問題外。ヤマカガシは四、五〇年前に毒ヘビと認定された蛇、しっぽをつかまえて振りまわしていた子供が咬まれて死んだので調べてみたら毒ヘビだった、というのが毒ヘビに認定された経緯だったと記憶している。この蛇はほとんど人を咬まないのでこれも問題外でいいと思う。
 
ということで問題はマムシ。たいていの蛇は人間を見るとさっさと逃げ出すが、逃げない蛇が一種類いる。それがマムシ。この蛇は人間に見つかっても丸くなってじっとしていることが多い。だから逃げずに丸くなっている、ずんぐりむっくりした蛇はマムシと考えてまずまちがいない。
 
この丸くなるのがマムシの攻撃態勢、いわゆるとぐろを巻いている状態であり、近づくものがあれば鎌首をふりあげて二本の毒牙を突き立て、牙は注射針になっていて毒液を注入する。しかも動きののろいマムシは、草むらに隠れて待ち伏せ攻撃をする習性を持ち、動くものなら相手が人間であっても攻撃してくる。
 
この待ち伏せ攻撃をすることが、マムシが農業や林業の人に嫌われる一番の理由。年間三千人もの人が毒牙にかかり、死者も十人ほど出ているといわれ、そのため農業や林業の人は、マムシを見つけると必ず頭を踏んづけて殺してしまう。
 
ただしマムシの攻撃範囲はせいぜい三〇センチ、ジャンプして攻撃なんてことはなく、五〇センチ離れていれば咬まれることはない。だからマムシ対策の要点は、咬まれる前に見つけること、長めの靴を履くこと、の二点。
 
熊やマムシよりもこわいのが蜂。思いがけない所に巣を作っていて、気づかずに近づいて攻撃され、気がついたときには刺されていたということになる。刺されると強い痛みが続き、ときにはショック死することもあり、年に二〇人ほどの死者が出ているといわれる。攻撃されたときの対策は、あわてふためきながらでも、とにかく襲われた場所を離れること。蜂は殺虫剤に弱いのでハチ撃退スプレーがあれば役に立つかもしれない。刺されたときは毒を絞り出すようにしながら水で洗い流すといいとか。ただしこの山で蜂の巣を見たことはない。
 
この山でマダニに食われたことはないがマダニもいると思う。マダニは葉の上で待ち伏せしていて取りつき、食いついて血を吸う。食いつかれるとかゆみが続くし、感染症による死者も出ている。対策はできるだけ早く取り除くこと、そのためには下山後シャワーを浴びながら体全体を手で点検し、こんなところに小さなイボができているという感じのものに注意すること。
 
そしてイボのようなものが付いていたら、「私も年だ」などと思わずによく調べること。マダニは頭が残ると重症化することがあるから、食いつかれたら医者にとってもらえと言われるが、私は病院に行ったことはない。ただし完治に二ヵ月というのが最長記録。マダニは種類によって食いつく場所の好みが違うとか。
 
また夏には蚊に食われるし、夕方とか天気が悪いときにはブユも出てくる。ブユは体は小さいが手強い相手である。蚊のかゆみは十五分でおさまるが、ブユは慣れない人だと、はれとかゆみが三週間もつづくからである。


もどる