ジャータカ物語六十

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、コーサラ国王に語った話である。コーサラ国のある大臣は役に立つ人物だったので王に重んじられていた。ところがそれをねたんだ他の大臣たちが、仲を裂こうと王にその大臣の悪口を言った。

そのため王はその大臣を捕らえてみたが、何の罪も見つからなかったので考えた。「彼には何の罪も見つからない。どうすればこの男が敵か味方か知ることができるのだろう。このことに答えられるのは如来のほかにはない」

そこで王は朝食をおえると世尊のところへ行き質問した。「尊師。どうすれば敵と味方を判別することができるのでしょう」

「大王よ。過去にもある王が、同じ質問をある賢者にしたことがあった」。そう言って世尊は過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩は大臣となって王の信頼を一身に受けていた。そのため二人の仲を裂こうと、他の大臣たちがその大臣の悪口を言ったので、迷った王が詩でもってその大臣に質問した。

「賢者たるものは

 どのようなおこないで

 敵を判断するのだろうか」

その大臣が答えた。

「その人を見てもほほえまない

 その人を歓迎しない

 その人に目もくれない

 ことごとにその人に逆らう

 その人の敵と親しむ

 その人の味方と交わらない

 その人をほめる者を退ける

 そのひとの悪口を言う者を称える

 その人に秘密を語らない

 その人の秘密を守らない

 その人のおこないをほめない

 その人の智慧を称えない

 その人の繁栄を喜ばない

 その人の繁栄しないことを喜ぶ

 珍しい食べ物を手に入れてもその人に与えない

 その人に同情しない

 賢者は以上の十六のことによって、相手がその人の敵だと判断します」

王はまた詩をとなえた。

「賢者たるものは

 どのようなおこないで

 味方を判断するのだろうか」

その大臣が答えた。

「不在のときにはその人をしのぶ

 その人が帰ってきたら喜ぶ

 その人をやさしくいたわる

 その人を言葉で歓迎する

 その人の味方と親しむ

 その人の敵と交わらない

 その人の悪口を言う者をしりぞける

 その人をほめる者を称える

 その人に秘密を語る

 その人の秘密を守る

 その人のおこないをほめる

 その人の智慧を称える

 その人の繁栄を喜ぶ

 その人の繁栄しないことを喜ばない

 珍しい食べ物が手に入るとその人に与える

 その人に同情する

 賢者は以上の十六のことによって、相手がその人の味方だと判断します」

王はこれらの言葉に満足し、その大臣に大きな栄誉を与えた。話がおわると世尊が言われた。「そのときの王は阿難尊者であり、賢明な大臣は実にわたくしであった。

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第四七三話

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